雪見露天風呂
その日の夜、美波はリンや他の女性達と露天風呂にいた。冬になっても皆の憩いの場である。
今夜は雪がやんでいて、丸い月と星空が美しい。
あれから改良してただのジャグジーだけでなく、炭酸泉も楽しめるように新しいボールを作ったのだが、体が温まると大人気だ。
小さな気泡が弾けて腕に付いた空気の塊は、じっとしているとだんだん大きくなり、一つにまとまり水面へ上がってくる。
パチパチと小さな音をたてるお湯に浸かりながら、膝の上のユキちゃんとアヒルさんで遊ぶ。
「お姉ちゃん、アヒルさんもプチプチついてるね!」
黄色いボディに沢山の気泡を付けたアヒルさんが珍しいようで、水面につけたり上げたりしている。
「パチパチしてるからね。ほら、ユキちゃんのしっぽもプチプチ付いてるよ」
「ほんとだ!プチプチ!」
楽しそうにしているユキちゃんと対照的に、周りの女性達は湯船の縁に寄りかかり、ぐったりしている。
「リン、大丈夫?疲れちゃった?」
しっかりもののリンも初めての遊びにテンションが上がってしまったようで、村の大人達はもれなく燃え尽きている。
男湯も今日は珍しく静かなものだ、あの後ナギとカケルとハヤテはそれぞれの父親にねだって大人用コースにチャレンジしたのだ。
結果、怖いけど楽しいという魔のループにはまりはしゃぎすぎた結果、いつも賑やかなカケルとハヤテは、借りてきた猫のごとく大人しくなっているらしい。
「大丈夫よ~。ちょっとハメを外しすぎただけだから。だって楽しかったんだもの、あんなスリルのある遊び、初めてだったわ」
周りの女性達も同意している。体力自慢の人狼族がこんなにぐったりするとは…何回滑ったんだ…
「楽しかったんなら良いんだけど、予定外の物が出来上がったよね」
「ねー。クロとギンが張り切るから…あとはユーリのせいね」
うんうんと皆頷いている。そう、元凶はその三人だ。美波のジェットコースターの話で盛り上がり、村の若い男達をそそのかして巨大雪山を作り上げたのだ。
まぁ、イツキさん達年長組も、張り切って大人用のソリを作ったりしたので同罪か…
「まぁ、たまには良いんじゃないか、こんな日があっても。かくいう私も我を忘れてしまったよ、頭脳労働以外でヘトヘトになるなんて久し振りだ。でも悪くない」
クールなルリさんまで、楽しんでくれたらしい。
「そうですね。たまには良いですよね。でも嫌な予感がするんです、もっと大きくてスリル満点のコースを作り上げそうな気がして…」
あー。やりそう…またしても、皆が頷いている。
「でも、それはそれで楽しそうじゃない?」
そう言ったのは誰だったのか、クスクスと笑いつつ皆で出した結論は「そんな面白そうなものが出来たら、楽しまなくちゃ!」だった。
ホカホカのユキちゃんを抱き上げて、脱衣所へ向かう。今日はリンが力尽きているので、美波が着替えを手伝う。寒くなったのでこちらにも設置してあるドライヤーで髪を乾かしてやり、今日は白猫の着ぐるみを着せてあげる。
「お姉ちゃん、今日はお泊まりしていい?」
美波の首に両手を回し、甘えてくるユキちゃんを抱き上げて、もちろんと答える。リンにお泊まりを伝えてから、ハクとミチルも誘うことにした。
外に出ると、ちょうどハクとミチルが出てきたところだった。今日のハクはホワイトタイガーだ。
安定の可愛さである。
「ハク、ユキちゃんがお泊まりするんだけど、一緒に来る?」
「うん!いくー。ミチルも一緒?」
「いいわよ。ギンもぐったりしてたし、今夜はのんびりさせてあげましょう」
ギンもぐったりお湯に浸かっていたらしい。クロとユーリも同様だそうな。
静かなユーリ…気持ち悪い。
「あの三人はしゃいでたもんね。後はライさんか…
明日までに回復するのかな?」
「ほんとよね。楽しいのは分かるけど、限度ってものがあると思うわ」
ミチルも楽しんでいたが、大人なので程々にしたようだ。
「お姉ちゃん、今日のごはん何?」
「んー。何にしようかな、揚げたてコロッケとかどう?三角牛の挽き肉のやつと、ゆで卵と生クリームとベーコンのやつ、二種類作ろうか」
キャーッ!おいしそう!と大喜びの子供達を連れて、暖かい我が家へと向かう。
村の外は真っ暗だが、村の中は道を照らすレンガの光と、家々の軒先のランプの明かり、そして先日作った雪のランプのお陰で、ほんのりと明るい。
月明かりの下を歩き家につく頃には、寒さで鼻の頭が真っ赤になっていた。
「さむーい!早く入ろう。すぐご飯作るからね」
美波はジャガイモを茹でて、手早くコロッケを作る。スタンダードないわゆる牛肉コロッケと、ジャガイモに粗く刻んだゆで卵と生クリーム、ベーコンでクリームコロッケ風に仕上げたコロッケだ。
揚げたてのこれと、ビニールハウスで採れたレタスをパンに挟めば完成だ。
子供達には半分にカットして、手渡してあげる。作りおきの野菜とトマトのスープを温めれば、短時間でご馳走が出来上がる。
「今日は一杯遊んだから、お腹空いたでしょ?
一杯食べてね」
本当はソースを掛けたいところだが、手に入らないので具材にしっかり味をつけてある。
そのままで美味しいコロッケサンドだ。
「いただきます!」
「はい、召し上がれ」
ムグムグと夢中で食べるハクとユキちゃん、どうやら気に入ったようだ。
「美波、この卵の入ったコロッケ、凄く美味しい!
クリームコロッケよりあっさりしてるけど、クリーミーで大好きよ」
ミチルも気に入ったらしい。クリームコロッケは冷やして固めなければいけないが、これは割とすぐに作れるので、時間がないとき便利なレシピだ。
本当はカレーコロッケも作りたいのだが、カレー粉にはまだ出会えていない。
「良かった、一杯食べてね」
三人とも沢山遊んだせいか、いつもより多く食べた。多目に作った夕食は綺麗に無くなった。
「今日のデザートは干し柿だよ。寒くなったから、良い感じに仕上がったの。食べてみてね」
食後に熱いお茶と一緒に干し柿を出す。
三人とも初めての味だ。
「種があるから気を付けてね、ミチル」
子供達には手でちぎって小さくした物を渡す。
「あまーい!お姉ちゃんコレおいしい」
「あたしも好き!甘いねぇ」
ミチルはモグモグしながら目を閉じて、うっとりしている。
「気に入った?ようやく食べ頃になったから、明日には皆に分けることになってるんだよ。コレは味見用ね、発案者特権ってやつ」
どうかやら干し柿は、エルフだけでなく子供達にも人気らしい。シブガキの木は大木だったので、大量の干し柿が出来上がった。
五百個くらいはありそうだ。
「ローザ様とフェラリーデ様にもおすそ分けしたいんだけどなぁ」
「すれば良いんじゃない?ローザ様は小鳥を飛ばせばドラゴンのお二人とすぐに来そうだし、コザクラ町へはソリで行けるもの。私もローザ様にドレスを早く渡したいし」
「ミチル!そうだよね!その手があったよ、ソリがあるもんね。明日シロガネ様に相談してみよう」
冬ごもり中とはいえ連絡手段はあるのだ、むしろおすそ分けしなかったら恨まれそうだ。
ローザ様は、食べ物に関しては自制が効かないのだ。
はしゃぎ疲れたのかいつもより早くダウンした子供達を運び、ミチルと美波もベッドに入る。
今夜は月明かりが美しい。
「おやすみ、ミチル」
「おやすみ、美波」
明日が楽しみだ、ソリを誰が牽くのかで絶対に揉めるな。
そんなことを考えつつ、美波はすぐに穏やかな眠りについた。




