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33話

「聞こえてますか?」


「ヒュー...ヒュー...」


わずかに目がこちらに向いたのが分かった。多分そのままにしておいてもじきに死ぬだろう。とりあえず喋れるぐらいまでは回復出来るように、泉の水を垂らす。口元や潰れていた喉も少しは回復したのだろう呼吸が整ってきている。


「お久しぶりですねミレーヌさん。」


こんな再開はしたくなかったが、なってしまってはしょうがない。今はミレーヌさんからの言葉を待つことにする。

こちらが見えているのだろう、少し表情が和らいだような気がした。


「お久しぶりですね...申し訳ありません挨拶もせずに出て行きまして...出来れば殺して下さい。」


まぁそうだろうなと思いながら殺そうと思うが、どうしても聞きたい事があった。


「そんなに私からの誘いは嫌でしたか?」


聞きたくなるのも仕方ないだろう。そこまで嫌われてたのかな?と思えるくらい仲は悪くなかったはずである。


「そうですね...なんだったら今から貰いますか?何もできませんが...アハハハハ...」


「何も話してくれないんですか?普通に残ったお金で生活も出来たはずですが?わざわざ外に出る必要もなかったでしょうに。領都まででしたらオーナーに頼めば取り計らってくれたでしょう。」


「......私が貴族だったのを覚えていますか?...」


「ええ、帝国の貴族だったと記憶しています。」


話しを聞きながら、アルドー達に他を殲滅するように指示する。


「娼婦として三年、開放金を貯めました。最初は嫌だったんですよ?男の人のを触ることすら...私には固定のお客が付くことはほとんどありませんからなおさらです。最初は好きな人となんて思っていたのが馬鹿らしい...一人、二人、三人...十人を越える頃にはもう慣れてしまいました。毎日じゃないだけ値段が安い子よりはマシだったのかもしれませんが...それでも心が壊れるには十分でした。それからは昔からの趣味だった縫い物を空いた時間にすることでなんとか耐えて、開放後の事も趣味で生計を建てようと思ったんです。......フゥー...フゥー...フゥー.....

 それが...つい二ヶ月前ですよあの男がきたのは...「お前の両親は生きている、今の娼館のSランクの名前をここに教えれば両親とあわせてやる。貴族に戻れるぞ。」...そう言われて鑑定の魔道具をくれたんです。私は貴族なんてもうどうでもよかったんです。どうしても両親に会いたかった。優しかった両親にひと目でいいから会いたかった...何もかも捨てていいと思って承諾しました。4ヶ月...今迄会うことも無かった、セリアーデと言う女の子に会ったのはタカユキさんと別れた三日後です。必死でした...すぐに開放金を払い、ここまできました。なんて言われたと思います?...「ご苦労さん。娼婦だろ?ここでも確り働けよ。」...私も流石に暴れました...そしたら、腕を足をと折られて...最後には「お前の両親ならとっくに処刑されてるよ。」笑えますよね...分かってました。知ってたんですよ私。私が捕まる前に両親が逃がしてくれたのに...分ってたのに...」


 さて、どうしたもんかな...襲撃の犯人は帝国で決まりと言いたいとこだけど決め手がない。情報を知ってれば誰でも出来る。鑑定の魔道具も裸のミレーヌが持っているはずも無い。あとは...ミレーヌを殺すかだな...


自分の関わった人には幸せになって欲しいと思っている。ただ、今回はオーナーやお世話になった人を裏切っている。何らかの罰がないと生かせない。それならば殺してしまえばいい。頭の中での葛藤をどれくらい続けたのだろうか、ミレーヌが口を開いた。


「本当に優しい方ですね。でもこんな体で生きていたいとは思いません...別に貴方に着いていってもよかったんです。でも一週間は私が過去と決別するため...それに囚われた私が悪いんですから。オーナーに謝っておいて下さい。ここにも襲撃前に召喚者が来ましたから大体わかります。」


「召喚者はどのような人物かわかりますか?」


「黒いローブをきていたので...ただ、私の指輪覚えてますか?金と宝石の...あれが鑑定の魔道具です。回収されてしまいましたが...。」


「そうですか...ミレーヌさん。生まれ変わったらどんな人生がいいですか?」


「?...そうですね...前に言ってたお店を出したいです。」


「そうですか...では次はいい人生を...」


「...ありがとう...」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「タカユキさん終わりました。」


「そうか...」


今は殺した人を燃やしている。攫われた人と盗賊は別だ。


「すいません、さっきは感情的になってしまって。」


「いいよ...あんま気分のいいものではないさ誰だって。ただアンジュ。これからはお前が自分でやれ。これも経験だ。俺はジーンさんから聞いていて今日初めてやった。だから後三つの盗賊も今日中にやるぞ。」


そう言うと、銀龍の盾全員が頷いてくれた。


 ...クソやろうならまだしも...被害者を手にかけるのは気分よくないな...


他三つは約10km圏内だったためサクサク行くことにする。俺が気配遮断で中を偵察し、救助が必要なければカラムが魔法をぶち込み。必要そうなら全員で切り込む。アンジュは杖を変えてから、魔法だけでなく杖術も練習しているようだ。皆頑張っているのを嬉しく思いながら三つ全てを終わらせた。

結果は少女二人救出、少なくない財貨の回収もできた。アンジュは言ったとおりに何人かを楽にしてやった。カラムとケビンに付き添いながら財貨の確認をしているときに泣いていた様だが、そこはアルドーが慰めに行ったので俺達は触れない。少女二人は隣の領からの商人の娘だった。まだ5歳と7歳なのでクランの孤児院で面倒を見る。財貨に関しても、少女達のものだとわかる物は全て別管理する。隣の領の財産などはクランメンバーによりギルドを通して回収してくるつもりだ。


少女二人を俺とケビンで背負って全力で走る。他のメンバーも残った気力で身体強化しながら街まで30分程で戻った。

全ての手続きやお金の配分などが終わったのは夕暮れどきになってからだ。


「今日は上手く行き過ぎたな。」


「そうですね全員のレベルも上がりましたし。言うこと無しです。精神面もこれで向上したと思います。」


「そうだな...なら...おい!ケビン、カラム!こっち来い!」


不思議そうに来る二人が集まったのを確認して、アルドーとケビンにはミスリルソードとミスリルロングソード。カラムには三属性の魔石を組み合わせたミスリルの杖を渡した。


「ジョエルさんと取引することがあったから御裾分けだ。これまでより攻撃力は跳ね上がる。ただ、今日の対人戦でもわかるようにまだまだ危ないから絶対調子に乗るな。」


三人は嬉しそうにそれらを手に取り眺めている。


「アンジェ。その子達を宜しくな。今日の俺の報酬はその子達に回せ。俺はまだ金余ってるから。じゃぁ帰るわ。」


「タカユキさんありがとう御座います。大切にします。」


アルドーがそう言うとケビンもカラムも慌てて頭を下げていた。手だけ上げて娼館の方へ向かう。ゲートを開くついでにマイさんに会っていくつもりだ。


「多分娼館行くんだろうな...」


「さすがタカさんだぜ!」


アルドーとケビンの会話はタカユキには聞こえない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「こんにちは」


「いらっしゃいませタカユキ様。申し訳ありませんがマイ様はギュレック商会に出向いておりまして...お待ちになりますか?」


「いや...こちらから向かうよ。ありがとう。」


商会への道すがら今回の事を考えてみる。


 ...ミレーヌが何故あの娼館にいたことがわかり、尚且つセリアの居場所までほぼ特定している。相手に情報が筒抜けすぎやしなしか?それとも、帝国の情報収集能力が以上に高いのか。皇子の性欲が強いのか。


トライデント王国に接しているのはグレンバルト王国と旧グリンゼラ王国、だった。そうなると現在はマリビレッタ帝国と直接接する事になっている為、間諜も送りやすくなっているのがわかる。元々大陸一の国土面積の帝国がグリンゼラ王国を獲得することで、かなりの国と接する国となっている。ただ今回の領土獲得はエオレッティー聖国との緩衝国家が無くなったことも意味し、これから先の戦争に巻き込まれないかが心配である。

商会にはすぐ付くことができ、応接室に通された。レイリさんがいたのでビビッたがいつものことである。


「ジョエルさんお久しぶりです。」


「オークションからの帰り以来ですね。私は寂しもんですよ。」


そう言って笑って出迎えてくれるジョエルさんはマイさんと話していたようだ。進められるがままマイさんの隣に腰をおろす。レイリさんがすぐに紅茶を持ってきてくれた。


「ありがとう御座います。いや~私の所に火の粉が飛んでくるんじゃ無いかとヒヤヒヤしてますよ。」


「ハハハ、それは問題ないのでは?なにやら高級果物を商会に卸して下さっているようで、ウチの売上が増えたと息子も喜んでおりました。今回のオークションには参加されなかったんですね。参加される時はお声をおかけ下さい。」


世間話をしているとどうしても本題の話になってくる。


「...では今回の件はまだ何も分かっておらず召喚者が関与していることしかわからないのですね?」


「そうなりますね...マイさんも今日で何かつかめましたか。」


「いいえ...とりあえず今は復旧の方で忙しいですね。ここにはいない事がはっきりしましたので、狙われるならタカユキさんですね。ただ、この三人とレイリさん以外は知りません。家の方ではどうですか?」


「外にも出ていないですし、家の者も外の人に話す事はありません。問題はないですね。あったとしても今は私の家族です。最悪の場合も想定してますので大丈夫かと。ただ、一人の女の子にそこまでの事をする必要があるのか疑問ですが。」


素朴な疑問を口にしたら、二人に驚かれた。


「マイさん。タカユキさんには話していなかったのですか?」


「多分、セリア本人からされると思っておりましたので...」


「一応狙われる理由は聞きましたよ?皇子が性欲魔人なんですよね?」


「「........。」」


なんか違うみたい。


「それは多分...セリアのまわりも伏せていたのかもしれませんね。」


「前回の奴隷購入で老人二人を購入しましたよね?」


「そうでしたね...もしやセリアさん付きでしたか?」


「大当りでした。まぁ今は仲良く生活していますよ。それならその二人の方が詳しいですか?」


「それはそうですね...一度聞いてみてもいいかもしれませんが、現状でお話致しますと...」


どうやらセリアは召喚の巫女と呼ばれる存在らしい。召喚の巫女は初めて信託を受けた聖女の血を引き継ぐ者だそうだ。ただ、いままでかなり利用される事の多かった血筋の為か、今ではセリアと聖国の聖女のみだ。帝国にもいたそうだが前回の召喚で亡くなったらしい。なので現状で異世界から召喚出来るのは聖国のみで、聖国の聖女様も次の召喚で最後ではと言われている。それに気付いた帝国が何としても手に入れたいのがセリアみたいだ。


「それはまた...セリア一人の為に戦争でもおきそうですね。」


「いえ、実際に起きました。そしてこれから数年以内にまた起きるでしょう。」


「はぁ...平和が一番なんですがね...とりあえずセリアは絶対に安全な場所に暫く移動させますよ。」


「宜しくお願いします。」


「あと...マイさん。今回の襲撃を手引きしたのはミレーヌでした。」


マイさんは気付いていたのだろう驚く様子はない。


「今日、盗賊の討伐に行き、そこで発見しました。息は有りましたので少しだけお話し、オーナーに謝っておいて欲しいと。」


「私が気付いた時に声をかけていればよかったのですが...これは私の責任でもあります。やはり貴族絡みで情報が行ったのでしょう。Sランクが入ったのに顔みせも客取りもさせていませんでしたので、わかる人にはわかります。と言うことはその盗賊は帝国兵ですか?」


「ええ、これを...ジョエルさんならわかりますよね?」


一本の剣を取り出しジョエルさんへと渡す。


「......間違いないですね。帝国騎士の剣です。騎士の剣は管理されていますからまず間違い無いでしょう。」


 ...アイツら騎士まで葬ったか...強くなったな...


「ただ疑問なのが、そんな簡単にここまで部隊を進行出来ますかね?どこかで絶対にバレると思うんですが...」


「ここの娼館の情報が向に漏れたように、帝国側に擦り寄っている貴族も居るでしょうね。そう言う貴族が手引きしていれば入って来るのも容易でしょう。押収したものの中には何もありませんでしたか?」


「そうですね...もしかしたらギルドに討伐証明として渡した物にあるかもしれません。そこまで頭が回っていなくて申し訳ないです。」


「いえ、それは私の方であたってみましょう。」


「宜しくお願いします。では私は先に失礼しますね。」


そう言ってその場でゲートを開く。


「美味しい果物が取れる場所に私も招待してくださいね。」


そうジョエルさんが言ってくるのに「今度..」と言ってゲートをくぐる。

屋敷では夕食の準備が進んでいる様で、ユキ達の迎えを先にする。

ログハウスまでゲートをすぐに開き潜ると。明らかに不機嫌そうなユキが居た。


「...この銃タカにも効く?...」

「はぃぃ?」










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