お別れパーティーの夜に
「 いい夜だ。ありがとう 」
かまくらの前に置かれた氷のテーブルには、今宵の晩餐の名残がある。
氷のグラスを手にゆったりと椅子に座るカエン様の瞳に、辺りを照らす雪灯篭の光がチラチラと反射している。月明かりが雪を照らし灯篭の明かりもあるので辺りはほの明るいが、縦長の瞳孔は昼間よりも丸みを帯びて、真紅の中に金が踊っている。
「 楽しんでいただけたら嬉しいです。
皆も楽しそうてすね 」
美波の視線の先ではかまくらの中、子供達が固まって眠っている。獣化している為モッフモフのお団子状態で、見ているだけで和んでしまう。
大人達はかまくらの中で、残りわずかなチーズフォンデュをつまみにワインを飲んだり、三つのかまくらの中央にカエン様が出現させた一メートル程の炎を囲み、語り合っている。
空中に浮かび燃え続ける炎は幻想的で、目を奪われてしまう。
「 両親がいい村だと言っていた意味が、よく分かったよ。村人達は気のいい奴ばかりだし、生活に余裕があって楽しみを見つけるのが上手い。
ユーリが冬の間留まるのも分かるな 」
そのユーリは現在、氷のシャンパングラスでシャンパンタワーを作り上げ、天辺から赤ワインを注いで大はしゃぎしている。
もちろん元ネタは美波である。ちょっとした弾みで話題に出たら、いつものようにこうして出来上がった訳である。
「 一ヶ所に留まるのって珍しいんですか?
私はこの村でのユーリしか知らないので、よく分からないんですが 」
「 そうだな、いつもは冬の間も商人達のソリに便乗したりして移動しているようだな。行ったことのない場所や知らない事を求めて、あいつは常にさ迷ってるんだよ。美波の側は欲求を満たすのに最適なんだろう 」
新しい知識。その点に関しては現在、ハクロウ村は美波のせいで特殊な場所になりつつある。
この世界にないはずの物が、村には溢れている。
キラキラ輝く氷のシャンパングラスが赤ワインで満たされ、揺れる炎を映して煌めくこの光景もここでしか見られないものだ。
「 そうですね。生活に役立ちそうなものから遊びまで、色々と作ってきましたから 」
シャンパンタワーからグラスを取り、ユーリが二人の元へとやってくる。トレイに三つのグラスをのせて運ぶ姿は、一流のウェイターのようだ。喋らなければ王子様なので。
「 見ただろ?どうだった?」
シャンパングラスを受け取りながら、素直な感想を伝える。
「 すごく綺麗だったよ。今度は炭酸ジュースでやって、子供達にも飲ませてあげようよ、本当はこれもワインよりはシャンパンの方が綺麗なんだよ 」
こちらには発泡性のワインは無いのである。白ワインに強引に炭酸を発生させても良いものか不明なので、今日は赤ワインだった。
「 ジュースなら子供も楽しめるな、冬は多くの種族にとって耐え忍ぶ季節だが、こうして楽しむのも悪くない。ありがとうユーリ、とても美しい光景だった 」
カエン様は、隣にユーリを招きつつそう言った。
「 そっか、良かった。なぁ、次の冬はさ、色んな場所で冬を楽しむ祭りとか出来たらいいな!
すべり台にかまくら、氷のグラスに椅子やテーブル。
家に篭る以外にこんな楽しいこともあるって、国中の人に教えたいんだ 」
弟分の頭を撫でて、カエン様が微笑む。
「 そうだな。来年にはレンガとシールのお陰で、冬の間の流通も滞る事は無いだろうし、夢物語ではないだろう。
手始めに王都に巨大テーマパークとやらを作りたいものだ。雪の巨大迷路に雪や氷の彫刻、雪のジェットコースターに氷の建築物。今から楽しみだな 」
知らないうちに大事になっている。
いつものパターンではあるが……
本当に作ってしまいそうなのが怖いところである。
「 美波、俺ハクロウ村に寄って本当に良かったよ。
まだまだネタはあるんだろ?楽しみだなぁ 」
ユーリの言葉に苦笑いしてしまう。美波のネタはあとどれくらいストックがあるのか。
仕組みがざっくり分かっていれば、魔法ととんでも能力でどうにかなってしまうのが恐ろしい。
当分ネタは尽きないだろう。
「 次はとりあえず、雪解け直前のメープルシロップ作りだね。
パンケーキにかけて食べるの、今から楽しみ!」
やったー!と、ユーリがはしゃぐその横で、カエン様は休暇をもぎ取ることが出来るか真剣に考え込んでいる。
「 多分それなりの量が採れるはずですから、王都にも送りますよ。ご両親とローザ様、もちろん国王陛下も甘いものお好きですよね 」
美波の言葉にカエン様は嬉しそうに笑う。
だいぶ免疫はついたが、やはり眩しい。美形率百パーセントのこの村で、美波の価値観は崩壊ぎみである。
「 まだ暫くは忙しいだろうが、春祭りが終わったら一度王都へ来てみるといい。この世界の最高の技術や美が彼処にはあるからな。背中に乗せて飛んでやっても良いぞ 」
何と畏れ多い……ドラゴンの親子から同じ申し出を受けてしまった。
このフラグは、折れることはない気がする。
「 ありがとうございます。いつか是非 」
最後の夜は更けてゆく。
この先幾度も繰り返す冬の夜の中で、今日の夜のこの光景はきっと記憶に残るであろう。




