プロローグ 人生の終わりと第2の人生の始まり
プロローグ 人生の終わりと、第2の人生の始まり
「いくらなんでもあんまりじゃない?」
冷たいアスファルトの上、彼女の体は冷えていく。
寒さのせいではない、虚ろな視線の先には赤い流れ。
血が、流れて、流れて……
そして彼女 (佐々木美波) は享年25歳で人生を終えた……はずだった。
はずだったのだが、目覚めた時に美波がいたのは真っ白な空間。
そして目の前には土下座するおじいさんらしき人。
推定なのは最初から全力で土下座しているせいで、全く顔が見えないからだ。
白いローブに見事な白髪、ちなみにロングヘアーだ。
ありがちな神様スタイル、ただし土下座しているから威厳はゼロだ。
予想外の状況で思考停止しそうだけれど、踏みとどまる。
推定おじいさんに土下座されているのがいたたまれない、ほぼ祖父母に育てられた彼女は老人に弱いのだ。
「顔を上げて下さい。お願いします」
推定おじいさんの肩に手をかけて、顔を上げてもらう。
どうやらおじいさんで確定だ。
あまりにステレオタイプな展開に美波はちょっと笑いそうになる。
この後、何かのミスで死んでしまったので、お詫びに異世界転移なんて言われたら、まさにラノベの世界だ。
多分全部夢なのだろう、刺された事も含めて。
そんな事を考えている彼女に、老人は告げた。
「申し訳ないのですが、夢ではありません」
「え?」
「貴女の予想通り、こちらのミスで規定より早く死亡という事態になってしまいました。
書類上の手違いで、貴女には規定の5倍の不運が割り振られていたのです」
想定内というか想定外というか判断に迷うところであるが、どうやら本当に死んでしまったらしい。
何とか状況を把握せねばと美波は老人に尋ねた。
「とにかく、説明してもらえますか?」
「申し訳ない。貴女は元の世界では亡くなっています。
一生の内の幸運と不運は個人差はあれ、あらかじめ決まっているのですが、貴女には5倍の不運が割り振られていた訳です。
父親が浮気した挙げ句家を出て、母親も病気で亡くなり、祖父母の元で育つも大学進学直前2人が交通事故で死亡。舞い戻った父親が進学資金を持ち逃げ。
進学を断念し就職した会社で同僚に告白され、断ったにもかかわらずその男の元カノに逆恨みされて刺し殺される。
さすがにこれはない。三流小説でもここまで詰め込まないでしょう」
あんまりな言い草である。確かに本人もどうかと思う程のしょっぱい人生ではあるが。
「何だかダイジェストみたいに言われると酷い人生ですね。
私にとってはそれが日常だったんですけどね…
神様が出てきたという事は、人生をやり直せたりしますか?」
「はい。ご希望の世界へ異世界転移して頂きます。
世界を救うも良し、王子様に求婚されるも良し、まったりスローライフも良し。オプションでチート能力もお付けします」
なめらかすぎてセールストークの様である。
もちろん威厳はゼロだ。
「使命とかドラマチックな展開とかはいらないです。
戦争や揉め事なんかのない穏やかな世界が良いですね、出来たらエルフとか、しゃべる動物とか、魔法なんかがあるファンタジーな世界が良いです」
「分かりました!
最適な世界へ転移して頂きます。
では、オプションとして鑑定能力と不老不死、防御の為に任意の機能で包み込む能力、治癒能力とオールマイティーな言語能力をお付けします。
詳しくはステータス画面で!では、行ってらっしゃい!!」
「え!いきなり?打ち合わせとかは?
ちょっと待って~~~!」