いよいよ、ワカサギ釣り 前編
「 頭、痛い……」
翌朝、美波は二日酔いと戦っていた。
昨夜の夕食会は和やかに進み、カエン様も料理を気に入って下さったのだが、終始上機嫌なカエン様は王都から持ち込んだワインを美波達にも勧めてくれたのだ。
規格外のフェロモン系美形に勧められたそのワインはさすが高級品という味で、美波に断るという選択肢を与えなかったのである。
結果、許容範囲をほんの少しオーバーしたという訳だ。
「 ちょっと楽しくなって、足取りが怪しくなっただけだし。迷惑はかけてないけど…痛いー。
反省しなきゃ 」
酔い潰れて醜態をさらすなど、大人の行動ではないと常々考えているので、あくまで美波の中での飲み過ぎだ。
恐らく他のメンバーは何とも思っていないだろう。ミチルだけはふらつく美波を家まで送ってくれたので、飲み過ぎに気付いているようだが。
「 おはよう、美波。はい、レモネード飲んで 」
「ありがとう、ミチル。おはよう … 」
心配だったのか、昨夜は泊まってくれたのだ。
「 今日のお昼はワカサギ釣りでしょ、大丈夫?」
「 ん。大丈夫だよ、すぐ治まると思う 」
そうなのだ。ユーリの計画通り、本日は『 湖でワカサギを釣って天ぷらを食べようツアー 』が開催されるのだ。
希望者は全員参加なので、結構大規模になるはずだ。
「 例のコースターは多めに作ってあるし、百八十度をキープ出来るように調整済みだよ。あとは各グループでお鍋と油と塩なんかを用意してもらうでしょ 」
「そうね、釣りの仕掛けも昨日イツキさん達が作ってくれたはずよ。あとは天ぷらの具材としてサツマイモとジャガイモと、チーズを持って行くのよね。お酒が欲しい人はお酒もね 」
昨日のうちにしっかりと手順は決めてあるので、今朝やるのは食材の下拵え位である。
釣りをする時に使う椅子は、現地で美波が作ることになっている、断熱効果のある円柱型の簡単なものだ。
かさばる鍋などと、食材のみをソリに載せて牽く予定だ。勿論自力で走れない美波も乗せてもらう。ユーリとカエン様、子供達も一緒だろう。
「 ほら、支度しましょう。お風呂入ってらっしゃい、酷い顔よ 」
ミチルに促され、美波はバスルームへ向かう。
その間にミチルも一度自宅へ戻り、着替えてくるようだ。
時刻は十時、湖へ向けていよいよ出発である。
ソリの上には美波・ユーリ・カエン様と子供達が乗っている。
今日は氷の上での遊びなので、村人達も美波作の防寒着である。もっとも今は狼姿なので洋服は荷台の上だが。
美波的には頭痛も吹き飛ぶ素晴らしい光景だ。
真っ白な雪の上は、あっちを見てもこっちを見ても狼である。
天国かもしれない。
カエン様にも一式作って差し上げた。
黒のダウンコートには炎をイメージした模様を、体に巻き付く様な感じで入れてみた。深紅ではなく暗赤色にしたので目立ちすぎずにシックな雰囲気だ。
それに合わせて黒のブーツに黒のパンツ。トップスは同じく黒だがここだけは深紅で、カエン様の部隊の紋章を背中と胸元に入れてみた。
何かのゲームのキャラのようだ。
背中に大剣とか、背負って欲しい……
「 お似合いです、カエン様。着心地はどうですか?」
カエン様は腕を伸ばしたり膝を曲げたりして確かめてから、美波を見詰めた。
「 すごくいい、ありがとう。この前のお土産は俺のところまで回ってこなかったんだ、正直羨ましかったから凄く嬉しい 」
「そうですか、良かったです。他にも希望のデザインがあれば言って下さいね。作りますから 」
どうにか普通に答えているが、内心パニックだ。
美しすぎる人は遠くから眺めるぶんには良いが、相手に見つめられるとどうしていいのか分からなくなる。
滞在中に慣れることが出来るだろうか、今のところカエン様にとんでもない残念ポイントは見付かっていない……
「 早く行こうぜ!みんな準備出来たんだろ?」
ナイス、ユーリ!カエン様の視線がユーリに向いて、美波はやっと平常心を取り戻した。
「 よし!行くぞ、出発だ!」
ソリを牽くのはクロとギン、ミチルにミノリだ。
村に残るのはシロガネ様とマリさんだけなので、美波の能力で念のためバリアを張っておく。
害意を持つ人や動物を拒絶するもので、用があって訪ねてきた人なんかは普通に入れる。
村全体を覆う規模だが、あっさりと完成した。
「 コレ、このままでも良い気がしますね。悪い人以外は普通に入れる訳ですし 」
「 そうだな。あんまりびっくりしなくなってきたが、コレはどうなんだろうな。街壁とか城壁とか要らなくなるシロモノだな……」
ミナトさんが遠い目をしている。
確かに、深く考えずに作ったがとんでもない。
「 えーっと。不味いですか?」
「ブッ、ハハハッ。本当に面白いな!美波。
戦乱の世なら鉄壁の要塞だよ、今は平和だからそんな使い方はしないだろうが。
銀行とか宝石店の強盗避けには役立ちそうだ。盗もうと思っていたら、そもそも入れないんだから。
王都に戻ったら報告せねばな!」
カエン様が爆笑している……
珍獣認定されたらしい。不本意である。
「 だろー?美波は面白いんだよ、そばにいると退屈しないんだ 」
ユーリ!面白エルフにだけは言われたくないっっ!
「 まぁ、その話はとりあえず後でということで。
出発しようか?」
ミナトさんが空気をよんでくれた。




