エルフの想い、美波の覚悟
日が落ちて辺りが暗くなり広場の灯りが点る頃、フェラリーデ様とローザ様と三人で散歩に出た。
まだ夜の少し手前の空は夕日の最後の光の名残を残し、藍色へのグラデーションが美しい。
噴水の照明が照らし出す水の流れはその形を刻々と変えて、ぼんやりと辺りを照らしている。
「綺麗ですね。ランプの明かりの何倍も強い光なのに、優しい明るさです。」
フェラリーデ様の言葉にローザ様も頷く。
「本当に。噴水のこの水の動き、いつまででも見ていられるわ。それにこの明かりも、星のすぐ下を歩いているみたい。」
ローザ様は空を見上げてくるりと回り、サイドを編み込んだ長い金の髪が風をはらんでふわりと舞った。
「元の世界は人工の光が溢れていて、夜でも昼のように明るかったんですよ。
それに比べたらささやかな光ですけどこのくらいで充分ですよね。
自分の周りをほんの少し照らす光があれば人生がちょっと楽しくなって、皆が綺麗だって喜んでくれます。」
噴水の縁に三人で腰掛けて、空を見上げる。
「美波。あなたは今、幸せかしら。」
「はい。幸せです、ローザ様。
見知らぬ世界で一人ぼっちだった私を、この村の皆は家族だと言ってくれます。友人も沢山できたし、シロガネ様は私を可愛がってくれた祖父を思い出すんです。
この世界で辿り着いたのがこの村で、本当に良かった。」
「そう。安心したわ、我が君もあなたの事を気にかけておいでよ。何か困ったことがあったらいつでもフェラリーデを訪ねるのよ。
長い時を生きることは良いことばかりではないわ、今は大丈夫でしょうけれど、この先一人で抱えきれなくなったら必ず相談して頂戴ね。
そして長く生きている先輩から一つだけアドバイスよ、いつかエルフの友人を作ってね、長い時を共に過ごせる友人はきっとあなたの支えになるわ。」
ローザ様は空を見上げたまま、美波の手を握ってそう言った。
「はい。ローザ様、ありがとうございます…」
白くてしなやかな手をぎゅっと握り返し、美波は強く目を瞑った。
「さぁ!お風呂へ行きましょうか。
露天風呂もライトアップしてるんです。気持ちいいですよ!」
わざと明るく声を上げて、ローザ様の手を引いて立ち上がる。
二人がこの時間を設けてくれたのは永遠を生きる自分への心遣いだと、美波は分かっていた。
それはずっと心の片隅にあった不安で、今はとても小さいけれど、いつかは無視できないものになると自覚しているものだった。
「そうね、行きましょうか。」
ローザ様と手を繋ぎ、月明かりの下を三人で並んで歩く。
大丈夫だ。
不安はあるけれど心配してくれる人がいる。
私は大丈夫。
繋いだ手に力を込めて、美波は前を向いた。




