35話
翌日から全員のレベルアップを始めた。
屋敷の方は最初の一週間は全てネリアに任せてある。何故か喜んでいた。あれはメイド道に目覚めたせいだろう。
俺は家と魔道具を作っている。良い家を作ろうと思い、トレントを伐採して乾燥。泉に漬けてまた乾燥。そうしてる間に金属類の採掘も行っていた。家はそこまで大きくはせずに4LDKを二つ立てる。木造二階建てだ。屋根は瓦を使うつもりなのだが、釉薬の調合には四苦八苦した。極論、表面をガラス状にすればいいので、あちらこちらの土壌を熱で溶かしガラスを採取して作る事も可能だっただろう。やり方なんてできればいいんですよ。トイレや生活排水には分離の魔道具を終点に付け浄化した物を外に流している。水や火なども全て魔石で賄える様にしてあるからクリーンな住宅だ。冷蔵庫や洗濯機も最新版を作っているし、時間凍結倉庫も試作品だが完成まじかである。基本は全員分のアイテムバッグ(無限容量)を作成し渡してあるので問題は無いが、作りたくなるのだ。全ての家に何故か防音の魔道具を完備するようにユキに言われた。最初はわからなかったが二日目でわかった。犬を半殺しにした。
そんな事を一週間も続けていたら、ユキが帰って来てない事に気がついた。相当没頭していたらしい。心配になりアランとアンネに聞くと、問題ないとのことなので放置する。二人が問題ないと言えばそうなのだろう...セリアもミレイも一緒に行っているようなので俺の寂しさはMAXだ。
仕方ないのでそろそろ娼館でもと思っていると...帰って来ましたよウチのクレイジーが。いきなり愚息を殴られました。娼館に行こうとしたのがバレたかと思いましたが違うみたいです。ただ...異常に強くなっている。確か出ていく時はレベル100ちょっとだったはずだ...今は216。一体何をした?と思ったが俺が作った武器を使っていれば不可能ではなさそうだ。
話しを聞いてみると、三人で寝ずにB26階層で狩りをしていたらしい。一匹殺して放置すると、臭いに釣られて寄ってくるそうだ。泉の水を飲んでは繰り返し、交代でどんどん殺していたらしい。この子達は何を目指してるのか不思議だ。セリアもミレイもレベルは180前後...魔力枯渇も同時に行なっていたらしくレベルアップ時の上昇値よりも高い。一週間を目処に帰って来たらしいがまた直ぐに戻るそうだ。妙に三人の仲がユキによって統率されているように思う...流石ユキさん!
帰ってきてそうそうユキに引きずられてお風呂に入る。胸がまた大きくなったようだ...そんな見せつけなくても大丈夫なのに...。お風呂から先に出ようとしたら愚息を掴まれた。掴んでたユキを見ると少し寂しそうな目をしていたので、抱きしめてあげると機嫌がよくなったようだ。
いつものように寝てユキを撫でる。疲れていたのだろう直ぐに寝息を立て始めた。やっぱユキは可愛いな...今は親離れできなくてもじきにに心変わりしていくだろう。そう思うと少し寂しい。でもなるべく早くしてあげないと…
朝起きると、ユキ達はもう出発したあとだった。ただパンツはガビガビだった...悲しい...
最近の老人二人の若返りが半端ない。一週間経ってネリアと交代した二人は、最近犬を可愛がっている。元々護衛の為かレベルが60前後と高かったが今は150前後。二人に可愛がられている。犬はいつも嬉しそうに奇声をあげている。犬はレベルは高いが対人戦がカスだから当たり前かもしれない。二人の戦闘系スキルは全て6以上だ。
そんな事をしていると自分のレベルも気になるもので、B26階層に久しぶりに出向く事にする。そこには凄惨な光景が広がっていた...周りの海はどす黒くなっており、そこたら中に生臭い臭いと腐敗臭が漂っている。ユキ達の顔を見ると笑っている...一気に血の気が引いた。あのユキが笑っていたのだ。ただ無表情な顔に口元が裂けているだけだがあれは絶対笑っているはずだ。正直怖い。
まぁ効率はよさそうなので反対側へ回り同じことをする。確かにレベルは上がるがスピードは遅い。多分一定以上だと上がらなくなるのかもしれない。
現在のレベルは312。これ以上を求めて行くなら、どうしてもこの階層の下へ行かなくてはならない。もし帝国との戦争に巻き込まれた場合皆を助けれるのか?そう思っていると、どうしても自分の実力が足りない様に思えてくる。起きないに越した事はないんだが…
...そろそろダンジョン探索も始めないとな...飛行機でもつくるか?飛行魔法は怖いしな...
一度家へ引き返すことにした。
境界線から離れたすぐの場所にウインドカッターを放つ。多分100mぐらいだろうか綺麗に木が無くなった。それを繰り返し100×100の広場を作る。作る最中に死体が散乱しているのはご愛嬌だ。木の根っこを処理して地面を整地する。回りには3m程の塀を作り魔物の侵入を防ぐ。
切り倒した木を使いかなり大きめの倉庫を一つ作り、それ以外の場所はかなり固めに整地し直す。倉庫に入りミスリルを大量に取り出す。鉄も一緒に取り出して明日からの作業の準備をしてしまう。
翌日からは鉄にミスリルを混ぜ、強度と軽量化を図りながら骨格となる部分の作成に取り掛かった。昔テレビで見たジャンボジェットの構造みたいになるように作っていく。ただ、形は戦闘機だ。自分的にはラプターが好きです。まぁそれほど知ってるわけでもないので似たように作れればOKだ。
アダマンタイト以外の金属加工は楽だ。何といっても魔力を通しながら力を加えるだけで変形する。その工程で使った魔力を素材から抜けば強度も戻る。普通はこんな事は出来ないのだろうが、泉の水と魔力量にものを言わせてやる。
魔力量が増えてからは作業も楽なのだが、エンジンの構造をどうしようか迷う。魔法で作業しながらでも考えることは出来るので、頭の中で考えていたがいまいち思いつかない。あまり魔力に頼りすぎると燃費も悪くなるし、バイクやスノーモービルに積んだエンジンじゃパワーが足りないし燃費も悪い。結局、その日で本体は出来たが中身は空っぽのハリボテだ。
...ジェットエンジンってどんなんだろう?...バードストライクすると焼き鳥の匂いがするとか言ってたな...空気を取り込んで圧縮して後ろに出しているのか?なら燃料はタービンを回す為なのかな?でも戦闘機ってあんなでかいのついてないしな…そういえばジェットエンジンの後ろから火噴いてたな…空気の膨張圧力で推進力をだすのか?でもそんな力が出るものなのかな?
次の日は家で小型タービンを作り、中を魔法で熱しながらタービンを回す。
...確かに推進力は出てるな...でもそんなに強くない...もっと強くするにはノズルを絞って...あと回転数ももっと上げないと...バーナー温度は高めにして膨張圧をあげて...
...あれか、燃焼する工程がないから上手くいかないのか...それなら元々タービンいらなくね?...そーじゃん!魔法を動エネルギーに変換するより効率いいな!...燃料と言えば...いいのあるじゃん!
そうしてとんでも開発が進んでいった。
三日後...
...ゴォォォーーーーーー...
「いいぞーいいぞーもっと噴かせるなー」
...ボコッ!バッコーン!...
周り中に衝撃波がはしり自身も吹き飛ばされる。
「...ゴホッゴホッ!...やっぱ、オリハルコン使わないと壊れるな...」
ジェットエンジンは諦め、ロケットエンジンに手を出したがあまりの威力に制御出来ずにいた。燃料は泉の水を使い魔力と水素、酸素を分解で採取。それをタンクに一時保管と冷却し、後ろで着火する。燃焼の吻合率を間違えると、火が付かないか爆発か最近はそれを魔力で制御出来ないか実験している。あとは排気ノズルの絞りで推進力の調節などやることはいっぱいだ。
「まだまだ出来そうにないな...アダマンタイトとオリハルコンの採掘と生成でもするかな...」
このあとユキ達が戻るまでの間続けるが完成はしなかった。
上手く行かないので息抜きに風呂上りのユキを撫でていると、ふとユキのレベルが気になった。鑑定で見てみると案の定カンストしている。このまま続けるとユキに抜かれる可能性が出てきた。
「ユキさん」
「…ん?…」
「もうかなり強いですね?」
「…ミレイやセイア程じゃない…」
「いやいやそれでもですよ。そろそろタカはいらないかな?」
「…いる…ずっと一緒…」
セリア、ミレイとこの家に来てからはずっとベッタリのユキ。嬉しいのだが…本当に親離れしないとマズいな…。俺だってユキの側にはいたいけど…真面目に考えると、今の状態ならいい人にも巡り会える可能性もある。ユキを連れて色々な場所に足を運ぶのもいいかもしれない。
「ユキ。明日からタカとギルドで依頼を受けよう!」
「…なんで?…」
「ユキも世間の事をもっと知っておいた方が良いと思ってさ。アンジュ達がいたクランにまった行ってみよう?」
「……わかった……」
------------------------
「じゃあ出掛けてくるから後のことよろしく。数日は戻らないかもしれないから心配しないように。一応これ渡しとくから、アランは何かあったら連絡して。んで、セリアは屋敷の方には来ないように。レベルが上がって、アラン達に格闘も教わってからじゃないと出歩かさせないから。」
アランには魔道具の通信ピアスを渡した。若返り過ぎて今じゃ40前半の叔父様だ。アンネも一緒に若返っているが美熟女過ぎる。少しの嫉妬と羨望を自分の胸に感じながら、ユキを連れてギュレック商会へとゲートを開いた。
「お邪魔しまーす。」
「………。」
「おや、いらっしゃいませ。」
繋いだのはジョエルさんの執務室だ。レイリさんは声を聞いた瞬間に現れた。ユキに関心があるようですぐに回収される。
「ジョエルさん、若返りに興味ありますか?」
「いきなりですね…そうですねぇ。今更という気持ちはありますが、タカユキさんのこれからを考えると少し心配ですので…出来れば若返っておきたいですかね。息子に任せてもいいのですが、まだまだ半人前です。危ない橋は渡らせたくないのですよ。」
ジョエルさんは言外に俺を危険物と言っている。
…確かに危険物だが…最近は色々分かって来たからそれほどでも無いはず…
そんな事を考えながら泉の水を20Lタンクで渡した。タンク自体はミスリルで強化したガラスだ。
「毎日魔力を宝石か何かに溜めて、魔力枯渇状態にして下さい。最初は意識を失うと思いますが、だんだんと慣れてくれば意識を少しは保てます。その間にここに入っている水をコップ一杯飲んで下さい。あとはその繰り返しですので説明はいらないかと…あぁ!この事は内密に。レイリさんとジョエルさんのみで共有して下さい。」
最後は真剣に言うと、ジョエルさんは頷いてくれた。まぁ漏れても問題はない。この水がなければ絶対に無理だし、魔力枯渇で魔力上限をあげれたとしても気持ち悪さと、その後の行動に制限で1日一回が限度だ。それではほとんど上がらない。何百回、何千回と繰り返して初めて大きく変わってくる。それこそ俺なんか何百万回どころかよく覚えてないくらいしている。魔力強化月間なんてやってたから尚更だ。
「わかりました。では試してみます。」
「ありがとうございます。一週間に一度は様子を見に来ますので、その時に水も補充します。それと…最近何かに変わった事は?二週間で何か変わる事も無いとは思いますが一応。」
タンクをレイリさんが片付け、ソファーに場所を移す。ユキはレイリさんの腕の中で大人しくしているようだ。
…ユキはレイリさんみたいなお母さんが似合いそうだな。俺がレイリさん狙ってみる?いやいやいや、まだ死にたくないですわ〜…
「では改めて、前回の盗賊に関与していた貴族はわかりました。ゴルゼフ伯爵です。ただ、その貴族も利用されただけかもしれませんので、正確では無いかと。一応国の中枢には報告してあります。」
一瞬なぬ!?とは思ったが、これだけの商会の会頭だったのだ。それくらいの繋がりはあって当然だと頭を切り替える。
「そうですか。ならそちらの方は片付きそうですね。」
「そうであればいいんですが…なんとも言えません。今まで接して居なかった聖国と帝国、両方と国境を接する様になったのも今回の騒動遠因かと思いますし。これから国がどの様に舵を切っていくかは私にもわかりません。あとは…召喚者のパーティが「森林の宝窟」に向かった様ですね。何も無ければいいのですが、まだ帰還情報は来ていませんので。マイさんに確認したところ、襲撃してきた召喚者ではないようですね。」
「一カ所召喚者が鉢合わせるなんて珍しいですね?」
「一応ここは冒険者以外にも一番稼げる街ですから。良いものさえ手に入れれば商人にそのまま流す事も出来ます。ただギルドに登録しないと、情報や協力、援助や救助が行われないと言うだけです。召喚者でギルドに登録している人は基本フリーの人ですから、今回の召喚者は紐付きでしょう。聖国あたりが濃厚ですがね。」
「あまり鉢合わせにならないよう、気を付けて行きますよ。」
その後も近況を聞き区切りもよかったのでお暇する。ユキを連れてクランに行こうと思ったが、この時間は誰も居ないと思いそのままギルドに向かう事にする。




