二人の合作ドレス
翌朝、いつものように無防備極まりない格好で眠りこける三人にほっこりしつつ、静かに朝食の仕度をする。
本日のメニューはホットケーキだ。卵とミルク、小麦粉にふくらし粉、砂糖は控え目でミルモンのスライスも忘れずに。
生地を休ませている間にハチミツとジャムをテーブルに並べて、ウィンナーをボイルするお湯を沸かしておく。
「おはよう、美波」
「おはよう、ミチル」
ミチルが起きてきたので、お皿とカップを出してもらう。お湯が沸いたらウィンナーを投入して、ホットケーキを焼き始める。
バターの香りと甘い匂いにつられて、子供達も降りてくる。
「おはよう、ハク、ユキちゃん」
「おはよー。お姉ちゃん、ミチル」
顔を洗った二人がテーブルにつく頃には、ホットケーキとウィンナー、ホットミルクが並んでいた。
「いただきます!」
子供達のホットケーキを切り分けてやりながら、ミチルと美波も温かいうちに口に運ぶ。
フワフワのホットケーキとハチミツにバター、これにホットミルクの組み合わせは無敵だ。
「んー。美味しい、もう毎朝美波の家で食べたいかも」
「ありがとうミチル。でも、私も一人だともう少し手抜きだよ」
一人の朝はシンプルなサンドイッチとハーブティーくらいだ。
美味しいと食べてくれる人がいると、気合いも入るというものだ。
「お姉ちゃん、ジャムもつけたい」
「ボクもー」
二人のお皿に真っ赤なベリージャムを落としてあげると、嬉しそうに口に運ぶ。
大勢で食べるご飯は美味しいものだ。
朝食を終えて二人を家まで送り届け、その足でシロガネ様の所に向かうことにした。
干し柿のおすそ分けの提案をするためだ。
あっさりとシロガネ様の了承を頂いたので、干し柿の分配作業の時にミナトさんに伝える。
「そういう訳で、フェラリーデ様とローザ様におすそ分けしませんか?」
「良いんじゃないか、沢山あるし。お二人とも気に入っていようだしな。
分配が終わったら皆に話して、町へ行く担当者を決めないといけないな。ローザ様には美波の小鳥で手紙を出すといい」
サクサクと話は決まり、皆で干し柿をヒモから外していく。箱にまとめると思ったよりも大量だった。とりあえず村人の分として一人十個ずつ分配して、念のための備蓄用として五十個は公民館で保管する。
「フェラリーデ様は二十個位でしょうか、ローザ様には王都の皆さんの分も含めて、残り全部差し上げますか?」
「そうだな、珍しい品だし。皆それでいいか?」
ミナトさんの問いかけに村人達も同意する。
王都へのおすそ分けは百個といったところか。美波が能力で箱を作り、綺麗に並べて収めていく 。
「じゃあ、ローザ様への手紙を書いてきます。ミチル、手伝ってくれる?」
ソリで町へ行く役をめぐってジャンケン大会が始まったので、美波は席を外して手紙を書くことにした。
ミチルがローザ様の為に作ったドレスは、八割くらい出来上がっているらしい。美波はベースが出来上がった時に一度見せてもらったのだが、刺繍を始めてからは見ていないので、凄く楽しみにしている。
「どんな感じに出来たのか、すっごく楽しみ!
ローザ様の瞳と同じグリーンのドレス、とっても綺麗だったもん」
淡いグリーンのシルクで作られたドレスは、美波が作ったトルソーの上で優美なドレープを描いていたのだ。
本人に内緒で作っているので、細部の採寸が出来ないため、ローザ様と同じくらいの体型のトルソーに合わせてデザインしたものだ。
サイズ調節が出来るように、胸のすぐ下をシルクのリボンで絞るデザインになっている。
ワンピース型でスカート丈は膝下、右側が長めのアシンメトリーになっている。
袖は肘から下へ向けて広がるようにしてあり、襟ぐりは広めに開けて美しい首や鎖骨のラインを見せるデザインになっている。
そこにミチルがビーズと刺繍糸を使って、飾り付けていくのだ。
「期待してもらってかまわないわ。私が作ったドレスの中で、一番素敵な一着よ」
自信に満ちたミチルの笑顔は、いつにも増して美しい。
そして、ミチルの部屋でそのドレスと対面した美波は、言葉を失った…
「はぁ…綺麗……」
長い沈黙の後、ようやく出てきたのはたった一言だった。
そのくらい、そのドレスは美しかった。
かなり奮発したのだろう、美しいシルクの布には、キラキラと光を反射するビーズと刺繍糸で、無数の薔薇の花が描かれていた。
胸元には蔓薔薇が、グリーンの刺繍糸と透明のビーズで繊細に刺繍されている。
胸のすぐ下で絞られたリボンには、銀糸で花弁が縫い込まれていて、スカートの裾の部分にはごく小さなビーズで、小さな薔薇の花が描かれていた。
「綺麗でしょ。実際に着てもらったらきっともっと素敵だわ」
前面は完成しているので、残りはスカートの後ろ側だけらしい。
「ドレスの事も手紙に書こうね。三日か四日で届くから、もし受け取ってそのまま来るなら、四日後か五日後には村に着くはず。
それまでに完成しそう?」
「大丈夫よ。あと二日もあれば仕上がるわ」
美波はミチルと二人でローザ様に手紙を書き、小鳥に託して空へ飛ばした。
銀で出来た小さな鳥は、冬の太陽の光を跳ね返して、青空に溶けていった。
「よし、これで大丈夫。ミチルは残りの刺繍、頑張ってね」




