お風呂に入りましょう
食後に早速バスタブにお湯を張り、ミチルに使い方を説明する。ハクはまだ人間でいうと五才なので美波が入れても良かったのだが、小さい子をお風呂に入れたことがないし、耳に水が入ったらどうしようといった、人狼ならではの心配もあったのでミチルにお願いする事にしたのだ。
お湯に浸かるのに慣れていない二人の為にぬるめの三十八度に設定して、一番風呂を使ってもらった。
「何か楽しそうだな、やっぱりハクと一緒に入れば良かったかも…」
バスルームから聞こえてくるハクの、キャッキャッという笑い声にちょっぴり後悔する。
まぁ、いくらミチルがオネエでゲイだとしても、三人で入るのは無理がある訳だけれど…
「ミチルは別に平気とか言いそうだけど、私が無理。ナナ・マナなら一緒に入ってくれるかな?
いや、ここはやっぱり思いきって露天風呂作っちゃう?」
心の声が駄々漏れの美波だ、頭の中で露天風呂の設計図がかなり具体的に完成する頃、バスルームのドアが開いて二人が出てきた。
「お姉ちゃん、おふろ気持ち良かったよ~!」
体からホカホカと湯気が立ちそうなハクが、膝の上にダイブする。
ミチルに渡されたタオルで、髪としっぽを丁寧に拭いてやりながら尋ねる。
「お湯に浸かるの初めてでしょ?大丈夫だった?」
「うん、最初はちょっとびっくりしたけど、だんだん温かくなってポカポカしてきたし、アヒルで遊ぶの楽しかったの!」
子供とお風呂と言えばアヒルちゃんだ!という思い込みのもと、美波が作った親子の黄色いアヒル五匹セットは、ハクの心をガッチリ掴んだようだ。
「大喜びで遊んでたわよ、お陰であんまり手が掛からなかったけど。
私が体を洗ってる間ずっと一人で遊んでたし、二人でバスタブに浸かってからも飽きずに遊んでたわ。
バスタブって良いわね、美波。温まるし、今なら化粧水がばっちり浸透しそう。」
さすがのコメント、やっぱりミチルは女子力が高いと思いつつ、二人に冷蔵庫で冷やしたレモネードを手渡す。
「気に入って良かったよ。汗いっぱいかいたでしょ、水分補給してね。」
二人共ゴッキュゴッキュと勢いよく飲み干した。
「は~っ、美味しい。癖になりそうだわ、美波」
おかわりを要求するハクのグラスにレモネードを注いでやり、ミチルにもおかわりを注ぐ。
「いつでも入りに来てよ、あと何人かお風呂の虜にしたら川の近くに露天風呂を作るという野望を、さっき抱いたところなんだから。」
露天風呂って何?と首をかしげる二人に熱く語る美波。日本人のお風呂にかける意気込みは、異世界に行こうが薄れないのだ。
「お外で皆でお風呂に入るの?楽しそう!
作ってほしいなぁ、大じいさまに頼んでみてもいい?」
大事になってしまった、余計な事を言ってしまったかも。焦る美波にミチルが笑う。
「良いかもね。シロガネ様もお年だから足腰に痛みがあるし、お風呂に浸かれば楽になりそうじゃない?絶対皆も気に入るわよ。
本気で何人か招待して、試してもらえば良いと思うわ。」
「そう?じゃあ、声かけてみようかな…
私も入ってくるね。」
言ってらっしゃ~い。と手を振る二人に見送られ、実に約二ヶ月ぶりのお風呂を堪能した。
ホカホカになってお風呂上がりにレモネードを一気飲みして、一階の照明を消してロフトへ上がる。
ベッドは人狼仕様のキングサイズなので、ハクを真ん中にして三人で並んで眠る。
見上げれば天窓には満天の星空、地球から見るそれとは多分違うのだろうけれど、今の美波にはこれがいつもの星空だ。
「きれいだねぇ~」
一生懸命に首を伸ばして、天窓を見上げるハクを撫でてやりながら、改めて幸せを実感する。
「おやすみ、ハク、ミチル。」
「「おやすみ」」
三人並んで新居で迎える初めての夜、どんな夢をみるだろう。
起きたとき思い出せなくても、それはきっと幸せの余韻を残すはず。
こんなに幸せな気分で眠りについたのだから、間違いなく今夜の夢はいい夢だ……




