3話
結局昨日は帰ってテントに入ったあと、何も手につかず暗くなりはじめた18時頃(自分の時計で)にすぐ寝ることにした。
翌日。
外はまだ暗い。携帯用のコンロで湯をわかしコーヒーをつくる。
「昨日はびびったな。でもここで生き残れればこの先の未来も見えて来るだろう。そういえばマップしっかり読んでなかったな。」
そう言いスマホの電源を立ち上げアプリを開こうとする。
「あれ、電池回復してるな?なんでだ?」
そう言いながらスマホを隅々まで見ていると。
「これ元々のスマホじゃないぞ!」
有名な林檎のマークがなくなっており、そこには変な家紋みたいなものがついていた。
「普通じゃないスマホになったってことか......どの道使えなくなるはずだったものだからいいか。それより広域マップを確認するか。」
そう思いながら開かられたアプリからマップを選択して広域を見る。
「森しかないぞ......」
そこに写っているのは山か森、湖があるだけで縮尺はわからないもののかなり広大な陸地の真ん中に見えた。
「ここまで広域にして初めて海があるな。とりあえず人のいる場所はっと......アイリスティン公国が最短っぽいな。でもどれだけ距離があることやら。その前にこれだけ広大な森を越えるのも一苦労だし、生きて森を抜けないと意味がないな......」
現在、自分がいるところは凹を逆さにしたような大陸右端の下寄りであり目指す公国は左上である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今日は狩りに行ってみますか。」
日も登り、しなければならないことが自ずと決まってきている状況で、時間を無駄には出来ない。本日中に所持している食料では無く、自分で調達出来る食料を探すことにする。
「狙い目はホーンラビットあたりかな。ゴブリンに会ったら即撤退は決めておこう。」
一応概要で調べる限り一番弱い魔物がホーンラビットだった。正直昨日のゴブリンの件であてには出来ないが、それ以下がない。出来れば弱い動物を仕留めたいが、あの心臓が圧迫されるような気分になる環境で普通の野生動物がいるか定かではない。サバイバルナイフを昨日拾ってきた長い気の棒にくくりつけ、必要最低限の装備を持って出発する。
昨日確認した境界線と思われる場所から50mも離れていない場所で、お目当てのホーンラビットを見つけることができた。載っていた概要と同じく体長は50cmと中型犬ぐらいの大きさだ。
ゆっくり...慎重に...
距離を詰める。
...パキッ...
ホーンラビットと目があった。目があった瞬間背中に冷や汗が流れた。内心では、たかがうさぎの大きい版と思っていただけに自分でも驚くぐらい焦ってしまった。
その一瞬がホーンラビットには好機となったようで物凄いスピードの白い塊が目の前に現れる。
「クッ...!」
間一髪、角の部分は右脇腹を掠めただけだったが、右半身に強烈な衝撃が走る。そのまま後ろに引っ張られるように倒れる。
どんだけの当たりだよ!このままじゃ刺される!距離が近い内に押さえ込まないと!
そう思った時にはホーンラビットは動かなくなっていた。右手に持っていた槍もどきが刺さったのと、倒れた拍子に柄が地面に固定されたため自滅してくれたようだ。
「フーフーフー...」
心臓の鼓動が高すぎる。こんなに魔物は怖いのか。
先程までのなんとかなるだろうと思っていた気持ちを切り替え。今日の狩りをどうするか考える。
「今日はこれだけにして、引き返そう」
ホーンラビットの死体を肩に担ぎ元来た道を帰ろうと後ろを向くと。
「「「グギャギャギャギャ!」」」
三匹のゴブリンが近づいてきていた。
ゴブリンまであと30mも無い。現状確実にこちらのことをわかってゆっくり近づいてきているな。...ホーンラビットを囮にして逃げるか。撤退とは決めていたものの、これから先も同じような状況は必ずと言っていいほど起きるだろうし。ここで覚悟を決めるか?さっきの戦闘のおかげか妙に気持ちも落ち着いてる今なら行けるか。
どう倒すか...棍棒を持ってる奴はホーンラビットを投げつけて牽制、今日は槍持ちはいないようだからショートソードっぽい奴二匹は槍もどきで動き回り最短で決着を付けよう。
ゆっくり考えている暇も無く、もうニヤニヤした顔をしたゴブリンたちは目前まで迫ってきていた。
...殺るか!...
「ぉぉお!」
変な声をだしながらホーンラビットを投げる。
棍棒ゴブリンになんとか命中し、すぐに槍もどきを持って走る。
右から棍棒・ショート・ショートの並びなので、左のゴブリンの腹に槍もどきを突き立てる。
「フンッ!」
刺さった槍もどきが「ミシッ」っと音を立てたが気にせず、捻りながら引き抜く。
「ギギギ...」
槍もどきが刺さったゴブリンは抵抗することなく動きが無くなっていく。
よっし!そのままもう一匹!
そう思っている内に頭の上からショートソードが落ちてきた。
「うぉ!!」
体を槍もどきを振る反動で移動させなんとか躱す。
「バキッ!」
反動のために反対側になった槍もどきにゴブリンのショートソードが命中しまっぷたつにおられてしまった。ゴブリンの顔が嬉しそうに歪み槍もどきの折れた方を見ている。
「死んでたまるかぁ!」
残っている柄を力任せにゴブリンの目に差し込み掻き回す。
...グチャ!グチュグチュ...
ゴブリンは頭が悪くても脳があるようでビクビク痙攣していた。
あと一匹...
...ブンッ!...
ホーンラビットとは比べ物にならないほどの強い衝撃をうけて痙攣していたゴブリン諸共吹き飛ばされた。
「ゴハッ!」
ヤバい、5mくらい飛ばされたか...肋がいったな...
ゴブリンが盾になったおかげで即死はまぬがれたが、重症だ。しかしアドレナリンが出ているせいかそこまでの痛みは感じていなかった。
あと一匹あと一匹...
しかし攻撃手段が見当たらない。
万事休す...いや、まだ死ねない結婚するために来たはずの異世界で何もしないまま死にたくなんかない!
走りながら、最後のゴブリンとの間に落ちているショートソードを無我夢中でつかみ近づく。
一撃。一撃躱せばあのゴブリンは大振りだ、なんとかなる。
ゴブリンが横に振り切る様にして棍棒を振った。
...ここだ!
振り始めの右方向へ身体をそらしながら棍棒の通過を待つ。通りすぎると同時に後ろからショートソードを胸の真ん中に達するように背中から突き刺す。
「死ねや!」
...ズスッ...
「ギャギャギャギャギャ!」
「何言ってるかわかんねーよ!」
突き刺したショートソードを引き抜きゴブリンの首に突き刺す。
「さっさと死ね!」
「グヒュ...」
ゴブリンがその場で崩れ落ち。体力も限界近いので座り込んだ。
「はっはっはっ、ハーハーハー...」
荒くなった息を無理やり鎮めようとしながら考える。
本当に今回は運がよかっただけだろう。スピードはないけど俺よりも圧倒的にパワーがあるし、もしあの時棍棒が直撃してたら死んでただろうな。
とりあえず他の魔物が近づいてくる前に武器とホーンラビットを拾って帰らないと。痛みもすぐ出てくるはずだしな。
そう思いながらゆっくりと帰路に着いた。