ファンタジーの主人公だから恋愛なんて関係ないっ!
僕は、向こうの世界で言うゲームのキャラクターだ。
割りと何処にでもありそうな、少年が魔王を倒しに行くというごく平凡な内容のゲームである。
僕はその主人公、アイザックだ。まぁ、この名前は、僕の両親がつけた訳では無いのだけど。
………そろそろ、彼女が帰ってくる頃だろう。準備をしなくては。
めんどくさくて着ていなかった鎧を着ける。僕だって、好きでこんな重いのをつけてる訳じゃない。
何度も言うが僕は、主人公だ。主人公は、いつだって格好いい武装をするのがセオリー、お約束みたいなものだろう?
僕に名前をつけてくれたのは、どうやらゲームが大好きな女子高生だった。
いつも思うけど、ゲームやる前に制服を掛けた方がいいよ。皺になって笑われてしまうよ。
僕はその子の事が嫌いでは無かった。きっと僕は、ゲームの電源をつける時にいつも変わらずわくわくした表情を見るのが好きなのだろう。
彼女はお洒落さんだ。別にギャルでは無いけれど、向こうの世界での流行らしい物をいつも持っている。どれもこれも、可愛らしい見た目の彼女に、ぴったりと合ったものだった。
画面の範囲で見える彼女の部屋は、パステルカラーで揃えられた、これぞ女の子という部屋だ。……あ、そろそろタイトル画面に切り替わるから僕も行かないと。
電源が入っていないと随分と重たく感じるこの鎧も、電源が入ってしまえば、まるで着ていないかのように軽く感じた。
「さあ!今日も元気に頑張って行こう!」
タイトル画面の時に話す台詞を本来の僕では決してしないテンションと大袈裟なポーズを取って彼女に高らかに伝える。
彼女は僕を見ると顔の全ての表情筋をだらけさせた。いったいどうしたらそんな顔が出来るんだとつい聞きたくなってしまう。
最初に彼女が向かわせたのが敵のレベルがそれなりに高いダンジョンであった。
あー……、成る程、経験値集めからって事ね。今日は。
『今日は経験値集めから?』
隣からぴょこっと飛び出してきた少女に目線を向ける。勿論、画面の外にいる彼女にはこの声も、目線を送っているのも、飛び出しているのも分からないだろう。一列に規則正しく並んでいるようにしか見えない筈だ。
『ああ、そうらしいね、アリス。頑張ろうか。』
『ええ!頑張るわ!』
このゲーム、実は僕以外のパーティーメンバーを、コントローラーが自由に作る事が出来る。勿論、このアリスも彼女が作ったキャラクターだ。
……実の所、僕から見たとき、このアリスはなんだか画面の外の彼女によく似ているように思える。……いや、別に彼女がエルフでも、魔法使いでもないのは分かっているのだが、何でだろうか?僕の目がきっと可笑しくなったのだろうか。そうじゃないことを願いたい。僕はまだ普通だ。
レベル上げが始まった。
僕はこれは別に嫌いな訳ではない。強くなれるからだ。レベルが上がれば、新しい技やスキル、着られる鎧なんかも増えて良いこと尽くしだからだ。
『ふぅ……、一先ずはこれくらいかな?』
『そうね!あっ、こっちも終わったよ!』
駆け寄ってくるアリスに片手を上げて応じる。よくあんな大きな杖を持ってて攻撃を回避出来るよなぁ。あ、それを言ったら僕もなのか。
『あ!もーアイザックったら!怪我してるじゃないの!』
プンスカと僕に対して怒っているらしいアリスに少し驚く。別に怪我と言っても擦り傷とすら言えない程度なのだけど。
『はい!腕出して!キュアーするから!』
……そんなことにMPを使ってもいいのかい。多分次に見たときに彼女、「あれっ!?減ってる!?」って顔すると思うんだけど。ていうか今までも同じことしたとき彼女困ってたからやめといた方がいいと思うんだけど。
と思いつつも、既に詠唱に入っているアリスを止めるわけにはいかず、そのまま治される事にした。
その日は、新たに別のダンジョンに行くこともなく、彼女は時間の許す限りレベル上げに徹して電源を切った。
僕は町に強制的にワープすると、自室に戻り鎧を脱いだ。
どうやら彼女は宿題をやっているようだ。毎日あるから大変そうだがきちんとやっていて偉いと思って見ている。
そして、彼女が寝たのを確認して、僕もゆっくりと眠りについた。