異世界転移しました
森の中である。
木々の合間から光が差し込んでいる、丈の短い下草と小鳥の声。
「 綺麗だなぁ……綺麗だよ!だけど!!
ここ何処よ?道もないし人もいないし、大丈夫なの?わたし?」
軽いパニックである。
無理もない、説明無しでいきなりの異世界転移。
あまりのインパクトに霞んではいるが、ついさっき刺殺されたばかりだ。
しかし彼女は伊達に不幸な人生を生きてきた訳ではない。
立ち直りが早いのは生きる術だ、パニックで固まっていても誰も助けてはくれないのだ。
「 落ち着こう。たぶん大丈夫。
スローライフだ、ファンタジーだ。
うん、よし。とりあえずステータスをチェックしよう。神様も言ってたし、詳しくはステータス画面でって…
くっ、神様め。何が詳しくはステータス画面で!だ
何でもかんでも詳しくはWebで!みたいな。
とりあえずそう言っとけ、みたいな!!」
全く落ち着いていない。思い出したら怒りがこみ上げてきたらしい。
何度か深呼吸して、どうにか冷静になったようだ。
「 よし。ステータス画面っと、おぅ、本当に出るよ。えっと、鑑定能力、不老不死、治癒能力、言語能力。ここまでは何となく分かるんだけど、包み込むって何だろう?
開いてみてっと、任意の機能で包み込む能力です、か。
とりあえずやってみよう。事故、天災、攻撃なんかから守るように自分を包み込んでっと。」
異世界初の魔法を使用した彼女だったが、目に見える変化はない。
キラキラとか、光のシャワーとか派手なエフェクトはないらしい。
「 出来てるのかな?転んでみるか。」
そう言うと彼女は勢いよく転がった。
言い間違いではなく本当に転がったのだ、それはもうキレイにゴロゴロと。
「 お~っ。すごいすごい、何だこれ。
アレみたい、あの透明のビニールボールみたいなのに全身入って、水の上で遊ぶアレ。
ぜんぜん痛くないし、ポヨンポヨンって感じ?」
ツボに入ったらしい、妙なテンションでしばらくゴロゴロと転がっている。
その時、微かな声が聞こえた。
「 キャンッ、キャーン 」
「 今の声、ワンコ?ワンコだよね?
まだ小さい子の声だった、助けてあげなきゃ。
待っててね!」
断続的に続く子犬の声を頼りに走り出す。
彼女はモフモフした生き物にとにかく弱い、中でもワンコを愛している。あんなにも愛らしく、賢く、健気な生き物が他にいるだろうか。
いや、いないっ!!
心の中で叫びつつ、ひたすら走った。