初雪、そして冬がやってくる
ドラゴンの来訪から二十日ほど過ぎた日の朝、家の外に出るとうっすらと雪が積もり、空からはアラレのような雪が降っていた。
肩に落ちた一片の雪を見れば、美しい結晶が見てとれる。
「寒いわけだな、初雪だ。」
今朝は一段と寒い、家の中は床暖房とパネルヒーターのお陰で快適たが、一歩外に出ると凍える寒さである。
防寒ブーツとコートに身を包み、リンがくれた手編みのマフラーを巻いて、フル装備のモッコモコ状態の美波は、ミチルの家へ向かっていた。
今日はミチルのお仕事の手伝いをする事になっているのだ。ちなみに今更ではあるが、ミチルの仕事はそのセンスと腕を生かした刺繍である。
富裕層やエルフ達を顧客に持つ洋服屋さんから依頼を受けて、土台となる服や布に刺繍を施すのだ。
美波はミチルの刺繍にプラスして、更に美しく仕上げるための材料を提供する事になっている。
この世界にも宝石を加工する技術はあるので、ルビーやサファイアにエメラルド、パールなんかを布に縫い付けていくことは出来るらしいが、豪華にすればする程に重くなり、洗濯が大変なのだ。
当然、とんでもなく高価になる。
そこで提案したのが、ガラスビーズである。
スワロフスキーと言えば思い浮かぶだろうか、言わずと知れた高級ビーズである。あのキラキラを惜しみなくビーズ刺繍で縫い付けたら、美しいドレスが出来るはずだ。
美波の能力ではビーズに穴を開けることは出来ないが、穴を開ける前の状態ならば色やカッティングを工夫して、無限のバリエーションで作る事が出来る。
試作品に穴を開ける道具の作成には、ルリさんと相談して成功している。ルリさんが魔方陣を書き、美波の人工魔石を動力にしたビーズ専用の道具だ。
台座にビーズを固定し、小さなドリルで穴を開けるのだ。
ドリルは設計図を書き、コザクラ町の鍛治屋さんに特注して作ってもらったのだ。
夏の終わり頃に注文して改良を重ね、冬がくるまえにどうにか実用化に成功したのだ。
今日は、色や形のバリエーションについての打ち合わせだ。
「おはよう、ミチル。初雪だよ。」
「おはよう、美波。いよいよ冬籠もりね。」
ミチルの家はご両親と暮らしていた実家で、ギン達の家と同じ様な作りだ。家の中はパネルヒーターのお陰でじんわりと暖かい。リビングのテーブルには試作品一号として作り上げたビーズを刺繍した、サンプルが並んでいる。
「うわぁ綺麗。予想以上の出来だね、ミチル凄い!」
料理は得意だが、裁縫は苦手な美波である。
ビーズを使ったアクセサリー等は趣味で作っていたが、編み物と縫い物は守備範囲外なのだ。
ミチルの作ったサンプルは、二十㎝四方の光沢のある端切れに幾何学模様を描いたものと、蔦と花を図案化したもの。
どちらも光の加減でキラキラと光り、スカートに施せば歩くたびに表情を変えるドレスが出来そうだ。
「とりあえず二つ作ってみたの、他にも伝統的な図案があるし、オリジナルで作ってもいいと思ってるわ。
あとは、どの層をターゲットにするかよね。」
そうなのだ、この世界では布に何かを縫い付ける装飾と言えば宝石だったので、王族やエルフといえども特別な時にしか、そういった衣装は身につけない。
一般庶民は言わずもがなである。
「そうだね、私は普通の女性がちょっと頑張れば買えるような、ほんの少し非日常の特別な服くらいの感じがいいと思うな。デートの時とか、記念日の食事とかさ。
あとはウェディングドレスとかも良いと思うんだけど、こっちにもあるのかな?」
ミチルに確認すると、結婚式は行うしその時はいつもよりちょっといい服を身につけるらしい。
ただ決まった色や形は無いそうで、現代日本の感覚とはだいぶ違うようだ。
「そうなんだ、ウェディングドレスって女の子の憧れなんだけどなぁ。ミチルの腕があればキラキラのドレス作れると思うんだけど……」
「どんな感じのデザインなの?書いてみて。」
ミチルに促され、ミニホワイトボードに何パターンかイラストを描いていく。
マーメイドラインにプリンセスラインなど、ベーシックなウェディングドレスだ。




