冬ごもりの準備完了
秋晴れの青空の下、洗濯物が風に揺れている。
本日は筋肉痛に耐えつつ各家庭を回り、パネルヒーターの設置を行う事になっている。午前中は年長者から順に回り、久しぶりにギンの家で四人でお昼ご飯だ。
「最近忙しかったから疲れているだろう、体調は大丈夫か?」
ギンも心配してくれているらしい。
「大丈夫、無理はしていないから。今日は昨日の乗馬のせいで筋肉痛なだけなの。甘く見てたよ乗馬。
馬車を出してもらうのが申し訳なくて馬にしたんだけど、朝から皆に笑われたよ……生まれたてのモコみたいって。」
ギンは笑いを堪えようとして失敗し、リンにはたかれている。
「お姉ちゃん、痛いの?大丈夫?」
なんて優しい子!ハクくらいだ純粋に心配してくれるのは。
「まったくギンは…ごめんね、美波。
治癒能力で治せないの?」
そうなのだ、実は朝ベッドから降りた時の衝撃的な痛みに耐えかねて、自身に治癒能力を使ってみたのだ。
「それがね、やってはみたんだけど怪我でも病気でもないから効かないみたいでさ。
まぁ、二三日で治るだろうし、それまでの我慢だよ。」
乗馬をマスターするべきか、自動車かバイクを作るべきか、真剣に考える必要があるかもしれない。
午後からは飼育小屋や作業スペースを回る、まずは木工工房だ。
イツキさんに挨拶して、要望のあった所にパネルヒーターを取り付けていく。
ちなみに村人はそれぞれが得意なことを仕事にしていて、完全に個人で作った物は個人の収入になり、何人かが共同で作業し、村の商品として売り出すものは村の収入として一部を分配、一部を貯蓄に回すそうだ。
木工工房には他の村や町から弟子入りした若い職人さんが何人かいて、イツキさんを始め年長の職人に技術を学びながら修行中だ。
見習い職人達は先日の魔法瓶作りやランプ作りの手伝いでお金を稼ぎ、同じ様に娘や息子が他の村や町へ修行に出ている村人の家に下宿している。
なかなか良くできたシステムだ、村によって特産品は違うので、それぞれの希望で弟子入りするらしい。ちなみにギンの父母は木工と刺繍の達人で、ギンの結婚を期にここから三日程の村に教育係として招かれて、移住しているそうだ。
美波はまだ会えていないが、春になったら毎年一週間くらい帰ってくるそうなので楽しみしている。
同じ様にミチルの両親と兄も他の村や町へ移住していて、現在の村人は元からの住人と学ぶためにやって来た住人が混在している。
そのまま村で恋に落ち結婚する若者もいて、出会いの場にもなっているそうだ。
子育てを終えれば他の場所で技術を伝えたり、逆に伴侶を連れて村に戻ってくる者もいて、常に新しい風が吹きそれぞれの村の衰退を防いでいる。
何とも自由で、合理的なシステムだ。
「ありがとう美波、これで作業も捗るよ。薪を燃やすと木が乾燥しすぎるからな、これなら気にせず暖かくできて快適だ。」
大きな手でワシワシと頭を撫でられる、イツキさんは頼りになるお父さんという感じで、美波はこうして撫でられるのが実は好きだったりする。
「役に立てて良かったです。冬の間にランプや冷蔵庫を沢山作るんですよね、一緒に頑張りましょう。」
冬ごもりの間にお弟子さん達は、シンプルな家具を一人で作りながら彫刻の練習に励み、イツキさん達ベテランは己の技術の粋を尽くした高級ランプや冷蔵庫を作るのだ。
「おう、よろしくな。楽しみにしてろよ、皆凄いものを作るって張り切ってるからな。」
イツキさんや他の職人さん達に別れを告げて、飼育小屋へ向かう。
「こんにちは、アキトさんミノリ。」
「ごくろうさん、美波。今日はよろしくな。」
二人に迎えられて、モコとハナビラドリの小屋にパネルヒーターを設置していく。今まではモコはともかく、ハナビラドリには凍死してしまう子がいたらしいが、今年の冬は大丈夫だろう。ヒヨコも無事に育つはずだ。
「ありがとな、美波。今年の冬は我慢せずに卵が食えるぞ。この前の卵のフライ、あれ旨かったもんなぁ。」
卵のフライとはゆで玉子の回りにハンバーグ種をつけてお団子にして、パン粉をつけて油で揚げた一品だ。ようはスコッチエッグをフライにしたもので、若者の心を鷲掴みにしたらしい。
レンガとシールを作った時、倉庫に箱を運び込んでくれたお礼にと、美波が作ってご馳走したのだ。
「そんなに気に入ったの?シオリさんに作ってもらえばいいのに、簡単だからきっともっと美味しく作ってくれるよ。」
ミノリの母親のシオリさんは料理上手で、たびたびお世話になっているのだ。
「シオリに教えておいてくれよ美波、ミノリときたらずっと自慢してくるんだよ。気になってしょうがない…」
アキトさんは苦笑いだ。そこまでか……ミノリ。
「卵もお肉も大好きだもんね、ミノリ。
じゃあ後でシオリさんに言っておくね。」
そんな話をしつつ、パネルヒーターの設置は無事に終了した。
「モコはあの毛並みだし寒さに強いのは分かるんだけど、みんなはどうなの?
やっぱり狼型の時の方が耐性があるの?」
室内はわりとしっかり暖かくするようだが、美波のイメージする狼は雪なんてへっちゃらという感じだ。
「そうだな、狼型なら吹雪でもどうにかなるレベルで寒さには耐性があるぞ。雪が積もっても狩りに行けなくはないし、子供達も普通に外で遊ぶぞ。」
そうなんだ。雪と戯れる子狼、なんて素敵……
遠くに行きそうになるが、自分が一緒に遊べないことに気付いて愕然とする。土の上でもついていけないのに、雪上なんて絶対に無理だ。
更に寒さに弱い自信がある。
「え~っ、冬の間子供達と遊べないじゃん。
私の癒しが~っ!」
「落ち着けよ美波、何かないのか?室内で出来る遊び。元の世界にあったやつで出来そうなやつあるだろ?」
若干引きぎみのミノリに宥められて、落ち着きを取り戻す。考えてみるねと、お礼を言ってシロガネ様のお屋敷へ行ってみることにした。
「こんにちは、シロガネ様。そんな訳で、冬の間に子供達が室内で遊べるように、何か作っても良いでしょうか?」
唐突な美波の申し出に、シロガネ様は笑顔で同意してくれた。
「かまわないよ、外を走るだけでは子供達も退屈するからな。何だったら冬の間の勉強もそこですると良い、息抜きに体を動かせば勉強も捗るだろう。
ルリは美波のアイデアが大好きだしな。」
成る程、ルリさんは今まで勉強会を外でやっていたから、冬季はそこで行えば体育館のある学校のような感じになる。
「ありがとうございます、シロガネ様。
頑張って良いものを作りますね。」
提供されたのは広場のそば、木工工房の北側だ。
今夜中に考えて、明日は学校をつくろう!
邪な想いからスタートしたはずが、思いがけず村のためになりそうだ。ミノリにはさっきの会話を忘れてもらおう。




