目覚め
ギィ。
扉の開く音とともに目に太陽の光が飛び込んでくる。
「本当に生きているんですか?もう干からびて骨と皮しかないじゃないですか。」
「残念ながら生きているわ。それとも何?私の式神なのに言う事を聞けないのかしら?」
「いえ、そう言うわけではありません。ただ、そこにいる彼に任せるよりも私の方がよっぽどお役に立てると言いたいだけです。」
その時、件の「干からびて骨と皮だけになった彼」が動いた。
ほんの僅かに動いただけだ。
しかし、それでも彼の存在を示すには十分だった。
「勝手ニ…殺スナ…。」
「骨と皮が何を言うのかしら。」
「やめなさい、藍。あなた、竜人のユイかしら。」
ユイ。
その名を聞いた途端「彼」は動きを止めた。
「ユイ…ユイ…ソ…そうだ、俺は、竜人の、ユイだ。」
竜人ユイ。
人類が繁栄するよりも前、この世界では亜人が存在していた。
ただ、数は少なくさらに、同族同士でも戦争が絶えなかったので、人類の中で確認されているものは、ない。
そんな裏の世界史ではある一人の竜人が恐れられていた。
それがユイだ。
そのあまりの強さ故に「鬼龍」の異名を持つ彼は、
圧倒的な力で他の種族を次々と滅ぼしていった。
戦では、彼が見えただけで他の種族は凍りついた。
そんな中、4本の剣を使いこなし生き物を蹂躙していった。
だがそのあまりにも強すぎた力は同族からも恐れられた彼は「磔の牢獄」に封印された。
そのユイが、現在も生きていられたのは竜人種の「寿命ではまず死なない」能力があるからだろう。
こうして2974年間の間眠り続け今に至る。
「思い出した。俺は…あの七賢人に」
「封印された。」
喋り出したユイの言葉を紫は引き継いだ。
「なぜ、起こした」
そう言うユイの言葉には警戒の色が伺えた。
「あなたを解放しにきた、と言ったら?」
「紫様!?本気ですか!?」
「黙りなさい、八雲藍。そのために来たのですから。」
「しかし!彼が紫様に従うとは思えません!」
そう叫ぶ藍の声には悲痛な響きがあった。
しかし、その瞬間身も凍るような殺気が藍を襲った。
「今すぐ、あなたの存在をなかったことにしてあげましょうか?私は構わないわ。別に他の式神なんていくらでもいるもの」
「やめろ。」
紫の殺気を止めたのはユイだ。
紫はゆっくりとユイに目を向けた。
「さっき聞いたが要は俺を従えるために来たんだろ。なら何かを犠牲にしてまで従える必要ないだろう。そんな殺意のない殺気を見せられても何も面白くもない。」
そう言うとユイは閉じていた目をゆっくりと開く。
そこに現れたのは、金と銀のオッドアイだ。
「言うじゃない。」
「これでも1000年は現世で生きてきたもんでね。」
「長生きしてりゃ格好がつくとは思わないことね。」
「それは言えてるな」
そう言うとユイは俯き、声を押し殺してクックックと笑った。
ひとしきり笑ったのだろうか。
顔を上げるといくらか清々しい表情をしていた。
「それじゃ、さっさと解放してくれ。」
しかし、紫とユイの間に立つ影があった。
藍だ。
「どきなさい、藍。今なら見逃してあげるわ。」
「それはこちらの台詞です、紫様。彼を解放するなんてやはり私には考えられません。」
その瞬間、さっきのものとは比べ物にならない殺気が藍を襲った。
そのあまりの凄まじさに藍は思わず膝をつく。
「俺が従うって決めたんだ。そこにアンタが口を挟む必要はないんじゃないか?それとも俺が信用出来ないとでも?」
決して大きな声ではなかったがそこには人を怯えさせる何かが含まれていた。
「えぇ、そうよ。口だけならなんとでも言える…だから!あなたを解放する訳にはいかないのよ。」
そう叫ぶ藍はもう息も絶え絶えだ。
「どうする?紫さん。」
そんな様子を見てユイは訊いた。
紫はと言うと膝を着きこそしないものの、その顔にはうっすらと汗がにじんでいた。
「そうね…。なら勝負なんてどうかしら?」
「勝負?」
「そう。弾幕勝負よ。あなたを一時的に解放して藍と勝負してもらうわ。あなたが勝てば解放、負ければまた逆戻り。どうかしら?」
「…乗った。」
そう言うとユイは殺気を消した。
こうしてユイと八雲藍の弾幕勝負が始まろうとしていた。
藍様の扱いがひどい?
俺も思った。
ので、次回は少しかっこいい藍様をお見せします(多分)