森でピクニック
翌朝、美波特製のピクニックランチを餌に、良いものが見つかった時の荷物持ちとして、いつものメンバーに加えギンとミノリも参加することになり、総勢十一人で森へ向かった。
「今日は何を探すの?美波さん。」
ナギは相変わらずしっかりものだ、カケルとハヤテは既にかなり先を走っている。
「う~ん、今回は特にこれっていうのはないんだよね。冬の備蓄に役立ちそうな物とか、面白い物があったら教えてくれるかな。」
は~い!と良い返事をしてカケルとハヤテ以外の子供達は駆け出した。あの二人にもナギが伝えてくれるだろう。
「あんまり遠くへ行くなよ!」
ギンの声に、は~い。と遠くから返事が帰ってくる。
「さて、俺達はどうする?」
ミノリの問いに、大人達はとりあえず胡桃などのナッツ類を拾ったり、キノコを採ったりする事になった。美波は鑑定能力を使いつつ、何か面白い食材や素材を探すことにする。
暫く歩くと美波ちゃ~ん、とナナとマナの声が聞こえてきた。ハクが戻ってきて手を引いて案内してくれる。子供達の所へ向かうにつれフワッと良い香りが漂ってくる、これはもしかして……
そこにあったのは金木犀の大木だった。
大人三人が手を伸ばして漸く届くほどの太い幹、地球ではあり得ない巨木だ。
「すごい…綺麗。良い匂い……」
ちょうど花の盛りなのか、はらはらと花が降ってくる。木の下は一面オレンジ色の絨毯だ。
「綺麗でしょ、美波ちゃん。良い匂いだし、この季節のとっておきの場所なんだよ!」
ナナとマナに手を取られ、木の真下へ進む。
「うん、すごいねぇ。元の世界にも同じような木はあったけど、こんなに大きいのは絶対ないよ。
教えてくれて、ありがとう。」
頭を撫でると二人ともクスクス笑い、嬉しそうに駆け出した。それにしても凄い光景だ、そしてこの香り。美波は金木犀が大好きだ、花の香りも形も大好きで、一年の内ほんの一瞬しか咲かないのを残念に思っている。
「もうこんな時季ね、良い匂い…」
追い付いてきたミチルが隣にならぶ。
「ほんとに。元の世界にもあったんだよ、もっと小さいけど。この香り大好き、秋の花だよね。」
しばし夢のような光景を堪能し、更に森の奥へと進む。木々の葉は美しく紅葉し、赤や黄色に色付いた葉がはらはらと散り、地面を覆い尽くしている。
美波は立ち止まり、何気なく葉を一枚手に取る。
「何か見覚えのある形、カエデかな?」
鑑定してみるとカエデ、しかもサトウカエデだ。
「メープルシロップが作れるじゃん!」
後ろを着いてきていたギンとミノリが不思議そうにしていたので、説明する。
「メープルシロップっていうのは、名前のまんまサトウカエデの木から採れる甘いシロップなの。
木の幹にナイフで傷をつけて樹液を採取して煮詰めて作るんだと思う。」
改めて木を鑑定すると、メープルシロップの作り方が表示される。
「樹液を採取するのは春先みたい、雪解けの直前くらいが一番良いんだって。メープルシロップってこっちには無いもの?」
大人四人は顔を見合わせて首を振る、王都のような大都市はともかくこの辺りでは見たことがないらしい。
「そうなんだ、じゃあ作らないとね!
美味しいんだよ、メープルシロップ。独特の風味があってパンケーキにかけたら絶品だよ。」
ゴクリ。誰だ今、つばを飲み込んだの。
「約束よ、美波。春になったら絶対に作りましょうね。」
ミチルに手を握られ約束を交わし、また一つ新しい味が生まれる事が決まった。
その後もキノコを採りナッツを拾いながら森の中を進んでいく、子供達はギリギリ目に入る位置で駆け回っている。
「そろそろお昼ご飯にする?」
「もう少し行くと川があるからそこで食べよう。」
子供達を呼び戻してミノリの指差す方向へと進んでいくと、水の音が聞こえてきた。
ハクロウ村を流れる川の上流にあたるその川のほとりで、ランチタイムにする事にした。
男四人が持ってくれていた荷物から大きめの布を取り出し、地面にしいて料理を並べていく。
その間にミノリとギンは器用にかまどを作り、川の水を沸かしてお茶の準備をし、子供達はクロに連れられて川の水で手を洗っている。
本日のランチメニューはエビカツサンド(タルタルソース味)と卵サンド、ハナビラドリとキノコのクリームシチュー(魔法瓶入り)クリームシチューはミルク・バター・小麦粉で作れるのだ。
デザートはスイートポテト、サツマイモが収穫出来たので作ってみた。
品数は少な目だが量はばっちり、昨日の夜から仕込んだ力作である。取り皿を一人分ずつ配りミントのハーブティーを入れたら、皆揃ってお昼ご飯だ。
「わぁ~。美味しそう!食べていい?」
待ちきれないとしっぽを振る子供達にサンドイッチを手渡して、魔法瓶の蓋を開けてやる。
「どうぞ、召し上がれ。シチューは熱いから気を付けて食べてね。」
は~い!と、良い返事をして食べ始める子供達に負けじと、大人達も食べ始める。
「このクリームシチュー熱々で美味いな。外で温かい物が食べられるって、冬なら尚更いいもんだろうな。」
大人サイズのクリームシチューを食べながらギンが言う。
「もう三時間は経ってるだろ?こんなに熱いままで食べられるのは驚きだな。」
ミノリも感心しているようだ、美波はハクの
シチューを冷ましてやり食べるのを手伝いながら、
魔法瓶を作って良かったとしみじみ思った。
タルタルソースを体験ずみのハクとミチル以外にもエビカツサンドは好評で、女性達にレシピを公開する事にした。タルタルソースは他のサンドイッチと合わせても良いし、魚のフライなんかにもぴったりだ。また一つ新しい味が増えて、アレンジ料理も生まれそうだ。
山のようにあったサンドイッチはあっという間に皆のお腹へと消えて、今はデザートタイムだ。
「美波、これサツマイモなんでしょう?
別物みたいに美味しいんだけど!」
ミチルはもう二個目に突入している。子供達はもちろん男性陣にも好評らしい。
「意外と簡単なんだよ。サツマイモを蒸かして潰して裏ごしするでしょ、そのあとバター・ミルク・砂糖を入れて滑らかにしたら、形を整えて卵を塗ってオーブンで焼くだけだよ。」
サツマイモをお菓子にする発想が無かったらしく、意外にびっくりされた。ゆっくりとお昼ご飯を堪能して午後の探検再開だ。
暫く歩くとナギが何かを手に戻ってくる。
「美波さん、これ普通は食べない酸っぱいリンゴなんだけど、使えるかな。」
手渡されたのは小振りなリンゴ、見た目は濃い赤でとっても美味しそうだ。
「酸っぱいの?野生のリンゴってことかな。」
鑑定してみると(野リンゴ・生で食べると酸っぱい、加熱すればシャキシャキとした歯応え、砂糖で煮ると美味)とある。
「ナギえらいっっ!これは使えるよ。向こうにも加熱すると美味しい紅玉って種類のリンゴがあったんだけど、まさにこれだよ。
砂糖で煮てケーキに入れたり、ジャムとして使っても良いし、カスタードクリームと一緒にパンにしても美味しいはず!
パイ生地が作れればアップルパイも出来るんだけど、レシピがなぁ……開発するべきかも?」
他のメンバーも集まってくる。
美味しいの?甘いの?と、期待に満ちた目でしっぽを振っている。
「よし、持てるだけ持って帰るぞ!」
ミノリの声に一斉に駆け出す。
どれだけ持ち帰るつもりなのかちょっぴり不安になる美波だったが、煮込んでから能力で容器を作り過熱殺菌した瓶詰め状態にすれば、一冬問題なく保存できるはずだ。
リンゴのコンポートは色々使えるし、頑張って作ろうと思い後を追う。最終的にナッツとキノコと魔法瓶を美波と子供達が手分けして運び、男四人が背負いかごに山盛りのリンゴを担いで帰ることになった。
この日公民館からリンゴを煮るなんとも言えない甘い香りが漂い、匂いにつられて集まってきた村人達に、急遽リンゴパンケーキを振る舞うことになった美波だった。




