祖父母の家へ
ピンポンピンポンと言う電子音に合わせてドアが両側に向かって開く。
俺たちは二人は列車に乗り込む。
「すごい!向かい合わせのいすがある。いかにも旅行って感じ。いつも旅行に行くのは車だったから、電車のことはよくわからないけど、いい感じ!」
「うん。じゃあ向かい合わせの席に座る?せっかくだし」
「そうしよっか!」
「さっき会ったばっかなのに何だろう、この幼馴染感」
「ね、何だろう。不思議だね」
そう話して俺たちは向かい合わせの席に座った。
「結構広いんだね、列車って。足も伸ばせるし」
「だよね。車よりずっと広く感じる。ちなみにトイレもあるからお腹が痛くなっても大丈夫なのは、電車のいいところかな」
そうして結音が良くするという車旅と俺がいつもしている列車旅のあれこれを話している時にも、列車は終点の北イルカに向かって走り続けている。
俺が行きにみた明日葉駅に列車が停まる。
さっきは人がまばらだったが何故かは分からないが今は少なくとも30人はいる。
「この駅きれいだね。ガラス張りでいかにも現代って言う感じ」
「ね。モダンな感じ」
「なにちょっと英語にしてカッコつけてんの」
「あ、バレた」
「当たり前じゃん。だって私が現代っていったすぐあとに『モダン』とか、最早ツっこまれ待ちでしょ!」
顔を見合わせて笑う。
「ちなみにさ、突然だけどいくら祖父からお金もらったの」
「1000円」
「1000円?一千万円の間違いじゃなくて??そんな額返すためにわざわざ行かなくてもいいんじゃね?」
「でもお金奪うのはやっぱり良くない事。あとでよく考えたらそう思ったの」
「偉すぎる俺なんか絶対返さないよ」
「そうなの??それはダメだよ」
「いやそもそも最初に取った人が何を申しているのでしょう」
そう話している内に列車は動き出す。
それから数分で俺の見慣れた風景が戻ってきた。
それと同時に自動放送が北イルカに到着する旨を伝えた。
「結音着いたよ」
「え、まだ北イルカでしょ。親からは最寄り駅イルカ港って聞いたよ」
「イルカ港駅は北イルカ駅から歩いてもいけるんだよ」
ここは俺の最寄駅、つまり地元。この辺のあらゆるもの、、、といっては少し大袈裟だが、大抵のものは分かる。
「そうなの?知らなかった。じゃあもうすぐ私のおじいちゃん家に着くって事じゃん」
「そうだね。頑張ってね」
「え、何を?」
結音は素で聞いてきた。
「何をってお金を返すんでしょ」
「あ、そういう事ね。ありがとう」
結音は笑顔を俺に見せた。
ピンポンピンポンと、イルカで乗った時と同じ音でドアが開く。
日がより高く昇って朝より暖かくなった北イルカの空気が俺と結音を包み込む。
約1時間ぶりに帰ってきた。
と同時に重要な事を思い出す。
今日は結婚式に行くんだった。
イルカからここに来るわずか十数分の間にすっかり忘れていた。
今から行くとぎりぎり間に合うか間に合わないか。
どうしようどうしよう、と考えて立ち尽くしている時横にいる結音が
「早く行こうよ」
と言ってきた。
俺はもっと迷ってしまう。
すると結音は俺の腕をぐいぐい引っ張り出口へと向かわせる。
「分かった分かった」
俺はもう結婚式に遅れても事情を話せばいとこの梨奈さんも許してもらえると思い、最後まで結音の用事に付き合うことに決めた。元から梨奈さんは優しい人だし。仮にそうでなかったとしても、今はそう信じておこう。
そして改札を通ろうとしたとき先に改札に切符を入れた結音の改札のゲートがピンポーンと言う音と共に閉まった。
結音は出てきた切符を持って俺に見せた。
「閉まっちゃった〜!どうしよう」
俺は渡された切符を眺める。
「あ、これ、乗り越し料金払わないといけないパターンだよ」
「やっぱり。適当に買ったから当然と言えば当然なんだけどね。なんか、ごめんね」
「いやいやこっちこそ雑な案内しか出来なくて、ごめん」
「そんなこと無いよ」
「じゃあその切符貸して。払ってくるから」
「いやいいよ。今1100円あるから。これで払うよ」
「でもそれから払っちゃうと借りた1000円返せなくなるよ。だから俺が払うよ」
「あ、ありがとう。隼人くん初対面の人にも優しく接しられるってすごいね」
「いやいやそういうのは妹に日頃言われてきたから」
「じゃあお言葉に甘えてお願いします」
そういって結音は切符を俺に差し出した。
「じゃ、ちょっとここで待ってて」
「うん」
結音はそう答えるや否やすぐそばの柱にもたれ掛かった。
俺は乗り越し精算機の列に並んだ。
俺の番が来た。
結音の切符を入れ足りない金額の60円を財布から取り出し機械に入れる。
そして出てきた切符を手に取り結音の元へ向かう。
「結音お待たせ」
「ありがとう」
元気な声が返ってくる。
「どういたしまして」
「じゃあイルカ港まで案内してよ。おじいちゃん待ってるからね」
「オッケー」
そう答え、俺は改札にICカードをタッチし結音は切符を投入する。
左に行くと大きなバスターミナルがある中央口や区役所があり、イルカで一番大きな花時計がある時刻口がある。
でも俺たちが今から行くイルカ港は右側の大湊口から出るのが一番便利。
と言うわけで俺たち二人は右に進む。
曲がるとすぐに俺のすんでるマンションの入り口が左側に見える。
が今は家などどうでもいい。
エスカレーターに乗り一階に降りる。目の前の歩道を進む。
すぐ横をイルカ鉄道のいほく線の線路が走る。
伊北線の北イルカからいほく間は多いときで1時間に3本、それ以外は1時間1本と本数がイルカ線に比べてだいぶ少ない。
200mほど歩くと前方に北イルカ駅よりは小さいものの橋上駅舎が見えてきた。
そう。
そこが結音が目指していたイルカ港駅。
イルカ港はイルカで3番目に大きな港。
ちなみに一位は新穂乃果港で二位は衣静港だ。
「あ、見た事ある建物だ」
結音が言った。
「お、じゃあココからは一人で行ける?」
「えー折角何かの縁で会ったんだからせめてお金を返すシーンまではいてよ」
そう言う結音に俺は少し怒り、と言えば言い過ぎかもしれないがモヤモヤ感を持っていた。なんでやねんこっちはこっちの用事があるんやけど!!
でもさっき結音には妹に良く言われるから、とか若干カッコつけてしまったからココはうんと言う他ない。
「仕方ないな」
そういう俺に結音はニコッと口角を上げて笑う。
「こういう時の笑顔は反則だから反則」
この先の道は結音が知っているとの事なので着いて行く。
数分もしない内に結音が
「着いたよ!」
と俺に向かって言う。
それにしても結音、なぜ初対面の俺に自分の祖父母の家を教えてしまうのか。
結音の祖父母は自分の孫が知らない中3の男子を家に連れてきたらどう思うのか。
彼氏を連れてきたとでも思うのか。それは大きな誤解なので大変迷惑だ。
そういうことを考えている俺とは裏腹に結音はためらいなくインターホンを押した。
「はい」
おじいちゃん、とは呼べないような低い、格好いい声が聞こえたかと思うとすぐに玄関のドアが開く。
「あ、おじいちゃん」
「え、結乃か」
「違うよ。私は結音。姉と間違えないで」
「お、そうかそうか。ごめんごめん」
俺は結音と彼女の祖父が話している横にずっと立っている。
「でね、今日は謝りたい事があって」
「そうかそうか、じゃまず中に入って。お、結音、隣の男の子は誰かね。みたことが無い顔じゃ」
「あ、すみません。僕の名前は」
自己紹介をしようとしたら急に結音が
「私がする。私のせいだから。彼は吉野隼人くん。私が困ってたところを助けてくれた、物語で言うと王子様」
「ちょちょちょそれは言い過ぎ!!いきなり物語にしないで」
俺は突然の王子様発言にあたふたしてしまったが、そう言う彼女の顔はキラキラと輝いていた。
「そうでしたか。それはありがとうございました」
結音の祖父は俺に向かって深くお辞儀をした。そう丁寧にされるとこっちも返さざるを得ない。
「いえいえ、困っている人を見かけたら助けろとよく言われるものですから」
「そうでしたか。じゃあどうぞ中に入ってください」
そう結音の祖父に促され言われた通りに家に入る。