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大切なもの

「ただいま!」「お邪魔しまーす」

「はーいはいはい」

結音の祖父は応えた。

「上がって上がって」

結音は俺をせかす。

俺も急いで靴を脱ぎ揃えてから結音が入っていった一番奥の居間に向かった。

「さあさあ座って。隼人さんも座りな」

結音の祖父にそう言われ座ろうとした。

最初は結音の90度反対側に座ろうとしたのだが結音が

「こっち座りなよ」

そう言ってちょっと端に寄った。

こうなると俺も座らないと申し訳ないように思えてきたので

「ありがと」

俺は短くそう言い結音の横に座った。

でもいくら寄ってもらったとは言え少し狭い。

俺の肩が結音の肩に当たってしまう程だ。

「今日おばあちゃんいないの?」

結音が聞く。

「ああ。今は買い物に行ってしばらく帰ってこないぞ。前もって電話してくれたら、おばあさんにも待っててもらえたのになあ」

最初は雑談程度に結音と会ってからここまで来た経緯や最近の中学校生活のあれこれを話した。偶然の僕らの出会いに祖父はかなり興味を持ってくれたみたいだ。

話がひと段落ついたところで祖父が切り出す。

「で、話があると言ったな。急にどうしたんだ?」

「あ、あのねおじいちゃん。前、うちの家来たよね。その時私ね、、、おじいちゃんの財布から千円盗っちゃったの。だから今日は謝りに来たの」

「そうか。そういうことだったんだな。俺がコンビニ行って財布開けて何も無かったのはお前がとったからだったのか」

「そうなの。ごめんなさい」

そう言いながら結音は隣にいた俺にもたれ掛かって来た。

「はっはっは。まあそんなところかなとは思ったぞ。」

朝に比べて暖かくなったとは言うもののやはりココは家の中なのでちょっと寒く感じる。

少しの時間考えて、祖父が口を開く。

「でもちゃんと謝りに来たのは偉いぞ。謝れん子は謝れん。わしは結音が謝れる子で、よかったと思うぞ」

「これ前盗んだ1000円。やっぱり使えなかったの」

「もういいよ。その話は忘れなさい。それはお前の欲しいものに使うのがよい」

結音の祖父はそう優しく結音に言った。

「ありがとう」

気づいたら隣に座る結衣はいつからか目から涙を流している。

そして突然俺の上着に顔を当て涙を拭き取った。

「おい、さすがに人の服で拭くのは違う」

そう結音の祖父が少し声を荒げた所に驚き俺はとっさに

「いいんです」

「お、そうか、、、。急に声を荒げてしまい申し訳ない」

「いえいえ。気にしないでください」

「それはそうと、今日は結音を色々助けてもらって、ありがとうございました」

「どういたしまして。さっきも言った通り、本当にたまたま結音さんがイルカの駅で困ってたので、通り過ぎるわけにいかなくて」

俺は急に感謝されびっくりして言った。

「じゃあ、このことは本当にごめんなさい。もう、帰るね。ありがとう」

結音は彼女の祖父にそう言い立ち上がった。

「あれ?もう帰るのか」

祖父が驚いた顔をして聞く。

「うん。私も隼人さんもこの後用事あるから」

俺もそれの続けて立ち上がり言う。

「「ありがとうございました」」

先ほどの廊下を引き返し玄関に来て靴を履く。

「じゃ、また来るね」

と結音。

それに続けて俺も

「お邪魔しました」

と言った。

「隼人さんもまたいつでも遊びに来いよ」

「ありがとうございます」

結音の祖父にそう言われ笑顔でそう答えた。

前に歩き始めると同時に後ろでドアが閉まった。

すると突然結音が

「隼人さんって彼女いますか」

俺は一瞬ドキッとした。なぜかは分からない。全く根拠はないのだが、人生初の告白をされると思ったからだ。

「いないよ。今の所。」


「じゃあ。私と付き合ってください」

根拠なき予感は、的中した。

そう言われた瞬間心臓が異常に高鳴っていくのを感じた。

確かに学校に気になる人がいるわけでもない。けれど結音とはあくまでさっき会ったばかりの人、、、。

そう言えば妹からは「告白されたらお兄ちゃん絶対振っちゃいけないからね!お兄ちゃんみたいな人好きになる人滅多にいないんだから」とよく言われている。悲しいことに。とはいえいつも何かと頼ってる妹だし、今回は信用してみよう。

と思った俺は

「ありがとう。やっぱこうなったのも何かの縁だから。いいよ」

言っちゃった、と俺はすぐ思った。自分でも正しい判断なのかは全く分からない。この先どうなるかも分からない。まさに運命の選択をしたのだ。

その瞬間結音が俺めがけて突進してきた。

「ありがとう」

結音はまた泣き出してしまった。

今日彼女の泣き顔を見るのはこれで三度目だった。


しばらく経ち泣き止んだところで結音が俺に

「LINE交換しません?」

「もちろん!せっかく彼氏になったのに連絡取れないと、ね」

「ありがとう!」

結音はまだ涙が顔に残ったまま笑った。やっぱり笑っている女子は可愛いとしみじみ思う。LINEのついでにメールアドレスも念のため交換しておいた。


そしてLINEとメアドの交換が済み結音は

「じゃあさっきの駅まででいいから付き合ってよ」

と言う。

「いいよ」

「ありがと!もう道覚えたから。私、そういうのは得意なんだよね。」


そして言葉通り、さっきと真逆の経路を辿り北イルカ駅の改札に戻ってきた。

時計は既に12時44分を指していた。

結婚式には何をどう足掻いても間に合わない。

すると結音は

「今日は本当にありがとう。ここまで付き合ってくれて。あと、付き合ってくれて。本当は隼人くん用事あったんだよね。それなのにこんなめんどくさい用事に付き合ってもらって、なんかごめん」

「気にしないで。そんな対した用事じゃないから」

「そう、なんだ」

「うん」

短く俺はそう答える。

「今日は何か大切なものを得たって感じがする。それもこれも隼人君のお陰。ありがとう」

「こっちこそ。今日はいつもよりなんか充実してたよ。予期せぬハプニングって、楽しい」

「うん、とは私からは言い辛いけど。今日はありがとね!本当に。多分もう一人で帰れる。」

「本当?」

「絶対。多分。」

「いやどっちだよ!」

簡単だ。イルカで降りるだけだ。ここからイルカ線の列車に乗ったら絶対止まるから大丈夫だろう。そう信じて結音を送り出す。

「じゃあ、また会おうね」

「絶対だよ?!今言質(げんち)取ったからね」

手を振りながらそう言って結音は駅員のいる所に走っていき切符を買ったようだった。

俺はいったん家に戻ることにした。

2枚のガラスドアをくぐり抜けエレベーターの上に行くボタンを押した。

エレベーターが来るまでの間俺はさっき結音が言っていた大切なものが何を意味しているかを考えてみる。

祖父との信頼関係の回復だろうか。

はたまた彼氏が出来たことだろうか。

俺は考えた。

答えはその全てであると。


〈おわり〉

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