殺と恋:恋編
ねこのハルヴィアさんのイメージはナイスバディな姉さんです。
ちなみにぼつタイトルは「半分死して尚愛す」です。
軽く括っちゃったからしょうがないか。
妖夢とハルビィアは喫茶店で向かい合って座っていた。
「あの…」
「なんだい?」
紅茶とコーヒーを持って戻って来たハルビィアが席に着くのを待ってから妖夢は質問を切り出す。
「ここ、何処なんですか?」
「私が経営している喫茶店だよ。ただし開店日は私の気が向いたときだ。革製品の加工なんかもやってるけど、一応副業って感じかな。」
「そうですか…」
沈黙が生まれる。
「あのさ。」
今度はハルビィアが声をかける。
「は、はい!」
「お前さん、人と話すの苦手だろ。」
「…はい。」
「素直だねぇ。ユイも良い娘っ子を射止めたもんだ。アイツに自覚は無いみたいだがな。」
そういうと笑ってコーヒーを啜る。
妖夢は余った方の紅茶に手を伸ばした。
「さて、妖夢ちゃんはアイツの何処に惚れたのかな?」
その途端、妖夢は派手にむせる。
「おいおい、恋を手伝ってやる話でお茶してるんだから当然だろ。」
そう言いながら席を回って妖夢の背中を軽く叩く。
「だからっていきなり過ぎじゃないですか!?」
ようやく収まったところで妖夢がハルビィアを睨む。
「ごめんごめん。ちょいと焦り過ぎたか?」
「焦り過ぎです!」
その返答にハルビィアは落ち込んだ様子を見せる。
「…ごめん。」
「いえっ! 私もつい強く言ってしまいましたので!」
妖夢が慌ててハルビィアをなだめる。
「じゃあ、おあいこって事でいいかな?」
「はい。それでお願いします。」
それを聞くとハルビィアはニヤリと笑った。
その時になって妖夢は初めて気付いた。
ここまでの会話、全部ハルビィアの手の中だ。
「私の特技のひとつなんだ。相手の性格、心情、話の状況なんかを把握して会話のテンポを握るのさ。これ以上お前さんには使わないよ。使っても効果はないからな。」
そういうとハルビィアは自分の席に戻って妖夢を見つめる。
「私の話になってるじゃないか。いけないねぇ。自分は自分の事を話したがる。他人の話は聞かないくせにね。じゃあ改めて、ユイの事はどう思ってるんだい?」
妖夢はまたむせる事はなかったが顔を赤くして答えた。
「それは…その…嫌いでは…ありませんが…」
「じゃあ、無関心かな?」
悪戯を企むような笑みを浮かべてハルビィアは聞く。
「そんな事はありません!…あっ。」
「なるほどねぇ。」
ハルビィアはそういうと机に片腕をついて妖夢に視線を向ける。
「で、さっきの質問だけどもアイツの何処に惚れたの?」
楽しげな口調でハルビィアが促す。
「えっと…強いのに弱い…みたいな所、ですかね…」
「あぁ、あれは…最後に会った時はあんんなんじゃなかったんだがね…彼処にで相当酷い目に遭ったんだろうね…」
そういうとハルビィアは顔を曇らせた。
「すごい無理をしているみたいで、それで私の力で守ってあげたいなって。剣術を教わっている身ではあるんですがね。」
そういうと妖夢はむせさせられた紅茶にそっと口をつける。
「昔のアイツは、強かった。もちろん今も強いけど、心が脆くなってしまった。アイツは、地獄を見て来たんだろうね。私達には想像もつかない地獄を。まあ、過ぎた話さ。」
そういうとまたコーヒーを口に含む。
そうして、しばらくの間2人がお茶を飲む時間が続いた。
「あの…」
「ん? なんだい?」
「ハルビィアさんってユイさんとはどういう関係なんですか?」
「ん〜、1番近いものだと家族かな? 実は私は鳳凰なんだ。まあ鳳凰ってのは単独で暮らしていると思われ気味だが実は広い範囲を群れで生活していてね。そこから追い出されて殺されそうになった所を匿ってもらってたんだ。それ以来アイツには世話になってる。大丈夫さ。妖夢ちゃんから取り上げるような真似はせんよ。」
どうやら妖夢の考えを読まれていたようだ。
「…私は、この想いをどうすれば良いんですか?」
かなり心を開いた妖夢が核心をついた悩みをハルヴィアにぶつける。
「…そうさね。アイツは容姿や体じゃなく才能で惚れる。それを見せてみたらどうだい。」
「私には何もありません。」
それを聞くとハルヴィアは妖夢の目を真っ直ぐに見つめる。
「いや、あるよ。努力する力とユイを愛する一途な心だ。」
妖夢が赤面する。
「努力する力は『己が認めない』って言う心が何処かにあるからいつまでも努力し続ける。でも逆にどこまでも才能を開くことが出来るってことだ。そこでその多彩な才能を開花させる『努力』を剣術で魅せてやれ。お前さんの方でも射止めてやれ。」
そう言うとハルヴィアはニコッと輝くような笑みを浮かべる。
「…私に出来るでしょうか?」
その問いにハルヴィアはしばらく考え込んだ様子を見せた後、一度席を立って奥から一冊の本を持ってきた。
「妖夢ちゃんは『ロミオとジュリエット』って言う物語を知ってる?」
「いえ。」
それを聞くとハルヴィアは持っていた本を机に置く。
タイトルはもちろん「ロミオとジュリエット」だ。
「これは演劇の台本として作られたんだ。2人の決して叶わない恋を書いたお話何だけどね。ロミオとジュリエットは互いの家柄の敵に恋しちまった訳だ。でも2人はそれを知った上で愛情を大切にし続けたんだよ。私は2人とも努力し続けたからなんじゃないかなって思っているんだ。結局2人とも悲劇の内に命を断つ。それもお互いの為を思ったために。でも、それでもいいんじゃないかと私は思っているんだ。こっからは私の作り話でしかないんだけど。冥界で再開した2人はどうして死んでしまったのかを知るんだ。それでも2人は喜んだんじゃないかな。恋人にあの世でも再開できたんだから。さらにお互いを思って自らの命を絶つことで煩わしい家族にあーだこーだ言われる心配もないんだから。確かに話の結末はとても悲しい。でも、お互いを思う気持ちが2人をハッピーエンドにしたんじゃないかな。」
妄想だけどね、とハルヴィアは続けるとコーヒーを飲む。
「つまり、その2人のようにユイさんを…思う心を持ち続けなさいと?」
「そう言うことさね。物分かりが良くて助かるよ。アイツに告白する決心をしたら私に知らせてくれ。振られたら慰めてやるし、次の告白の手助けをしてやる。アイツが逃げたら捕まえて戻してやるし、アイツが渋るならアイツの背中を押してやるよ。」
妖夢の頰に涙が流れる。
「あれ…おかしいな…なんで…私は…泣いている…でしょうか…」
妖夢は声をあげて泣く。
ハルヴィアはただ黙って妖夢の背中を撫でた。
「嬉しい時も生き物は泣くもんさ。」
妖夢は泣き続けた。
涙が枯れるまで泣き続けた。
そんな妖夢をハルヴィアはなで続ける。
泣き止むと、妖夢は席から立ち上がってハルヴィアに頭を下げる。
「…ありがとうございました。」
「はいよ、でもまず顔洗ってきなさいな。スッキリするよ。」
「そうさせてもらいます。」
そう言うと妖夢は厠に向かった。
ハルヴィアは優しい声で独り言を語り出した。
「ユイも随分と良い娘っ子を射止めたね…大事にして逃がすんじゃないよ。ロミオとジュリエットみたいにね。」
朝日が窓を越えて差し込んでくる。
ハルヴィアの顔を照らしあげた。
「お日様もこんな相談役よりも先に小さな主役を照らしてやれば良いのにね。」
そう言うとハルヴィアは手を上に突き上げて大きく体を伸ばした。
さあさあさあ!
妖夢ちゃんはユイが帰ってきたときに一体どんな行動に出るのか!
作者のニヤニヤが止まりません!




