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東方竜人郷  作者: 寝起きのねこ
竜人達の因縁
18/93

苦いお茶と手合わせ

「東方竜人卿」で書きたかったシーントップテンに入るこの第18話。

執筆時間がスッゲー長かった。

白玉楼の庭ではユイと魂魄こんぱく 妖夢ようむが木刀を手に向かい合っている。

縁側には西行寺 幽々子と八雲 紫が座っており、ちょっとした授業参観のようだ。

「おし、じゃあ全力でかかってこい。俺は攻撃をしない。お前さんの剣術を見せてもらう。」

「…分かりました。」

そういうと妖夢は目を細めて中段に木刀を構える。

対するユイは肩に木刀を担いだまま構える様子がない。

「ん? どうした?」

「その構えは斬られる気ですか?」

「まあ、すぐに分かるさ。」

そういうとユイは飄々とした表情を引き締める。

しばらくの沈黙の後、妖夢が一瞬で間を詰めてユイの腹に左薙に木刀を振るう。

「とった!」

ヒュ!

「慢心。」

妖夢の一太刀はユイが足を半歩動かしただけで躱された。

妖夢は次々と剣術を繰り出した。

上段からの一太刀。

スルッ。

斜めに傾けられたユイの木刀で流される。

下段からの斬りあげ。

ガッ。

腕を降ろしただけの木刀で防がれる。

剣技も使う。

フェイントもかけてみる。

しかし、全てユイには届かなかった。

「…なるほど。」

ユイが再び口を開いたのは妖夢が距離を置き、肩で息をするような状態になってからだった。

「まずは…そうさね。手首が柔らかいな。これはフェイントや太刀筋の微調整に非常によく使える。後は基礎に忠実な打ち込み。これも良い。俺は剣術の基礎なんて知らないし、ましてやどこの流派かなんかもさっぱり分からんが剣を振っているとやっぱりその全ての流派の基盤となるものは出来てくるもんだ。そいつに恐ろしく忠実だ。俺なんかよりずっとな。足の捌きも悪くはない。ただ、1つ問題があるとすれば剣技だ。相当やり込んだんだろ? ただ、そいつがお前さんの良さを全部殺してる。攻撃を重きに置いた剣術だろう。だが、お前さんの体は流し、反撃カウンターする方が向いてる。積極的に攻撃するより、相手の一太刀を流しながら逆に相手を斬る。そっちの方が向いてるな。」

そこまで一気に言うとユイは周りに風が吹くほど速く妖夢との距離を詰めると妖夢の木刀を弾きあげる。

「!?」

空高く弾きあげた木刀を追ってユイも飛び上がる。

そこから炸裂したものは滅茶苦茶なものだった。

木刀で木刀を斬る。

更に半分になった木刀の一方をを割る。

3つになった木刀だったものをそれぞれ砕き、更に斬り、折った。

それを地面に着地するまでのわずかな時間にやってのける。

バラバラと木切れがユイの後に続く。

「一発芸の域だ。油断はするな。攻撃に重きを置いた剣術では体力を早く持ってかれる。鍛えていても体格で鍛える体力には限界がある。その為にも動きの少ない反撃型にしたほうがいい。」

「…そんな無茶苦茶な事が出来ていたらこうして修行をしていませんよ。」

妖夢は声を震わせる。

その目からは涙がこぼれ落ちた。

「…失礼します。」

そう言うと妖夢は駆け足で白玉楼の中へと消えて行った。

「…妖夢はあれで負けず嫌いな所があるのよ。それに妖夢の剣術は努力で得たものだからあなたみたいな才能が羨ましいのかもしれないわね。よければ慰めに行って頂戴。」

幽々子がフォローする様にユイに言う。

「強者が何を言っても弱者にとっちゃただの戯れ言だ。」

そういうと白玉楼に入り、机の上の湯呑みを手に取ると一気に口に飲み干した。

冷めた緑茶は苦くユイは思わず顔をしかめた。

「冷めたお茶とアイツとの手合わせ。お互い苦い思いをする事になったな。」

その呟きは誰にも届くこと無く白玉楼の壁に吸い込まれて行った。

昼間に妖夢が部屋から出てくる事は無く、日が暮れ静まり返った時間帯にやっと部屋から出てきた。

目の周りは赤く腫れ上がっており、長い事泣いていた事を伺わせる。

物音を立てないように、静かに夜食を掻き込み風呂場へ向かう。

その時、庭の方からなにか音がした。

「……」

行くべきかしばらく悩んだ結果、妖夢はそちらへ足を運ぶ事にした。

庭の縁側まで来た時、妖夢は驚きに目を丸くした。

ユイが自分の(つるぎ)である太極と手合わせをしていた。

ヒュッ!

ユイは速い太刀筋で太極に木刀を打ち込もうとする。

しかし、一切彼にあたる様子はなく逆に攻め込まれている有様だ。

ユイの体が木刀に打たれる鈍い音がする。

それでも表情1つ変えずにユイは攻撃を続けた。

太極の木刀を弾き、流して、時にカウンターも叩き込もうとする。

何回か打ち合った後、太極がユイの木刀を弾き飛ばして勝負が決した。

休憩する為に縁側を向くとそこに立つ妖夢の姿をユイは視界に捉えた。

「…いたのか。」

妖夢は振り返って逃げようとする。

「ちょっといいか?」

その言葉に自然と妖夢の足が止まった。

「…なんでしょうか? これからお風呂なんですけど。」

「じゃあ10分だけ話を聞いてくれ。」

「…分かりました。」

そういうと妖夢は縁側で正座する。

その隣にユイは腰を下ろした。

「……」

辺りに沈黙が漂う。

「えっとなぁ、説教して…悪かったな。そこに関して弁解する気は無い。それで…お前さんの考えを聞きたいんだ。正直誰かに教える事なんて初めてでどう接していいか分からないんだ。だから俺がお前さんの指導をしても良いのか不安で…正直そこまで根性がある訳じゃない…弁解になってるな。とにかくお前さんの意見が聞きたい。俺が…指導しても良いのかどうか。」

再び沈黙が訪れる。

妖夢は庭をじっと見つける。

その真っ直ぐな瞳からはユイは何も読み取ることは出来なかった。

ようやく妖夢が口を開く。

「あれから私なりに考えてみたんです。もちろん最初はあなたの剣技と私の剣技の差に悔しい気持ちで一杯でした。刀を握っておいて更に剣の道をひたすらに進み続けて…それなのに負けるなんて。結局『剣術を操る程度の能力』なんてただの肩書きでしか無いじゃないかって。でも、ふと思ったんです。師弟としてではなく剣術を使う人として技術を盗んでしまえば良いんじゃないかって。そして自分の糧にすれば良いんじゃないかって。本人の前で言っては意味はありませんけどね。」

そう言うと妖夢は俯いた。

ユイは無言で片手を妖夢の頭の上に置くとわしゃわしゃと髪を撫で始めた。

突然の事に妖夢が顔を赤くしてユイの手を振り払う。

「何するんですか!」

ユイはその問いには答えず妖夢のやっていたようにじっと庭を眺める。

「…そっちの方がいいかもしれんな。技を盗ませ糧となる。まあ、俺にできることはそんなぐらいか。」

完全に自分の思考に入り込んでいるようだ。

「失礼します。」

そう言うと妖夢は逃げるようにしてその場を離れようとした。

「妖夢、こんな俺でも『利用してくれた』のは嬉しかったよ。」

そんな声が後ろから聞こえて妖夢はユイの方を振り返る。

月に照らされたユイの姿はとても儚く触ったらいまにも壊れそうに見えた。

妖夢はユイの後ろに立ちそっと抱きしめる。

「…まだ10分経っていませんよ。愚痴や弱音はここに置いて言ってください。」

「ありがとう。」

そう言うとユイはゆっくりと自分の内をさらけ出していく。

自分の生い立ち、初めて戦場で殺した種族の顔、牢獄での質問のない拷問…そして妖夢との手合わせで感じた不安。

それを語っていくごとにユイの頰は濡れていく。

「俺は…そこまで強くはない。常に仮面をかぶった道化師だ。素顔なんて誰も気にしない。みんな俺の演技を見て楽しむ。それを見て演技の腕をあげる。また観客は俺の演技を見て楽しむ。もう何枚の仮面をかぶったかも分からないんだ。」

そう言うとユイは口を閉じた。

「…10分経った。約束は守る。」

そう言うとユイは妖夢の腕をそっと解き立ち上がった。

靴を脱いで白玉楼に入る。

そのまま妖夢に背を向けて部屋に戻ろうとしたが何を思ったのか突き当たりで立ち止まる。

「…今度はお前さんの弱音や愚痴なんかも聞かせてくれよ。」

振り返ってそう言うと角を曲がって消えていった。

「…えぇ、喜んで。」

1人になった縁側に声が響く。

妖夢は風呂場に向かって歩き出した。

やってやったぜ初ユイみょん。

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