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きみはぼくがまもる  作者: ナツメ棗
1章 飲み込まれたら寒かった
3/5

序章4

序章の終わり


「おっはよー!」



天真爛漫な笑顔で教室の扉を珊瑚が開けた。朝のけだるい空気の中その笑顔は一種の清涼剤となって教室の空気を潤してゆき、クラスの男子もその頬を緩ませた。


珊瑚は真珠を見つけると足早に近づいてきた、




「おはよ、真珠。さっき外で声かけたの聞こえてたでしょー。ひどいよー」


「おはよ、珊瑚。もうちょっとで学校なのに、寒い中外で話したくなかったんだよ。恨むなら私じゃなくて冬将軍を恨みなさい」




真珠が頬を膨らましながら、私の隣に椅子を置き座った。いくらストーブの前だろうと、寒いものは寒いので二人とも膝の上にブランケットを掛ける。冬になると常備している必需品だ。男子と違いスカートなのでブランケットを掛けなければこの寒さに耐えることはできないだろう。女子の特権でもある。




「そういえば、今日も持ってきてる?」


「うん、持ってきてるよ」




珊瑚はカバンの中からお菓子を取り出した。可愛らしいデフォルメの動物がプリントされた包みには、どうやらクッキーが入っているようである。




「おお!今日はクッキーかな?」


「うん。プレーンとチョコの二種類を作ってみましたー!」




真珠は包みを開くと小麦色の丸いかけらを掴むと口に投げ入れた。クッキーを数口噛んでからコーヒーを煽るのが好きなのである。苦みと甘みが混ざり合い、溶けあう。ほぼ毎日お菓子がもらえるので、毎日がバレンタインである、お返しはしないが。




「お味はいかがですか?」


「うむ、本日も見事なお手前」




などと遊んでいるうちに、予冷が鳴りそれぞれ自分の席に戻る。


今日も退屈な授業が始まる。


........................................................................






夜8時




弓道部の練習が終わり、真珠と珊瑚は駅に向かって雪に埋もれた田んぼ道をゆっくり歩いていた。今もまだあたりは吹雪いており、足元が滑りやすく加えて田舎ゆえに街灯も全然立っていないので辺りは真っ暗であった。光源といえるものは夜空に浮かぶ星と月のみであり、歩くスピードも遅々とせざるをえなかった。




「わわ!」


と、珊瑚が雪に足を滑らせた。真珠は珊瑚が滑ったのに気づきとっさに手を伸ばし珊瑚の身体を支えようとした。パッと手を伸ばしたものの真珠の足元も非常に状態が悪く、腕を掴んだまま一緒に滑ってしまった。




「っいったぁー」


「大丈夫?真珠」


「うう、全然大丈夫じゃない。これだから雪は嫌いなのよ。冷たいし濡れるし最悪」




真珠は顔をしかめながら一緒に立ち上がると、服に着いた雪を払い落とす。靴も雪まみれであり、若干靴の中まで濡れてきていた。早く家に帰り靴を脱ぎたいところだ。


しかしながら、雪はその勢いを先ほどから増しており、加えて空も星が見えなくなるほど雪雲で厚く覆われてきた。


もともと天井の星空しか光源がなかったので、あたりはそうとう薄暗かったのだが今ではそれすらも遮られ、目の前には暗闇だけがただ広がっていた。


「あれ?」


何も見えないので、ライト代わりにするために携帯電話を探そうとポケットを探るが見つからない。さっき滑ったときに落としてしまったのだろうか。


「ごめん、珊瑚。ちょっとケータイで足元照らしてくれない?私のやつさっき落としちゃったみたいで」


「いいよ、雪も強くなってきたし、早く探さないとね。ライトつけてから真珠のケータイに着信してみる。」


ん?


元々天上の光しか光源がなかったのであたりは相当薄暗かったが、今はその空さえも全てが灰色の雲に覆われており、何も見えなくなっていた。


何も見えないので、ポケットに手を入れて携帯電話を探すが、先ほど転んだ時に落としたのか


.....…;...................………...................


パッと、珊瑚のスマホから光が伸びる。


っとその時、真珠を掠めながら暴風のように荒々しく影が伸びてきた。


『っなに⁉︎』

咄嗟に影を避けるように体を捻った真珠はなんとか影に当たらないですんだ。


『っ』

しかし珊瑚は正面から飛んできた影を避けることができなかったようで、影に覆い被さられている。

真珠は珊瑚を助けようと珊瑚の方を見た。よく見ると影だと思っていたモノは、狼のような四足をもつ黒色の獣であり、体毛は黒い甲冑のように鈍い光沢を放ちその身体を覆っている。

珊瑚を助けようと体を起こすとその獣と目があった。その獣は真珠が一般的に動物として思っている瞳をしていなかった。

複眼というのだろうか、ただし昆虫のような極々小さな目が集まり一つの目の様になっているのではなく、形、色、大きさの不揃いな目が詰まっている。

その複眼の中央にある、鈍く光る紅い目が真珠を見ている。


・・・動いたら殺される


真珠の本能がそう呼びかけていた。

だけどどうする?動こうにも動けないが、かといってこの状況は非常にまずい。珊瑚の声が聞こえないところを考えるに獣にぶつかった衝撃で気を失っているのだろう。


『早く助けなければ、、、』


だけどどうすれば珊瑚を助けられるだろうか、相手は得体も知れぬ獣である。


Pipipipi! PippiPpi!Ppippi!PpiPpiPpi!

突然、流行のアイドルの着メロが珊瑚のスマホから流れ出した。


その時ゾワっとする鳥肌の立つような威圧をを獣の方から感じた。獣は雄叫びを上げ、電子音を嫌がるようにして身体中から洪水のように影を出し始めた。影は獣の足元にいる珊瑚の体を飲み込み、それは私の体にも纏わり付きあたりを真っ黒に染め上げていった。月の光でさえも吸収しているようで何もかも飲み込もうとしている。

全身に纏わり付いた影は私の体力をどんどん奪い取っているようで立つのもままならない。


いしきが薄れていく、、、

珊瑚の方へ手を伸ばすが空を掴むばかりで虚しさだけが残る。

意識が途切れつつある中、私の耳にはスマホの電子音と獣の雄叫びだけが、ただただ響いていた、、、。

一週間を目指します。

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