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憎しみを捨てた魔女  作者: あるみす
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引越ししました!

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お母さんの研究書等の知識は殆ど覚えていたし道具等も向こうにあるらしいからわたしはお母さんの形見や最低限の荷物を揃えて出発の準備を済ませた。


「ルル、わたしが居ない間にこの家にまた誰か来たらどうしよう」


わたしは一番不安だった事を横でわたしの荷造りを手伝っていたルルに相談する。


「んーとですにゃ……許可のない人を入らせない様にする結界ならあったはずですにゃ。ですけど、恐ろしく魔力を消費する上に高位の魔術師なら突破されてしまうことがありますにゃ」


「あー、人避けの結界の事ね…確かにあれじゃ心もとないよね…」


人避けの結界は大昔に開発された魔法だけどその効果の低さからほぼ使われてない魔法。

そんなコスパの悪い魔法を使うのは流石に気が引ける…


「それならね、この結界がいいんじゃない?」


いつからそこに居たのか、ユリアさんがわたしを後から覆いかぶさるように顔を近づけてきた。そして、紙にスラスラと魔法陣を書いていく。


「こ、これって…」


わたしも流石に驚いた。だって、見たことも無い陣だったし、明らからにオリジナルの魔法だったから。


「これはね?人が近づいた時に感知する魔法なの。効果は折り紙付きよ?近くに転移の魔法陣も作っておけば直ぐに来られるし」


わたしはこの新しい魔法陣に目をキラキラと輝かせ、横で得意げに解説してくれるユリアさんの顔を見上げた。

魔法陣の作成なんて魔術師が一生掛かってやっと一つ作ることが出来るって言われている位に難易度が高い。

それを、こんな若い人が作るなんて尋常じゃない。


「凄い!凄いですユリアさん!こんなの作れるなんて…」


「あはは、そう?そうだ、向こうの家に着いたらあたしが作った魔法教えたげるよ」


「本当!?やったぁ!」


「可愛いなぁもぅ。あたしの事はユリアお姉ちゃんって呼んでくれて良いからね?もう家族なんだから」


「う、ぅん。分かった、ゆ、ユリアお姉ちゃん…」


柄にもなくはしゃいでいたわたしは少し恥ずかしかったけどなんとか乗り越え、改めてこの人達の家族に慣れたことが嬉しいと感じた。

内心は新しい魔法が知れるという喜びが大っきいんだけど…


「あーずるいー!私だってお姉ちゃんって呼ばれたいのにぃ」


わたしがユリアお姉ちゃんと呼んだ事が聞こえたのかアリスさんも近寄ってきて屈んでわたしに目線を合わせてくる。


「アリスはお姉ちゃんには見えないなぁ〜。メアの方が大人っぽいまであるかも」


ユリアお姉ちゃんがアリスさんを茶化すのでアリスさんは少し頬を膨らませながら言い返す。


「私の方が三年も年上なんですぅー。それに剣術ならウィルお兄ちゃんにだって負けないもん!」


え!?あのウィルさんに負けず劣らずの剣術を持ってるの?アリスさんって実はものすごく凄い人なの?


「アリスお姉ちゃんって本当は凄い人なの?」


「え?その様子じゃ私の事、弱っちいって思ってたでしょー」


「いや、そこまでは思ってないけど…」


少し涙を浮かべながらアリスお姉ちゃんはわたしを抱きしめてきた。

スキンシップが多い人なんだ…温かいし、嫌じゃないから良いんだけど。


「アリスはねぇ……調子にむらが有るからねー、常に万全で居られたらウィルにだって負けないかもね」


ユリアお姉ちゃんも少し言葉を濁してるから本当の所アリスお姉ちゃんがどんな実力なのか良く分からない。

いつかは分かるんだろうし今はあまり追求しないでおくけど…




転移の魔法陣を作れば何時でも来られるし、持てるだけの私物を纏めてわたし達は外に出た。

さっき教えて貰った魔法陣を試そうと地面に枝で書き始めていたらユリアお姉ちゃんが真剣な顔で尋ねてきた。


「ねぇメア。お母さんのお墓まで案内してもらってもいいかな?」


「うん…いいよ」


色んなことが沢山起こりすぎて忘れてた。わたしはルルと並んで三人を引き連れながら道を知らなきゃ絶対にたどり着けない森の中をズンズン進んでいく。


「随分鬱蒼としてますね…」


「昔この森に入った時出られなくなってお母さんに怒られた記憶があるわ…」


ウィルさんとユリアお姉ちゃんが昔の思い出を交えながら話している。

この森には精霊がいてその精霊に認められないと目的の場所には辿り着けないって言われてる。

これだけ聞くと恐ろしい森だけど一度認めて貰えれば実際の距離より短く目的の場所に到着することが出来るから便利でもあるんだけどね。


暫くするとわたしがお墓を建てたあの泉に出た。


「わぁー!綺麗な泉だねー」


アリスお姉ちゃんがそう感嘆の声を上げた様にユリアお姉ちゃんもウィルさんも静かに泉を眺めている。

わたしがこの泉の辺を選んだのには理由がある。この森の精霊が住んでいるって昔お母さんが言っていたのがこの泉なのだ。つまり、何かあった時は精霊に守ってもらえる様にと思ってこの泉を選んだのだ。


「お母さん……」


誰が呟いたのかは分からないが三人はお母さんのお墓の前に腰を下ろすと結構長い時間その場で拝んでいた。

長年の再開がこんな形になるなんてお姉ちゃん達も予想していなかっただろうし……


「さてっと、行くとしようか」


ユリアお姉ちゃんの号令でわたしたちは泉を後にしようとしたその時。


お母さんのお墓を包み込むように泉全体が光出した。

まるで、お母さんがわたし達を見送ってくれている様に……


隣を見るとユリアお姉ちゃんやアリスお姉ちゃんは涙を流していた。

誰も何も言わずにその不思議な光景を眺めていた。そして、暫くして光が収まると他のみんなは晴れた表情で森を出ていったが、わたしはもう一度お墓の前に腰を下ろした。


少し気になって来てみたのだが…やっぱり思った通り。

わたしの憎しみの感情を閉じ込めた想いの宝玉が姿を消していた。


「ご主人……宝玉は…」


「多分お母さんと精霊さんが持っててくれてるはず…だよ」


なんの根拠も無いのだがそれだけは分かる気がした。さっきの不思議な光景を見た後だからってのもあるけど、お母さんの言う通りこの泉には精霊が居ると確信出来たから……


「さ、帰ろ…!急いで魔法陣書かなきゃ」


わたしはルルを引き連れて泉をあとにした。また、近いうちに来るからねお母さん…!





家に着いたらユリアお姉ちゃんが魔法陣の下準備をしてくれていた。

アリスお姉ちゃんとウィルさんは持って行く荷物の整理をして、いつからそこにあったのか木製の荷車に載せていた。


「え、荷車なんてどこにあったの……?」


わたしが尋ねるとアリスお姉ちゃんがニコッと笑ってこちらを見て答えてくれた。


「えへへ〜、作ったんだよ!」


「え、作ったの!?この短時間で…?」


驚くべきはその製造方法だ。見たところ魔力は使われていないから物理的に…つまり剣か何かで寸分違わず木材を切りそろえて作られているのだ。

…アリスお姉ちゃんが人間離れしていると言うか…想像を絶する技術を持っているのは確か…だと思う。


「これくらい私に掛かれば朝飯前だよ〜。斬って組み合わせただけだからね。それより早くしないと間に合わないよ?」


「あっ、そうだった…魔法陣」


わたしは家の周りを囲むように大きな魔法陣を書いてくれていたユリアお姉ちゃんの側に駆け寄った。


「いい?メア、魔法陣は書き終わったから後は呪文だけ。さっき教えた術式の通りに魔力を出力108で唱えてみて」


ある程度魔法を上手く使えるようになると魔力の出力を微調節出来るようになる。明確な単位は無いんだけど、水を1ℓ生成するのに必要な魔力量が100と言われている。

それを追加で8と言うのは極めて難しい技術が必要となる。

因みに端数調整が出来るようになるまでに血の滲む努力を経ないといけないの……わたしはお母さんに叩き込まれただなんだけど。


それに、正直な所魔力量の微調節なんて魔法研究者位しか必要ないんだけどね…


「う、うん…やって見る…えっと、《音を知らせし円陣よ、その身を作りて光となせ》」


自分の中で魔力量を調節し、針穴に糸を通す様に慎重に魔力を編み上げて魔法陣に魔力を注いでいく。

わたしの額には汗が滲んできて筋を作って流れ落ちる。


「うん、その調子だよ…」


ユリアお姉ちゃんがそう言ってくれるが想像以上に複雑な構造で内心焦っている。だけど、無理じゃない…あと、少しで……


魔法陣を発動する時はその魔法陣の構造を完璧に理解する必要がある。

それは、言葉や紙面に書き起こす事が不可能に近くて実際に魔力を注ぎながら解析するしか方法が無い。




数分後、わたしは魔法陣の構造を完全に理解して無事に発動する事が出来た。

魔法陣からは淡い水色の光が溢れ、家全体を包み込んでいた。


「はぁ、はぁ…で、出来た…」


わたしは持っていた杖にもたれ掛かりながら袖で汗を拭った。

これだけ複雑な魔法陣を作ったなんてやっぱりユリアお姉ちゃんは尋常じゃないと…思う。


「凄いじゃない!正直失敗するかと思ってたけど、やっぱりお母さんの娘だね〜♪」


ユリアお姉ちゃんがニコニコと笑いながら優しく頭を撫でてくれる。

やっぱり失敗すると思ってたんだ…


「ユリアお姉ちゃんも凄いね…こんなに複雑な魔法陣を作っちゃうなんて」


「ふふっ、そんなに難しい事じゃないんだよ?今度教えてあげるよ」


「ほんと!?ありがとー、お姉ちゃん!」


わたしはえへへと笑いながらユリアお姉ちゃんの胸に顔を埋める。

この温かさ…凄く安心する……


「ほらー、メアもユリア姉さんもそろそろ行かないと間に合わないよー?」


アリスお姉ちゃんが即すのでわたしは家の脇に手早く転移魔方陣を書いた。

転移魔方陣は二つで一つの効果を持つ物なのであとは向こうに着いた時に書けば大丈夫。


「じゃあ出発!」


ユリアお姉ちゃんが魔法でゴーレムを作り、荷車を引かせる。


「うわっ!う、ウィルさん?」


「ちょっと長いからね、乗っときな?」


ウィルさんが突然わたしを抱えあげ、動いてる荷車に座らせてくれた。

わたしの肩に乗っていたルルも膝の上に移動して身体を丸めている。

コトンコトンというリズミカルな振動が伝わってくるのが妙に楽しくてつい顔が緩んでしまう。


「メアって笑ってる方が可愛いね〜♪」


「!?」


アリスお姉ちゃんが急にそんな事を言ってくるので驚いて顔が熱くなるのを感じる。

それを見たユリアお姉ちゃんもからかってくる。


「お母さん譲りの綺麗な銀髪だしね、こりゃモテモテ間違いなしだね」


「そ、そんな…こと無い」


同年代の男の子と会ったことなんて無いし恋とかどんなものなのか知りもしないし知りたくもない。


「そもそも、あんまり同年代の子と会ったこともないから…」


わたしがちょっと俯き気味に言うとアリスお姉ちゃんがとんでもない事を提案してきた。


「メアって確か10歳だよね?それなら学校に通えるんじゃない?」


「そう言えばそうね。初等部の年齢規定が10歳だった筈だから次の入学式に間に合うね」


「え、ちょっ…」


わたしを置いてどんどん話が進んでいく。あぁ、これお母さんと同じだぁ…


「入学式も二週間後だし、急いで申請すれば大丈夫か…」


「お父さんに頼めば何とかなるんじゃないの?」


お父さん。まだ、名前も聞いてないし誰なのか分からない。だからってのもあるけど会うのが楽しみ。


「そうね…お父さんったらメアの事で頭いっぱいだったしね。大抵のことなら何とかなるでしょうね」


「お父さんってどんな人なの?」


わたしが耐えきれずに聞いてみるとアリスお姉ちゃんが笑顔で答えてくれた。


「とにかく凄い人だよ!詳しくは会ってからのお楽しみだよ♪」


「う、うん…」


わたしはちょっと困惑しつつも笑顔で返事する。……ちっとも想像出来ないや。


「そろそろ到着しますよ。」


前を先導していたウィルさんがそう呼びかけてくれるのでわたしは荷台の荷物越しに前方を見る。

そこには見慣れた街や人がひしめき合って居た。

街に入ると大きな通りが中央を貫いていてその外れに転送屋がある。


転送屋と言うのは国が指定した転送魔法陣を管理する役職の人のことでここから魔法陣のある場所なら何処にでも行けるという遠出には欠かせない場所。


「僕が交渉してくるので少し待っててください」


転送屋の前で荷車を止めるとウィルさんが中へ入っていった。

しばらくして切符を人数分持ったウィルさんが出てきたので店の裏にある魔法陣へと移動した。


「行き先、アルカテイル。良き旅を!」


わたしたちが魔法陣の上に乗ると転送屋の主人が目的地を指定し、起動させる。

青色の光を放つ魔法陣は次第にグルグルと周りだし、視界がどんどんグチャグチャに崩れていく。気持ち悪くならないために目を閉じると次の瞬間、身体がふわっと浮く感じを覚えた。




「メア?もう着いたよ〜」


アリスお姉ちゃんが肩をぽんぽんと叩いてくれたのでわたしはゆっくりと目を開けた。眩しい光が視界を一瞬塗りつぶす。

そして、目を開けるとそこは町外れの小さな丘の上で向こうには大きな海が広がっていた。

冷たい海の潮風がわたしを包み込む。その初めての感覚にわたしの心は未知へ興奮でいっぱいになった。


足元に広がる大きな街は全てが白かった。地面や建物を含む殆どの場所が塗りつぶされ、見ているだけで輝かしく眩しいと感じてしまう。

まちの一角には大きな協会も建てられていてその存在感は大きい。


「なんでこんなに白くしたの?」


わたしは隣に居たユリアお姉ちゃんに尋ねてみた。

すると、ユリアお姉ちゃんは優しい笑顔で答えてくれた。


「あぁ、メアは見るのはじめてか。えっと、暑さ対策ってのもあるけど昔疫病が流行った時にその対策としてかな。まぁ迷信みたいなものだけどね」


「へぇ〜。すっごく綺麗。見てて幸せになる…」


「あはは、気に入ってもらえて嬉しいよ」


全てが白い石や石灰で作られた町。今まで見たこともない光景にわたしの心は惹き付けられる。わたしは胸に抱いていたルルをぎゅっときつく抱きしめ、この嬉しさを噛み締めた。


なんというか世界って広いんだね…




丘を降りてその街並みを歩くとまた違った発見があった。

上からじゃ真っ白の街だと思っていたけどそうじゃなかった。所々淡い水色の塗料で塗られている所があり、見ているだけで涼しくなる感じがした。


「わぁ〜凄いね!ルル!」


わたしはお姉ちゃん達の後ろを付いて歩きながらルルを抱きしめて、綺麗な街並みを観察しながら歩く。

街の人たちも白を基調とした通気性の良さそうな生地で作られた明るい印象を受ける服装をしている。

なので、わたしの黒地の厚い服装がちょっと浮いてる気すらする。


「どれくらい歩くの?」


わたしは徐ろに隣を歩いているアリスお姉ちゃんに聞いてみた。


「んーっとね。もうちょっと行った町外れに建ってるからー…あと30分くらいかな。大丈夫?歩くの疲れた?」


「ううん、大丈夫…ありがとお姉ちゃん」


わたしは再び周囲の街並みへと視線を戻した。

いきなりの展開すぎたせいもあるけどこれからここで暮らすっていう実感が湧かないな…まぁすぐに慣れると思うけど…




しばらく賑やかな街の中を歩き町外れに差し掛かった時。目に入ってきたのは丘の上に佇む巨大な豪邸だった。


「お、おっきい…」


わたしは思わず声を漏らしてしまう。構造は他の建物と変わらない二階建ての白塗りの平屋。広さはざっと見ただけでも幅が50mはありそう。


「ようこそ!アズウェルへ!」


アリスお姉ちゃんがわたしの方を見て微笑みながら紹介してくれる。

わたしはルルを抱える無意識のうちに手に力が入る。


「ご主人?」


「ね、ねぇ…ルル?アズウェルってまさかあの?」


ルルにだけ聞こえるように小さな声で呟くと、わたしの意図を汲み取ったのかルルがコクリと首を振る。


「うそ…」


わたしが驚くのも無理はないと思うんだけど……なんたってアズウェルって言えば国の有名貴族の一つだから…




屋敷の中に招き入れられたわたしは更に目を丸くした。

そこにはなんと何十人もの白と黒の奉仕服を着たメイドさんが並び、わたし達を歓迎してくれていた。


「おかえりなさいませ、お嬢様方。旦那様がお待ちです。」


若そうな顔立ちのメイドさんがユリアお姉ちゃんにそう告げて他のメイドさん達に指示を飛ばして、わたしの持ってきた荷物を手早くどこかの部屋に運び込んでいた。


…………凄すぎて頭痛いよ。




ユリアお姉ちゃんを先頭にわたし達は歩き出し、「お父さん」のいる場所へ向かう。

何もかもに圧倒されていたわたしはルルを抱えている腕とは逆の腕でアリスお姉ちゃんの腕にしがみつきながら歩く。

アリスお姉ちゃんは何も言わずに微笑んで、そっと歩幅を合わせてくれている。


そして、中央の大広間を突っ切り幾らか廊下を進んだ先に目的地はあった。

木彫りの重厚感のある両開きの扉がそびえ立ち、細部にまで行き届いた装飾はそれが半端な物では無いことを証明していた。


「お父さん、今帰ったわ」


ユリアお姉ちゃんがそう声を掛けると中から渋く、低い声で「入りなさい」と返ってきた。


ギィィと音を立てながら開いた扉をくぐると中はまた別世界。

とても広い空間に机などが置かれ、壁には一面隙間なく本が敷き詰められている。


窓の外を見ていたその人はとてもずっしりとした身体持ちで、その身から放たれる威圧がピリピリと伝わってくる。


……この人が、わたしの……




わたしの思考が纏まるより先にその人は動いた。


「会いたかったぞぉぉぉぉぉおおお!」


「うにゃ!?」


その人は力一杯わたしの体を抱きしめて頭を撫でてくれる。

驚いたわたしは不意に猫のような悲鳴を上げてしまう。


「大きくなったぁ…メア。本当に…良かった、良かった……お前と母さんには辛い思いをさせてしまったなぁ…」


「……」


後半涙声になっていたその人はわたしを解放すると屈んだまま、わたしと目線を合わせてこう言ってくれた。


「ひとまず、無事で何より。……お前と母さんには本当に取り返しのつかない事をしてしまった。すまなかった」


この人はなんで謝っているのだろう。


わたしには一連の流れが理解出来ていなかった。そもそも、わたしはお母さんから何も聞いていないから何に対して謝られているのかすら見当がつかない。


「あの…貴方は…誰なんですか?あと、何があったのか詳しく教えてください」


今のわたしに必要なのは情報だ。全ての穴を埋めるためのピースを。


「あぁ、紹介が遅れていたね。私はザラス・クロスハート・アズウェル。カトラス国王家騎士団所属、十傑の一柱にしてメアの父親だ」


っ…………。サラッと流したけど物凄い情報が耳に入ってきた。


このカトラス国はその昔、秩序を守るために国中から選りすぐりの猛者を選び抜き、その人達を国の守護神たる「十傑」と名付けたのが始まり。


つまり、この国最強の10人が集まっていてこのザラスさんはその一人だという……

……お母さん!わたし、流石にこの展開は予想出来なかったよ!?


わたしが目を丸くして言葉を失っているとザラスさんはガハハと大口で笑いながらわたしの頭をグシャグシャと撫でる。


「…お父さん。はそんなに強い人なの?」


わたしの目から見たらそうは見えないのだ。何故ならば、「お父さんからは魔力が殆ど感じられないから」。


通常の、十傑なら相当な魔力と武術の技量を秘めているのが普通だから…


そんなわたしの思考を想像したのかユリアお姉ちゃんがこっそり耳打ちしてくれた。


「お父さんは魔法は殆ど使わないの。お父さんはこの国始まって以来、初めての武術だけで十傑に上り詰めた人なんだよ」


「えええええええ!!!??」


わたしは柄にもなく大声を上げてしまう。

だって…言い換えたら武術だけで魔術を圧倒したって事だよ!?そんなの、人間業じゃない…!

ていうか、当の本人キョトンとした目で見てるし!武術に秀でたお父さんと魔術に天才的な才を見出したお母さん……

どう転べばこんな展開になるのよ!


「はぁ、はぁ…」


「メア、大丈夫?凄い疲れた顔してるけど」


「だ、大丈夫だよお姉ちゃん。ちょっと状況の処理が追いつかなかっただけ…」


わたしは心の中で総ツッコミをして息を切らしてしまった。

……わたしはふぅと一息つけて、お父さんに一番気になっていたこと尋ねた。


「お父さん。教えて欲しいの、お母さんとお父さんの間に何があったのか」


「ご主人……」


「…とりあえず、座ろうか。」


わたしが核心を質問したためかルルが心配して見上げてくる。

そして、わたし達を座らせたお父さんは当然その質問は予想していた様で苦々しい顔をしながら口を開いてくれた。





事の始まりは今から18年前も昔、カトラス国の王様が変わった時のことらしい。


その当時、既に結婚していたお父さんとお母さんは前のわたしの家、つまりあの森の家に一緒に住んでいたらしい。


十傑と国内最強の魔女との結婚に最初さえ反対はされたらしいけど、いざ結婚した後は国も手を出して来なくなったみたいだけど、事態が動いたのは18年前にユリアお姉ちゃんが生まれた時だった。


生まれた子供、つまり赤ん坊のユリアお姉ちゃんを国は引き取ると言い出したらしい。


もう既に頭の痛くなるくらいぶっ飛んだ話なんだけど、最強の遺伝子を持った子供を国が欲しがるのは認めたくないが有り得る話だとお父さんは話していた。


そして、その話を聞いたお母さんが激怒、単独で王城に乗り込んで軍隊を壊滅させて王に直接交渉という名の脅しで話を無かった事にして、更には国には一切の協力をしないと言い張ったらしい。


…一人で城を制圧だなんてお母さんどれだけ強いの…



だけど、酷かったのはその後らしい。

数年経ってわたしが生まれた年にお母さんに戦争に出る様に国が願い出たらしい。だけどお母さんはそれを断り、激怒した国王がお父さんとお母さん、そしてお姉ちゃん達を引き剥がして互いに近づくことの出来ない魔法を掛けたらしい。


わたしはその時はまだ赤ちゃんだった為に見逃されたらしい。

それからはお母さんにはノルマを達成できたら家族と会ってもいいという条件の元、膨大な量の仕事を課せられたと言うのが大筋らしい。


まぁ、会わせてもらった事は一度も無いのだけど……



「メア…すまなかった」


お父さんは全てを話し終えた後悲痛な表情でわたしにもう一度謝った。


「お父さんのせいじゃない…悪いのは全てこの国。」


「怒って…ないのか?」


わたしが淡々と結論を述べているのにお父さんは疑問を抱いたらしい。

確かに前のわたしなら怒り狂って全てを破壊して回ったかもしれない。


だけど、今のわたしにはその感情は無い。


「ううん。今のわたしは憎しみを捨てたから……理不尽で納得はできないけど…怒れない」


わたしが言うとお父さんは少し顔をほっとさせてもう一度優しく頭を撫でてくれた。


「メア。今まで世話してやれなかった分これからは存分に可愛がって上げるからな。何か欲しいものとかあったらすぐに言うんだぞ」


「うん、ありがとう。お父さん。」


お父さんは仕事が残ってるとの事でわたしはお姉ちゃん達に連れられて席を立った。


部屋を出る前にわたしはお父さんの方に振り返り、笑顔でわたしの今の気持ちを伝える事にした。


「お父さん。一人ぼっちになったわたしを迎えに来てくれてありがとう」


「メア……いい子に育ったな」


お父さんは少し目に涙を浮かべているように見えた。


今のわたしは言わば新たな人生を歩み始めたと言っても過言ではない。


だから、わたしは新しい生活の場をくれたお姉ちゃん達やお父さんに精一杯の恩返しをしていきたい。








3話はまだ書き上がってないので時間がかかると思いますが宜しければ待っていて貰えると幸いです。


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