泣いていた見知らぬ少女
プシューと言うエアーが抜ける音と共にピンポーンと言う電子音が鳴り目の前のドアが開く。
俺はドア付近の列と共に列車を降りた。
「着いた」
他の誰にも聞こえないような小さな声でそう俺は言った。
次に乗る列車の時刻を確認するため急いで階段を上り、コンコースに行く。
今日は土曜日だから家族連れの姿も多く見受けられる。
『5・6 空港線 イルカ空港・富山方面』の表示を遠くに見つけ、俺は走り出す。
そして表示の前に着いたときそこに一人の泣いている少女がいるのを発見した。
立ち止まって一度考えてみる。
かわいそうだ、助けたい、でも出来るだけ早く結婚式場に着かなければならない。
どうしよう。
そう考えてる所にさっきの少女が目に涙を浮かべて俺に話しかけてきた。
「あの、すいません。ちょっと助けてもらえませんか」
「は、はい?僕ですか」
「はい。あなたです。」
「どんなことですか」
「あ、助けてくれるんですね、ありがとうございます」
俺的には相談を聞いてから判断しようかと思ったのだがこれだと引き受けるのが前提で相談するみたいになっちゃた。
でもまあいっか。
「いえいえ」
俺は答えた。
「で、早速相談なんですけど、いまから私、祖父母のところに行かなければならなくて。イルカ港って言う駅のそばの一軒家に住んでるってお母さんに聞いたんですけど。どう行けばいいか分からないんです。」
少女は涙をポタポタと落としながら話した。
「ここからイルカ港までならイルカ線で北イルカまで行って」
北イルカはさっきまでいた、僕の自宅があるところだ。途中まで言いかけた所に少女が俺に衝撃の発言をする。
「あの、言いづらいんですけど、、、私電車乗るの初めてで全然分かんないんです。だからせめて駅まででもいいから連れて行ってくれませんか」
今時電車に乗ったことない人なんているのか。いやそんなことを考えている暇はない。
この少女を助けたい、でも結婚式には絶対遅れられない。
なぜなら今からイルカ港まで行ってはとてもじゃないけど間に合わない。ここイルカに戻ってくるまで1時間は余計にかかる。
俺はふと思い出す。
里奈が良く人は人を助けるためにいるんだよ、と少しだけ、ほんの少しだけカッコいい事を言っていた事を。
だから俺はこう言った。
「いいよ」
「ありがとうございます」
その瞬間少女に顔は悲しみあふれる顔から笑顔可愛い少女へと変わった。
「そういえば俺の名前、言ってなかった。吉野隼人ね。中学3年だよ」
「え、中3なんですか?実の所私も中3なんですよ。あっ、名前は清水結音ね」
「えっ、て事は同じ学年か」
「そうみたいですね。なんか恥ずかしい」
「それこっちのセリフ!」
二人は笑った。
少女の顔からはすでに涙は消えていた。
「詳しいことは列車で聞くからまずホームに行こっか」
「そうですね」
こうして俺と結音はイルカ線のホームへ歩き始めた。
『1・2 イルカ線 北イルカ方面』の表示を見つけエスカレーターに乗る。
今回は結音がいるから階段は使わない。
ホームに着いた。
頭上の電光表示板によると今度の列車は11時45分発の北イルカ行きだ。
列車が来るまで二人はベンチに腰掛ける。
行きの下り列車とは違って上り列車が発着するこのホームは人があまりいない。
「あの、あなたの事結音って呼んでいい?」
「もちろん。こっちも隼人って呼んでいい??」
「いいよ。それで結音、なんで祖父母に会いに行きたいんだ」
「えっとね。私前に祖父母が家に遊びに来たとき、色々買いたいものとかがあって勝手に祖父の財布からお金を取っちゃったの。だから今日はそのお金を返しに行きたくて」
「うわっ最悪。けど返そうと思えるのは100倍俺より偉い」
「それで返しにいこうと思って列車に乗るために一人で駅に来て適当に切符買って改札通ったんだけどどこに行ったらいいのかわかんなくて、あの時泣いてたの。そこで助けてもらおうと思って隼人くんに話しかけて、すぐ『いいよ』って言ってもらえて、一気に不安が吹き飛んだよ。ありがとね」
「いやいやこっちこそ。俺、妹がいるんだけど、妹によく『人は人を助けるためにいる』って教え込まれてるから」
11時45分。
列車が定刻で入ってきた。
代走なのか、珍しく11000系100番台が入線してきた。白いステンレスのボディーに青と黄色のラインが横に入っている。
普段は今日乗る予定だった東風谷線で走っているが、車両が足りなかったのか、今日はイルカ線で運用されているみたいだった。
「じゃあ乗ろっか、結音」
「うん」
結音にとっての初の電車移動が始まった。




