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東方竜人郷  作者: 寝起きのねこ
竜人達の因縁
19/93

一日

ユイ君の視点で書いてみました。

この長文にねこさんのライフはもうゼロよ…

Y…やれば

K…書ける

N…ねこ

「ふあぁぁ〜、よく寝た。」

俺は竜人のユイ。

かつて鬼龍と呼ばれたもんだ。

その強さを利用しようとした輩に「磔の牢獄」に閉じ込められて約3000年と言う俺の短い人生の大半をそこで過ごした。

とは言っても竜人は「寿命では死なない」、つまり不老長寿ならぬ不老永寿に近いものを持っているから4000年のうちの3000年をあそこで過ごしてきたに過ぎないと俺はそう思っている。

竜人生はいくらでもあるからそれより長い時間を生き続ければ良いだけだ。

そして2974年経った時、幻想郷を作った八雲 紫さんによって解放された俺は幻想郷の警備を任された。

しかし、やり方が悪かったらしく罰として今俺が1日を過ごしている所「白玉楼」で庭師の魂魄 妖夢に剣術を教えていると言うわけだ。

手早く布団をたたむと井戸へ向かう。

布団は気持ち良い睡眠を提供する代わりにいちいち片付けなくてはいけないと言うなんとも面倒なものだ。

吊るし布…最近は「ハンモック」って言うのか? を使った方がいいと思うのだが寝心地に勝てず面倒ながらも毎朝片付けている。

井戸に着くと先客が手ぬぐいで顔を拭いていた。

「ユイさん! …おはようございます。」

「おう、おはようさん。」

この白髪の娘っ子が俺が剣術指導をしている白玉楼の庭師だ。

昨日の夜に随分と彼女に弱音を吐いてしまったので何と無く気まずい。

言ってしまえば俺の弱みをほぼ握られていることになる。

しばらく、この娘っこに口で勝つのは難しそうだ。

青い双眸がじっと俺の顔を見つめる。

「…どうかしたか? 顔に何か付いてるか?」

「いえ! 何もないです!」

やや上ずった声で返される。

弱みを握られているのはこちらなのになぜ焦る必要がある?

冷たい水で顔を洗うと次は朝食の準備だ。

妖夢の指示に従って野菜を切ったり、味噌汁の味噌を溶かしたりと慌ただしく手伝いをこなす。

なんとなく自分用に一品作ろうと魚を捌いていると妖夢が手元を覗き込んで来るのを感じた。

視界に入って邪魔になる訳でも作業の邪魔になる訳でもないので何も言わずに魚を捌き続ける。

「随分と手際が良いんですね。」

「ん? あぁ、戦場で飯がない時はよくやったもんさ。とは言ってもこの後、火にかけるだけだがな。」

「一匹だけなんですか?」

顔は見えないがなんとなく疑問を持っている顔をしている気がする。

「…二匹用意しておこう。」

そう言うと魔法陣から魚籠びくを取り出してもう二匹追加する。

「ありがとうございます!」

妖夢の弾んだ声が聞こえるのは魚が食べられるからだ…きっと。

朝食が完成すると、居間に運んで座卓に並べる。

「おはようございます、幽々子様。」

「おはよう妖夢。ユイもおはよう。」

「おはようさん。呼び捨てなのな。」

すでに座布団を敷いて座っていた白玉楼の主人、西行寺 幽々子が挨拶をする。

朝食を並べ終わると座布団を持ってきて敷き、全員が着席したところで幽々子が食事の挨拶をする。

「では、頂きます。」

「頂きます。」

そう言って手を胸の前で合わせると箸を持って食べ始める。

兵士時代に人間に会った時も飯を食う前に何かそんな事をしていたのをぼんやりと思い出した。

あの時の人間は手を組んで親指の場所に箸を挟んで呪文みたいなものを唱えてから食い始めてたな。

「…頂きます。」

初めて使う言葉をつぶやいて同じように飯に手を付ける。

簡素なものだったが不思議と安心するような味がする。

朝食を終えて口をすすいだらいよいよ剣術の修行だ。

妖夢と木刀を構えて向かい合い、手合わせをして悪い所を述べていく。

「その剣術は肘に負担がかかるな。」

正直言って妖夢がやっている剣術は彼女にとって負担になるものしかない。

祖父から教わった剣術だと言う。

そいつの顔が見てみたいもんだ。

自分に合う剣術ならその孫子にも合うはずだと言うのはかなりの暴論だ。

「良いか、お前さんには自分の流儀を身につけて欲しい。」

「自分の流儀…ですか?」

「そうだ。言い方によっちゃ『妖夢流』とも言える。」

「『妖夢流』…」

そう言う白玉楼の庭師の目は細められていた。

「指導するって言ったところで俺としては助言をくれてやるだけだ。そこからどんな剣技を生み出すのかはお前さん次第になる。わかるか?」

「はい。でもどうすれば良いんですか?」

優秀な剣士だ。

俺は肩に担いだ木刀を勢いよく振り下ろした。

ガッ!

妖夢が咄嗟に持っていた木刀で防ぐ。

良い反射神経してるな。

「いきなり何をするんですか!?」

俺はもう少し力を込めて木刀をグイと押す。

「今、お前さんは体のどこが痛い?」

「何を…」

「答えて。」

「…肩と膝です。」

「よろしい。」

そう言うと俺は木刀を退ける。

「今のままだとそこを狙われたら一巻の終わりだと思え。ならどうするべきか。お前さんのそこにどう負担を掛けずに体を動かし、剣を動かして凌ぐのか。それを考えてみな。」

妖夢はその場で考え込んだ。

「…こう体を動かしてみてはどうでしょうか?」

そう言うと妖夢はその型を俺の前で見せる。

「なるほど。じゃあ実験だ。それで凌げるかを試す。」

そう言うと、俺は再び妖夢に木刀を振り下ろす。

すると、スルッと俺の手の中で木刀が滑った。

そうはさせるか。

俺は木刀を固く握り直し手首を返すと妖夢の脇腹に木刀を叩き込む。

寸前で妖夢は後ろに飛びのいてこちらを見る。

そんな裏切られたような目で見るな。

「完璧だ。どこか集中的に負担がかかった感覚はあったか?」

「…いえ。たださっきのはどうやってやったんですか?」

「次の課題だ。1撃を防いだのは良い。しかし、相手も最初が防がれることぐらいは想定している。じゃあさっきの攻撃にはどう対処すれば良いのか? 考えてみな。」

妖夢はじっと腕を組んで考える。

意外と腕が細いんだな。

よくあれで剣を振り回せるもんだ。

剣を握っているとどうしても腕が鍛えられる。

それを一切感じないことに関しては素直に感心だな。

妖夢の爺さんは軽い竹刀で剣術を教えていたのか?

そんなことを考えていると妖夢が声をかけてきた。

「すいません。分からないので少しやってみて良いですか?」

「はいよ。」

そう言ってさっきと同じように1撃目を滑らせた後、手首を返して脇腹に木刀を叩き込もうとする。

その時、妖夢は刃同士が鎬を削っている場所をスッと移動させた。

突然の重心の変化に木刀があらぬ方向を向く。

「…ほう。」

自然と笑みがこぼれる。

なるほど、教師が楽しげにガキどもに何かを教える訳だ。

見る間に成長していく。

木刀が今度こそ宙を舞った。

しかし、俺は諦めが悪い方でね。

俺はジャンプすると空中で一回転しながら木刀を持ち、妖夢の後ろに立った。

振り返る前に彼女の首の前に木刀を回す。

もちろん刃は首元に添えてある。

「…滅多にいないがこう諦めの悪いやつも世の中には多くてな。そうやって命を散らして言った奴は結構いる。」

そう言いながら木刀を退けると妖夢は体の力を抜いた。

ただ力を入れすぎていたのか俺の方に倒れこんでくる。

「おいおい。」

「…すいません。」

苦笑気味に背中に手を添えて支えてやる。

めんどくさい。

そんな想いもあるのに悪い気はしない。

何だろうなこの変な気持ちは…

下から抱え上げて縁側に座らせてやる。

「冷たいお茶でも持ってくる。」

そう言って台所へ向かうと麦茶をお盆に乗せる。

戻ってくると妖夢が木刀を振っていた。

「休んでな。体に負荷をかけて鍛えられるのが筋肉だけだ。剣術じゃない。」

「…すいません。」

「さっきも聞いた。悪いことじゃないさ。向上心がなければ俺はお前さんに教えてないからな。」

お盆を挟んで縁側に座る。

上を見て見ると雲がのんびりと空を漂っていた。

たまに、烏天狗や巫女服を着た少女に妖精なんかが飛び回っている。

「…平和だなぁ。」

自然と言葉が口から滑り出る。

「そうですね…」

妖夢が独り言に答える。

首の角度を変えてそっちの方を見て見ると顔を赤くした妖夢が俯いている。

白い髪が尚更顔の赤さを際立たせていた。

「独り言に返事をするなんて変ですか?」

かぼそい声で聞かれた。

「知らんね。変かどうかなんて自分が決める事さ。周りに流されて『変』っていう物は決まっていくんだ。それが『社会の常識』になるんだろうな。」

馬鹿馬鹿しい、と鼻を鳴らしてゆっくりと上体を倒す。

顔を上にすると空の様子が一層はっきりと見える。

常識はその種族をまとめるには確かに大事なのかもしれない。

でも、それが世界にも通用すると思ってしまうのが怖いところだ。

「だから他の種族の間で戦なんて起こるんだ…」

「え?」

口に出ていたみたいだな。

「何でもない。」

そう言って上体を起こすとお盆に乗った透明な湯呑み(砂を高温で熱したガラスというものを加工して作られているらしい)の中身を一気に飲み干した。

庭に出ると木刀を構えてゆっくりと体を動かす。

相手がこう動いたのならどう動くか。

どの瞬間に攻撃をするのか。

それを防がれたらどうすれば良いのか。

体が慣れてくるにつれてどんどん速さを上げていく。

実戦の速さになった所で動きを止める。

縁側を見ると妖夢がポカンとした表情でこちらを見ている。

「速い…」

そんなに速いものなのか?

俺より上の七賢人はもっと化け物じみた速さで攻撃してくるけどな。

その後、前半と同じ要領で指導をした後に昼食の準備に入る。

朝食の時とはまた違う料理を作るらしい。

正直、和食は似たようなものしかないと思っていたからそこは驚いた。

卵を溶いたものを熱しながらたたんで重ねていく。

「玉子焼きですよ。」

「玉子焼き?」

「はい。簡素なものですがとても美味しいですよ。」

「それは期待しておこうか。」

そういうと米を炊いている竃の火加減を調整するために地面に膝をついた。

昼食ができると朝食の時のように座卓に持っていく。

「今日の昼食は何かしら?」

朝の時と同じようにすでに座布団を敷いて待っている幽々子が妖夢に聞く。

意外と食い意地張ってるのか?

「玉子焼きです。」

「妖夢の十八番ね。」

そういうと、にっこりと微笑む。

「頂きます。」

幽々子がいうと俺と妖夢もそれに続く。

十八番だという玉子焼きを口に入れて見ると、なるほどこれはうまい。

卵自体の味がよく滲み出ている。

こうして舌鼓を打って昼食が終わればあとは自由時間だ。

その前に食器を洗う。

最近は石鹸なんて便利なものがあるんだな。

灰なんかで前はやってたんだが。

河童が作っているって聞いたからこの期限が終わったら買いに行って見るか。

そんなことを考えながら心のどこかでここを去るのが名残惜しい気持ちもある。

本当に何なんだ…この矛盾した気持ちは。

イライラして皿を砕かないように気をつけながら食器を洗い終える。

居間で座布団を半分に折りたたむと枕がわりにして仮眠をとった。

「…ユイさん。」

「…んあ?」

誰かの声で目を覚ます。

ゴシゴシと目を擦ると妖夢がこちらを覗き込んでいた。

急に妖夢がクスッと笑う。

「…にゃに?」

「よだれ出てますよ。」

口元のよだれを拭きながら体を起こす。

障子の外を見て見ると日が暮れかけている。

随分と長い間寝てたんだな…

そんなことを思いながら外の景色を見ていると妖夢が要件を告げた。

「よければお茶にしませんか?」

「…ん。」

寝ぼけた頭で何とか答える。

随分と鈍ったんだな。

戦場で寝起きが悪いと一瞬で命を刈り取られるから寝起きと寝付きはよかったんだが。

すでにお茶の準備はできていたみたいだ。

畳んんだ座布団を直してその上に胡坐座で座る。

「…うまい。」

お茶からは梅の香りが漂っている。

「喜んでもらえたようで何よりです。」

そういうと妖夢は座卓を挟んで向かいに座る。

「あれ?幽々子さんは?」

「これは私からのまかないですので幽々子様はいらっしゃりませんよ。」

湯呑みを傾けながら答えを聞く。

「そういえばユイさんは尊敬している方っていらっしゃるんですか?」

「尊敬している奴?」

「ユイさんの上を行く人達ってどのくらいすごいのかなって思いまして…」

その問いに俺は考える。

「師匠…かな。」

「お師匠さん。名前はなんていうんですか?」

「名前…確か持ってなかったな。言葉を借りるなら『捨てた』らしい。竜人だけど竜人族の群れを捨てて隠居したんだ。その人に戦い方から飯の作り方まで学んだんだ。」

「すごい方なんですね。」

その言葉にユイは苦笑する。

「いや、何を考えているのか分からない飄々としたジジイだよ。俺の性格もアイツから受け継いだんだろうな。」

そういうと妖夢は興味深そうな顔をして聞いてくる。

「どうやって出会ったんですか?」

「なんてことはないただの腕試しさ。それで見事にやられてね。あの爺さん容赦なかったよ。」

俺はケラケラと笑った。

「負けたりして悔しくなかったんですか?」

「なかったねぇ。なんたって四肢を飛ばされたんだから。今でも傷跡は残ってる。」

「えっ? じゃあ今のその手足は…」

「いや、義手義足じゃない。あの爺さんが治してくれたんだ。あのまま放置されてたら間違いなく今ここには居ないだろうねぇ。」

俺はせんべいを手に取ると大きくかじりとる。

その様子に妖夢はお茶を飲んでないことに気づいたらしい。

湯呑みを傾ける。

俺の話に集中しすぎだ。

「それから?」

「まあ、お前さんが俺と手合わせして考えた事と同じ結論に至ったよ。アイツを糧として強くなる。ただ俺には豊潤すぎたみたいだな。全部学び切る前に自然界へ帰って行ったよ。」

「でも…」

「そう、竜人は寿命では死なない。でもあの爺さんは自然こそ最強の力って考えを持ってたんだ。そこで意識だけをその場に残し、知恵、力を全て自然界と同化しようとしたんだ。ただ、失敗して意識はあの世に飛んでったみたいだがな。その瞬間は良く覚えてるぜ。『失敗だ! ユイよ! 儂を愚者として後世に名を残してくれ!』って笑いながら叫んでバラバラになったんだ。生き物っていうのはもっと小さな生き物がわんさかくっついてできているんだが、そのくっついていた小さい生き物が一つ残らずバラバラになる。それから地面に消えていくんだ。なかなかトラウマになる光景だったぜ。ただアイツの言葉は俺は守らなかった。アイツが自分の事をどう思っていようと俺にとっては尊敬する師匠だったからな。」

そこまで話すとお茶を飲み干す。

「おかわりある?」

湯呑みを妖夢に渡すと急須からお茶が零れる。

「どうぞ。」

「ありがとさん。」

こうしてしばらくの間お茶の時間を楽しんだ。

なんとなく妖夢の顔色が悪いけど、トラウマ植え付けちゃったかな?

その後は風呂場の掃除と風呂焚きをお願いされた。

その間に妖夢の方で夕食を作るらしい。

たわしで垢を落として汚れを洗い流す。

普段から磨き込まれているのか汚れは目立つ程出て来なかった。

風呂の火を焚いていると妖夢から料理の完成を報告された。

随分早いな。

そんな事を考えながら風呂釜の底に「熱」の字を貼っつけて居間に向かう。

これが「文字を操る程度の能力」の良い所だ。

火事を起こすこともない。

居間に着くと、座卓には鍋がおいてあった。

「うまそうな匂いがするな。」

「モツ鍋ですよ。鍋は料理の中では比較的簡単に作れるんですよ。」

そういうと妖夢は台所から取り皿を持ってくる。

手持ち無沙汰になった俺は座布団に座って鍋を覗き込む。

「まだ手は付けちゃダメよ。」

いつの間にか座布団に腰を下ろしていた幽々子が俺をたしなめる。

「わかってら。それよりそれ、お前さんにも言えるんじゃねえのか? 口元に野菜のカケラがくっついているのを俺が気づかないとでも?」

その言葉に幽々子はハッとしたように口元を手で隠す。

してやったり。

ニヤニヤ笑っていると、妖夢が取り皿を持って来た。

「ユイさん? どうかしました?」

「いや。幽々子さんに聞けば良いんじゃないのか?」

「幽々子様。どうかなさったんですか?」

「いいえ、妖夢。なにもないわ。」

幽々子の目が痛い。

「頂きます。」

「「頂きます。」」

もう慣れた3回目の食前の挨拶をすると鍋をつつき始める。

妖夢の料理の腕は相変わらずすごい。

モツが柔らかくて口に入れた瞬間バラバラになりそうだ。

なんとなく考え事をしながら飯をかき込んでいると妖夢に注意された。

「数少ない団欒の時間なんですから大切にしてください!」

「…あぁ、すまん。」

団欒の時間っていうのは飯の時間にもあるのか…

俺の親は自由結婚ができる時代だったのに俺を戦略結婚させるような奴だったからそういったものは一切なかったな。

そんなことを考えるとなんとも安心したような気持ちになる。

本当になんなんだ、この気持ち…

「また考え事してましたね?」

バレてた。

「すまん。団欒っていうのはこういうものなのか?」

「こういうものって?」

幽々子は知らん顔をして鍋をつつき続けている。

「いや、こんなこと初めてだからどういうものなのか分からなくて。」

「そうですね…こういうものですよ。口には上手く言えないけど、恐らくユイさんがいま感じている気持ちが団欒による気持ち、ではないでしょうか?」

この気持ちが団欒によって…

むう、分かるような分からんような…

これ以上考え事をしても意味はないか。

そう一旦思考を打ち切って妖夢の言う「団欒の時間」と言うものを楽しむことにした。

そのあとは風呂の時間だ。

順番は幽々子、俺、妖夢の順番らしい。

形だけ主従関係が残ってるって感じなのか?

いつもは妖夢が幽々子が風呂に入っている時に火を焚き続けるらしいが今回は俺の文字で熱してあるので仕事は無くなった。

えらく妖夢に感謝されたが、そんなに過酷なのだろうか?

幽々子が上がるまでに鍋を洗ってゆっくりと待つ。

風呂から上がったら酒でも飲もうか…

そう思って台所でヤツメウナギを串刺しにして炙る。

ここでは高級品になる塩を薄く馴染ませて火で炙るとなんとも良い匂いがする。

塩は一応自分のものだ。

兵士時代に収納用の魔法陣を無理矢理拡張する時に海水を大量に飲み込んでいたのでその一部を少し出して熱して塩にした。

売れば大金持ちだな…

そんなことを考えてはいるが大金を持って身を潰した知人はいくらでもいるので売るのは最終手段にとっておく。

「ユイ〜、お風呂空いたわよ〜。」

「はいよ〜。」

流石に今行くのは色々マズイのでもう少し間を置くことにした。

文字で風呂は温かいままだから大丈夫だろう。

良い具合に焼けたヤツメウナギを魔法陣に放り込むと風呂場へ向かう。

改めて広いな、ここ。

自分の行動範囲が如何に狭いかがうかがい知れる。

脱衣所で手早く服を脱ぐと、浴槽に身を漬ける。

良い具合に暖かい。

そういえば師匠は向こうで何してるかな…

腕の付け根にある傷を見ながらそんなことを考える。

意外と向こうで大暴れして閻魔の手に負えなくなってるかもな。

あのジジイは子供っぽいところがあるから抑えるのが大変だろう。

想像したらなんか楽しくなってきた。

声を押し殺して笑う。

風呂から上がって脱衣所の襖を開けると妖夢が着替えを手に立っていた。

「ん? 上がるの待ってたのか? 長風呂ですまんな。」

そういうと俺は部屋に向かって歩き出そうとした。

しかし、右手が言うことを聞かない。

振り返ってみると妖夢が俺の服の袖口を握っていた。

やたらと顔が赤いのも気のせいではないな。

しかし、理由が見当たらない。

「…えっと、それ昼間の服ですよね?」

「そうだけども。」

「…寝巻きを幽々子様の方で準備してくださったのでどうぞ。」

そう言うと押し付けるようにして渡すと去っていった。

「なんだかなぁ。」

そう呟くと改めて部屋に向かう。

障子を閉めると着ていた物を脱いで寝巻きに着替える。

紺地に炎の龍とは洒落てるじゃないか。

着替え終えると袖の内側に何か刺繍してあるのが見えた。

小さい花びらと大きな花びらが組み合わさった花で花の中心に行くにつれて薄紅色から白へ変わっている。

花の中央には黄色い柱頭が書いてある。

「よく作り込んであるな。ホント。」

そう言うと布団を敷いてその上に横たわる。

疲れた…

でも、良い一日だった気がする…

そんなことを考えながら俺は眠りについた。

ユイ君の寝巻きの袖の内側に刺繍してあった花は「リナリア」と言う花です。

花言葉は「この恋に気づいて」。

果たしてこの寝巻きは本当に幽々子さんが準備してものなんですかねぇ。

男に花言葉を求めても意味はありません。

よくわかるんだね。

そう言うわっちも男だけども。

あぁ、なんと残酷な生き物なんでしょうか。

南無三…

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