5番目の車輪
番外編に掲載していました。
申し訳ないです。
ユイは、地下1階の薄暗い廊下を街中でも歩くかのように歩き回る。
フルフェイスマスクは途中で暑苦しくなって捨てた。
今は灰色のパーカーを目深に被っている。
(どこにある?)
1通りの扉をあけて調べてみたが幻想郷に関する資料は一切見つからない。
(まさか…嘘の情報でも握らされたか?)
そんなことも考えながらもう一度扉を開けて確認し直す。
5番目の扉を再び開けたところで大勢の警備員が機関銃を構えているのをユイは見た。
銃口はユイの頭に定められている。
「撃て!」
「っ!」
発砲される前に素早く1人の懐に潜り込み、魔法陣からゲルカナイフを取り出すと警備員の喉を裂く。
その体を盾に次々とナイフで刺し、斬っていく。
1分と経たずに十数人いた警備員はユイによって血溜まりに沈んだ。
(待ち伏せされていたって事は確実に侵入がバレているって事だ。それにしても何なんだ、こいつら、上の警備員と違う。こいつらは…おそらく兵士だ。普通は仲間の体を盾にされてたら易々とは撃てない。訓練されないと出来ない動きだ。)
ユイは動揺していた。
さっき調べた時、こんなに警備員がいたら嫌でも気付く。
(と言うことは…)
ユイは部屋を丹念に調べる。
5分ほど調べたところでユイは警備員のカラクリが分かった。
(これ、昇降機だ。)
部屋がそのままエレベーターとなっていた。
(俺が彼処にいる間にこんなに人間の技術っていうのは進歩しているのか…)
そんな事を考えながら隠しボタンも見つけ「下」のボタンを押す。
(こんなカラクリを作るくらいならここに何か情報があるはずだ。)
部屋が下に下っていく感覚をユイは感じた。
扉が開くと警戒しながら、様子を伺う。
案の定、銃声が聞こえてユイのすぐ横に銃弾が当たる。
再装填が終わる前にユイは素早く銃声がした方に持っていたゲルカナイフを投げて突破する。
ガシャン!
派手な音を立てて銃を壊す。
(機械か…無機物が生き物を殺す時代になっているのか。)
ユイは新しく文字で同じようなナイフを作ると、腰に収めた。
通路の1番手前にあるドアに手をかけて引くと鍵がかかっている事が分かった。
「解」の字を使って簡単に扉を開ける。
扉を開けるとそこには大量の紙があった。
1枚手に取ってみると「幻想郷のスペルカード戦について。」と書かれた論文が書かれている。
他にも「支配者」「確認出来る住人達」などといった資料もあった。
(他の部屋も似た様子だろう。)
その時、入り口から声が聞こえた。
振り返ると機関銃を持った警備員がこちらを見ていた。
「侵入者発見。直ちに排除する。」
『了解。確実に仕留めよ。オーバー。』
次々撃たれる銃弾を避けながらユイは警備員に接近する。
銃は不利だと感じたのか、警備員は武器を警棒に持ち替える。
(コイツ…出来る!)
接近戦は長い間続いた。
(なにか接近戦闘術を齧ってるな。おそらく相手を無力化させる事に特化したやり方…なら!)
ユイはわざと警棒の1撃を食らう。
「っ!」
ポキリ、と音がして攻撃を受けた左腕がありえない方向を向く。
しかし、ユイにはその時短い時間が稼げただけで良かった。
素早くナイフを下から突き上げると、警備員の喉元を掻き切る。
驚愕に目を見開いた一瞬後、警備員はゆっくりとうつぶせに倒れた。
「はぁ…はぁ…」
ユイは荒い息を吐くと壁に背中を付ける。
(折れたか…)
そんなことを思いながら折れた腕を定位置に戻すと、竜人の文字で「治」を出現させる。
メキメキと嫌な音を立てて骨が治っていく。
腕を完治させるとヒラヒラと落ちてきた紙を試しに掴んでみる。
(これは組織のリストか…ひょっとしたらいい情報になるかもしれん。)
ユイはなんとなくリストに目を通してみた。
1番下まで目を動かしたところで不意にユイの目が大きく見開かれた。
「…5番目の車輪。」
自然とそんな言葉が口から滑り落ちる。
(…アイツが…この組織のトップなのか?)
5番目の車輪。
通常、「おじゃま虫」を指す言葉だ。
(アイツならやりかねない。幻想郷を支配しかねん。面白半分で虐殺だってやる奴だ…紫さん、幻想郷を狙っている奴はかなり面倒な相手だぞ…)
ユイは散らかった部屋の中で長いため息を吐くとゆっくりと立ち上がった。
寝ぼけているのかな…
寝起きのねこのくせに…




