36話
ユキと手を繋ぎながら街を歩くのは久しぶりだ。最近は家かダンジョンばかりだったので余計に新鮮に感じる。
「何か欲しいものは無い?」
「...無い...」
そんなに弾まない会話に手汗がぐっしょりだ。
...こう言う場合は何喋ったらいいんだろうな...いつも一緒に居る時は何も喋らなくてもいいんだけど...街中とかだとなんか落ち着かない...
妹がいたわけでもない、文化も違う、ユキの過去も大体知ってる。この状況で何を話したらいいか真剣に悩むこととなる。その様子ユキはじっと見つめていた。
「...タカ緊張してる?...」
「いや...そのな...そうそう!セリアやミレイとはだいぶ仲良くなったみたいだな?」
「...うん...」
...はい終了...早くギルド着かないかな...
「...手繋いでいるだけで大丈夫...」
「...はい...わかりました。ユキさんには頭が下がる思いです。」
「...うん...」
結局ユキに諭されて黙って歩く。どうしようもない大人である。
ギルドは朝の依頼張り出しの為かかなりの人が詰めかけている。そんな中に「銀龍の盾」も混じって依頼表を吟味している様だ。今迄依頼表から取ることがあまりなかったので、ユキを肩車して遠目に依頼表を見ることにする。
「おい!情報と違うじゃねーか!どうしてくれるんだよ!」
受付の方から怒鳴り声が聞こえてきた。見てみると、ギルドでしつこく「森林の宝窟」の情報を聞いてた召喚者のパーティだ。最初は奴隷の女の子も含めて6人は居たはずだが現在は3人しかいない。召喚者2人は装備がボロボロで、奴隷の女の子は血だらけだ。
...んー死ぬことはなさそうだけど...てか残り三人は重症なのか死んだのか...
正直関わりたくないしどうでもいいので、また依頼表に顔を向けたが全員が受付の方をむいており、自分だけそっちに向くのは気が引けた。
...ドンッ!...
「ここに冒険者に金払って聞いた情報なんだからギルドが賠償しろ!こっちは奴隷が三人も死んでんだ!装備もボロボロだから当面の金もだ。」
受付のカウンターを叩きながらかなり横暴な事を言っている。
...なんでこんなアホな事いってるんだ?いくら平和の国ジャポンから来たとしても、頭の中御花畑過ぎないか?それとも洗脳?...
少し気になったので鑑定をかけたが状態に洗脳は表示されて無かった。そうなるとこの少年達が御花畑のようである。
「さっさとしろ!俺達は聖国所属の召喚者だぞ!戦争したいのか?」
...スゲー!あほ丸出しじゃん!流石にそれはマズイな!まぁ14、5のガキに権力をそれなりに持たせて奴隷まで買わせる高待遇。調子に乗らない方が可笑しいな...国力もそれなりにあるはずだから今までの街でもそうしてきたんだろう...ただ、ギルドに今迄入ってないのになんでここに来んだ?...ダンジョンなら聖国にもあるだろうに...
聖国のダンジョンには宝石の取れるダンジョンもあり、難易度の高いダンジョンも少なからずある。しかし他の国より少し多めに取得品の税を取られるため、毛嫌いしている人は多い。本当に一攫千金を狙うならやはりこの街のダンジョンで稼ぐのが一番である。
受付嬢は困っているようで、おろおろするばかり。他の冒険者も対応しかねると言う感じだ。
...カルロース!カルロース!いけいけ!...
こっちは関わりたくないので傍観に徹しているが...
「...クズ...」
静かになり始めていたギルド内にユキさんの声が静かに響く。
「ぁあ?なんだとクソガキ?」
元気な少年だ。私の大事なユキさんにクソガキとかぬかした。犬以下だなと思いどうしようか考えていると。少年片割れが「アイツエルフじゃね?」とか言い出した。エルフの価値は高いのは知れ渡っている。次に出てくる言葉が大体予想がついた。
「おぅ?...おい!その女でいい。周りの奴らもそれで聖国ともめなくていいんだから得だろ。召喚者ともめて無事でいられる筈もないしな」
そんな事を言いながらクスクス笑ってる。ゲスだ...ゲス過ぎます。ただ増長する理由がわかった様な気がする。ギフトスキルはこの世界の人からしたら異常なものだ。片方が物理攻撃無効、もう一方は魔力回復量上昇だ。
...マイさんの完全防壁って物理も魔法も行けるんじゃね?...最強じゃん!...
考えがあちらこちらに行ったり来たりしていたら、目の前まで少年ABが迫って来た。
「さっさとしろ。」
「おい!きぃ...「ぅぉお!!!!」」
面倒だなと思ったので足元にゲートを開き落とした。
「「「「............。」」」」
戦うのと消すので考えたら消す方が実力は悟られそうにないし、顔は考えている風だったから俺がやったとは思わないだろう。多分...
暫く考えている風を装ってから顔をあげると何人かはこちらを見ていたが、ほとんどの人が何が起きたかわかってないようで隣の人と話しているようだ。
...演技派だぜ俺は。さてさて、あの奴隷ちゃんはどうするんだろうね?...
受付前に取り残された奴隷を受付嬢達が手当している。カルロスに話もしたいのでそちらの方に足を進めた。
あの二人に関しては死んではない。ここから山脈二つ越えたオークの集落に落ちたはずだ。運が良ければ助かるだろうが...今は夏に近い時期だ、レベルを振り切った俺と同じぐらい強く無ければまず生きられない。まぁ二人の魔力は消す前に登録したので現在の位置は把握している。もし泉までこられたら面倒だからだ。これならダンジョンに放り込んでもよかったかもしれない。失敗だ。今度はB24階層辺に放り込もう。
「カルロスさん。大変でしたね。」
「いえ、タカユキ様は絡まれていましたよね?」
「途中から考え事していたもので...結局どうなりました?」
「いきなり床に吸い込まれて行きましたね。私としても何が起きたか...」
「何事も無ければよかったじゃないですか。あの子はどうなるんでしょうかね?」
「ギルドから聖国に対して今回の件を抗議しなくてはなりません。その時に返還するかどうかの話し合いになるとは思いますが...こちらとしては首輪を外して死亡した事にするでしょうね。今他のギルド員がまわりに話にいっているのはそういうことです。」
ギルド員が五人程、ホールで冒険者達に話しかけている。全員の了承を取るつもりだろう。
「ただ、首輪を外すには所有者の死亡か委譲の契約をしなくてはならないので...あの召喚者達が何処に行ったのかはわかりませんが死んでいなければ難しいですね。」
頭の中で少年ABを探すが、B君は既にお亡くなりに成られたようでA君の位置しかわからなかった。
「どうなんでしょうね?上手く行くことを願ってます。」
そう言って今日は「銀龍の盾」の依頼に同行しようとそちらに足を向ける。
「銀龍の盾」は以前の盗賊討伐以来、定期的に盗賊狩りを行なっているらしい。大きな盗賊かどうかは事前に情報を集めて確認し、討伐を行なっているらしく無理はしていない。今回は領都の間にある盗賊討伐依頼を受けるそうなので丁度いい。
「ユキ、なんであんな事言った?」
「...うざい...」
...あれ?これ俺に言ってるの?え?反抗期ですか?いやいやそんなはずはありませんよ。あいつらが相当うざかったんでしょうね。仕方ありません。...
「そうか~まぁでもあんま首突っ込まないようにな~なにあるかもわからんし。」
「...心配?...」
「そりゃ~心配さ。大事なユキだしな。まぁこれからは気を付けなさい。」
「...大丈夫...タカと一緒だから...」
離れるつもりは無いらしい。うれしい事だがいかんともし難い。今日は肩車でご機嫌だから良しとしとこう。
盗賊は50人規模だったがかなり弱かった。ユキと俺は何もすることが無いくらいだ。ただ、ユキは初めての実践で少し興奮しているようで逃げた盗賊を追い回して殺していた。彼女の将来に不安を覚えたのは言うまでもない。話しを聞いてみると、目障りだったらしい。今回も瀕死の女性が居たので余計に気に食わなかったのだろう。
街に戻り宿をとって今日は休む事にしようと思ったのだが、ジョエルさんからの使いが宿まで来た。仕方がないのでユキと一緒に商会へ顔を出すことにする。
到着すると執務室に通され、待っていたジョエルさんと話をすることになった。
「すみませんね、一日に何度も足を運ばせてしまいまして。」
「いえ、あとは寝るだけでしたので問題ないですよ。ただ、わざわざ急ぎで使いを出したのは何かあったんですよね?」
「それなんですが、タカユキさんは王都へは行ったことがありますか?」
「ありませんが...まさか王都へ行けと?」
「今回ルドヴェル辺境伯が王都に行くことにになりまして、その護衛もかねて同行していただけないかと。」
「それなら辺境伯の護衛が居るでしょう?」
「いえ、説明が不十分でしたね。辺境伯自身はもう出発なされたのですが、娘であるヴェリーテ嬢を護衛して欲しいのです。」
「?...それもお付きの護衛などに任せていいのではありませんか?」
「そうも言えない事情がありまして...今回付く護衛はルドヴェル伯の弟が指揮する部隊なのですよ。現在のルドヴェル領の跡継ぎはヴェリーテお嬢様だけで、もし居なくなれば伯爵の弟の息子が継ぎます。元々兄弟仲がいいほうではなく放逐も出来なかったので今の状態になってしまっているのですが...この依頼は前伯爵からの依頼ですので、受けるのであれば明日にでも面会して頂ければと。」
「そうですね...ここに来てからは二つの街しか見ていませんからいい機会かもしれません。では明日、ジョエルさんには同行してもらいます。屋敷へゲートで向かいますのでいつも使っている馬車を明日回収しますね。」
「そうですね...それで問題は無いかと...朝の鐘がなる頃に来てください。準備してお待ちしております。」
「わかりました。宜しくお願いします。」
宿に戻りベッドでユキが聞いてくる。
「...なんで受けたの?...」
「ユキは他の街を見てみたくないか?それに色々この国の状況が聞けるかも知れないしね...屋敷のある街の領主に恩も売れるし一石三鳥ぐらい得する。ただ、馬車の方はこちらで作ってみるかな?何あるかわからないし。辺境伯に買ってもらうのもいいかもしれない。実験もかねていい機会になりそうだ。」
「...そう...ならいい...」
「なら寝るか。おやすみユキ」
「...おやすみ...」
ユキを抱きしめながら今日も熟睡する。明日は楽しくなりそうだと思いながら。