31話
ウィンリィの街から領都へ移住して早1ヶ月。毎日ぐうたら過ごすのもあれなのでユキ達は泉のダンジョンへ、俺は刻印魔法について勉強している。最初はユキだけのつもりだったが、アムスとアンチェ、セリアも最近はついて行く様になった。アムスとアンチェは強くしないと警備員に出来ないし、セリアは自分で自分を守れるようになりたいらしい。皆それぞれ黙々と日課をこなしている。
セリアをユキに紹介した日。ユキはセリアには絶対に近づかず、俺の側を片時も離れなかった。その為、セリアと話す機会を設け、話し合ってからは俺よりもセリアと一緒に居る事の方が多い。少し寂しくは思うが、夜になると決まって布団には来る。可愛い子だ。
ユキを育てて嫁にするのが一番手っ取り早い…しかし…いたいけな少女を洗脳しているようで気が引ける…しかもエルフって寿命も長いしな。あれ?俺も寿命長いんじゃね?現時点で人類最強より絶対に魔力量は多いはず…召喚者は分からんけど…でもユキも今から魔力量が延びるはずだけら…やっぱユキより早く死ぬな…それはそれで可哀想だし…てか…ユキも心変わりするだろう、親離れさせんとな…
馬鹿なこと考えないで現実的な事を処理していこうと思った。
セリアや他の奴隷にも泉の特性は伝えてある。因みに、悪用されない様に全員に同意の上で誓約の魔法をかけさせて貰い、隷属の首輪は外した。内容を聞く前に、此処から出る気持ちがある奴は先に言ってくれと言ってある。案外皆ここの居心地はいいみたいだ。外した後の開放金については要らないと言ってあるが、最近アランとアンネが私塾を開いて稼ぎたいと言い始めた。あの店舗も上手く使えて無い。とりあえずアンネとアランには楽園階で収穫作業をしてもらい、そのいくばくかをギュレック商会へ卸している。
「ユキ〜今日もセリアと行くのかー?」
「うん…」
「気を付けてな〜新しい銃の感想も聞かせてくれ〜」
「わかった」
最近のユキは、無表情だが大体の気持ちがわかる様になってきた。新しく作ってやった銃のを試したくてうずうずしているのだろう。妙に視線がアッチコッチしている。
「ほれ、気ーつけてなー。」
ゲートを開き二人を通す。
...さて、今日も何か作りますか...
今までは、魔石の中に付与魔法後現れる立体の刻印を平面に書いていたため魔力効率が落ちていたようで、現在は刻印を施したい物の形状に合わせて刻印を彫り込むことで魔力効率が上がった。正規のやり方にしただけなのだが、ゲートの魔法やバリア等刻印をした魔道具さえあれば奴隷達も使用できるまでに魔力量を抑える事が出来ている。ただ、全ての魔道具には宝石が取り付けられており、毎日寝る前に全員が各々の魔道具に魔力を込めるように指示を出している。
「今日は異空間に部屋でも作ろうかな?」
...カンッ!カンッ!カンッ!...
「ん?もう受け取りに来たか?」
ギュレック商会は毎朝商品を受け取りに来てくれるが、今日はいつもより早い。
...タッタッタッタッタッ...「旦那様!まだいらっしゃいますか~!」
アンネの声が聞こえて来る。
「いるよ~どしたの~?」
少し息を切らせたアンネがドアから入ってきた。
「レイリさんがお話があるそうで訪ねて来ております。急用だそうです。」
「わかった~すぐ行くからリビングに通しといて~」
アンネは直ぐに下に降りて行き、俺も手元に出した物を直ぐに片付け下に向かった。
「久しぶりですねレイリさん。」
「お久しぶりですタカユキさん。」
いつもの無表情なのだが、ユキで慣れたからだろう怖いと言う印象はないが行動には注意しときたい。
「今日はいかようで?」
「直ぐ本題に入らせて頂きます。昨日の深夜、「月の館」が襲撃されました。」
少し驚いたがセリア関連だろうなと思い返し黙って話を聞く。
「多分考えている事と一致しています。犯行を行なったのは帝国の召喚者と思わてます。ここまではまだ足取りは掴んでないでしょうが一応お気を付けください。」
「マイさんや他の従業員、娼婦の方は無事でしたか?」
「全くと言う訳ではありませんが命を落とした者はおりません。」
「マイさんも一応召喚者ですしそれなりに強いですからね~。ただマイさんは別として...他の戦闘特化の召喚者にしてはあまり派手ではないですね?もっとこう街ごと襲うみたいな感じがあったんですが...」
「召喚者の戦闘能力上位の者でもランクA+++相当とされています。街のギルドマスターもそれに分類されるため下手な行動は衝突の元になります。また、公に行動すればランクSの猛者が出てくる可能性もありますので、帝国側もあまり行動は起こさないようです。」
「そうなんですか?でもそんなに居ないSランクの方が出てきますか?たしか...前に聞いた時はこの大陸には9人しか居ないと聞きましたが?」
クランにまだ居る時にジーンさんの目標のSランクについて少し聞いた事がある。結局聞き流していてあまり覚えていないが。
「ウィンリィの街は「黄金のヴェルヴェ」のお気に入りの街だそうで、下手な他国からの介入は出来ないのです。他のSランクの方にも気に入っている街があるようで、その街に関しては自国領土であってもあまり国側も強気に出れないそうです。今回の件も耳には入っているようですが、Sランクの方が動く程ではないと思われています。実際何処に居るかも判らない人たちですから。」
「なら、面倒な帝国自体Sランクの人が皆で潰しちゃえばいいじゃないですか?」
「ランク外についてはご存知無いようですね?」
「そんなのあるんですか?面倒なランク制ですね...」
「ランク外には四人の方がなっています。1,000年前から確認されているのですが、生きているかどうかもわかりません。その一人が帝国の後ろ盾になったのが今から500年前のことです。そこから全く話は聞かれてませんが、もしかしたらがあるためにSランクの人も手を出さないのです。ただ、理由が出来ればそればかりではありませんが。」
「他三人に頼むのは...生きているかもわからん人は無理ですね...」
「そう言う事です。戦力評価がSランクで小国家クラス。ランク外で国家・大国家クラスと言われていますが実際はわかりません。昔一度ランク外が暴れた時に、二つの国が無くなったと文献には残っているそうですが実際はわかりません。」
「ヤバいですね。まぁ最近よく戦争で聞く帝国が強気な訳もわかりましたし、今回の件は了解しました。あの子が奪われ無ければいいんですね?」
「その通りです。宜しくお願いします。」
「理由を聞いても?」
「本人から聞くのが一番かと」
大体の話が終わったんだろう、レイリさんは出された紅茶を一気に飲み干し席を立った。
「そう言えば...訓練はされているようですね?足運びがよくなってきましたよ?」
無表情で言われているがレイリさんにしては多分褒め言葉なのだろう。ただ、見ただけでそれがわかるのはさすがだと思う。
「そうですか、ありがとう御座います。今度レイリさんに教えてもらいたいですね。」
そう社交辞令で返すとレイリさんの目が光ったような気がした。
「それは...では、また今度お会いしましたらお相手致します。」
嬉しそうに感じる瞳がすごく怖く感じた。
...失敗したな...あの人は暗殺術のプロだ。俺は所詮ステータス頼みだから間違いなく殺させる...綺麗な人なんだけどな...あの冷たい瞳が怖い。
この世界は確かにステータスが高ければ強い。ただ、ステータスだけでは図る事の出来ないものも多いのは事実である。剣術や短剣術を習得してはいるが、真面目に現在伸ばしてみるとレベル4が限界であった。このような埋めようのない実力差は経験を重ねる必要があるとつくづく思う。
夕方にユキとセリアを迎えに行き、みんなで食事を取る。食事を取ったあとは日課になっているユキとのお風呂である。最近は前より肉付きも良くなり健康になっている様でこちらとしても安心して見ていられる。このまま成長されるとマズイのでそろそろお風呂も入れなくなりそうだ...
セリアには、毎日ユキと風呂へ入り一緒に寝ていることで誤解されているらしく。あまり口を聞いてもらえていない。今回の話も聞きたいので寝る前に呼ばないと...とっても気が思い。
「セリア」
「...なんでしょうか?」
風呂から上がってきたセリアへと話しかけると冷たい目で見られる。
俺は女性に嫌われる体質か?でもこの前ちゃんと言い訳もしたし。ユキにも頼んだんだけどな...
「少し寝る前に部屋に寄ってくれ」
「わかりました...」
なんで!なんで!泣きそうな顔でこっち見ないで!誤解だから!
「いやいや!ただ話しするだけだから!誤解だから!ユキからも聞いてるよね!?」
「わかってます。わかってます。」
そう言ってセリアはスタスタと歩いて行ってしまった。
ヤバい!ユキに聞いてみよう!
そう思い部屋へ行きユキに話した内容を聞いてみることにする。
「ユキ!セリアの誤解を解いてくれたよね?」
「うん...言ったよ...」
「なんて?俺すっごい気になる!」
「タカの...洗うの...上手いとか?...抱かれてると...気持ちいいとか...?」
微妙だ...すごく微妙だ...誤解を招く?解けるのか?
「根本的にそんな事してないみたいな話はしなかったの?」
「...セリア何してるか聞いたから...答えたよ...わかった、わかった...って言ってた」
最近はよく喋るようになったんだけど内容がな~伝わりにくいかな~
「わかった。もう仕方ない今日はユキも一緒にお話な?誤解を解いてくれ」
「わかった...」
そうしてユキと待つことにした。
結構時間がたってからノックをする音が聞こえる。
「ドーゾー」
ベッドの上で胡座をかいてユキの髪を梳かしながら応対した。
...ギィー...「お待たせしました」
真っ黒のシースルーのベビードール黒のレースの穴あきパンツがエロイです。いつも通りの巨乳がもうヤヴァイ!恥ずかしそうな顔もヤヴァイです!私の愚息は最近使ってないからとても元気になってしまいます。でも我慢です。今日はお話しの為です。今日は領都の娼館に行きましょう。なんならマイさんのお見舞いに行くついでに紹介していただきましょう。それがいいです!
多分、勝手に妄想を膨らましながらここまで来たんだろう。恥ずかしそうにもじもじしながらこちらに入ってきたセリアは、いつもの決意を目に宿らせた強い女性では無く歳相応の女の子に見えた。
「わかってないじゃん!今日は話しをするだけだって!」
そう言ってシーツを投げて渡す。受取りながらセリナの目に涙が溜まる。
「わ、私は...性奴隷としてここにいます...何も仕事せずに自分の事だけしているのは心苦しいのです...それとも、ユキちゃんみたいじゃ無いと相手にしてもらえないんですか...?」
「落ち着こう!俺はユキに手は出していないし、家の人には手は出さない。それなら娼館へ行く。」
「でも、この前は...Sランクの女の子を買うっていってましたよね...?」
「それは見てみたかっただけ!とりあえず今日は聞きたい事があったの!だから大丈夫!それにセリアはお客様みたいなものなんだから、そんな事考えないの。首輪ももうないでしょ?」
少し肩の力が抜けたような、ポーとするような光がないような目が怖い。
「私の勘違いですか?そうですか。わかりました。」
そう言うとベッドの前に置いてあった椅子にセリアが腰掛けた。
いつの間にデレた?これいけるよね?でもな~一応建前上は手は出せない訳で...帝国の件がまだ続いているなら手は出せないな...愚息よ大人しくしていろ。
叩き起こされた愚息はそんな簡単に寝るもんじゃないので放置して、今回の話の要件を伝える。
「なんでセリアは帝国にねらわれてるんだ?今回の移譲の件もそれ絡みだろ?今朝レイリさんが「月の館」が襲撃されたと伝えてきた。ここにはまず来ないだろうが、俺も内容を知っておきたい。」
「それは...帝国の第一皇子が私を欲しがったからです。戦争にも関係するのですが...」
内容は複雑ではなかった。帝国は半年前に召喚の儀式を行なったそうだ。その後、元々セリアが断り続けていた皇子との縁談が急に加速し始める。グリンゼラ内部で第二王子派が帝国と繋がっていたようで、セリアとの縁談が結ばれれば帝国の後押しで王位につけると言われていたらしい。しかし、セリアをアンネとアランが逃がした為、帝国の思惑も第二王子派の思惑も叶わず。暴走した第二王子派が第一王子派に攻撃する形で内乱が勃発。好機と見た帝国が召喚者を使い奇襲し、国は無くなったらしい。アンネとアランは内乱前に奴隷落ちし、セリアは逃亡中に運良くマイさんの仲間に出会った。実際セリアに見方はいなかった為一人での逃亡劇は自殺行為であった。マイさんの友達が変な奴で無かったことが何よりもの救いである。その為Sランクとは言っても名ばかりで、顔見世すら断っていた。ただ、皇子がまだ諦めていなかったらしく嗅ぎ回っていることがわかり、マイさんは頭を悩ませていた。場所は割れていないはずであるが、旧グリンゼラから来れる範囲は三つの国しかなくこの容姿なら直ぐに見つかると思ったらしい。ある意味凄い執念ではあるが...その為にそろそろ移送したいのと、俺の情報がタイミングよくきたのがさいわいし、今の状況となっている。
「マイさんに聞いた話しを合わせるとこのような状況です...巻き込んでしまい申し訳ありません。」
そう言って頭を下げるセリアには同情できるのだが...胸が...いや、王族は元々戦略結婚が当たり前だから帝国でもいいのではと思ってしまうが...
「でも、帝国に嫁に行くのもいいじゃないの?いうても皇子の正妻でしょ?」
「それは...かなりの女好きの方で...その...今まで消された方も多いと聞きました。」
「消すってそんな簡単じゃ無いでしょ?でも妾とかだとありえるのかな?」
「いえ、正妻が二人居なくなっています。」
そこは正直びっくりだった正妻になるにはそれなりの地位が必要だし、限られた人しかなれないはず。それを消すとなると根回しも消し方も口止めも大変だ女好きだから飽きるのか?
「ほとんどの女性が壊れてしまうらしく...その...回復魔法で直しても余りにも続くもので精神が壊れてしまうらしいです。本当の所はわかりませんが、噂然り正室が居なくなること然り状況的に信頼に値出来ます。」
あ~うんね、そこまで絶倫さんなんだ...まぁ人それぞれだから...俺はそんなんじゃないよ?なりたいとは昔おもったけどね...でも大変だろうな...
「あ~うん...まぁ...壊れたくはないよね。うん...そっか...ほどほどが重要だよ」
「あとはグリンゼラを傀儡にしたいのが透けて見えてましたから拒否を続けていました。」
ここはまともな意見なのね、今回に関しては仕方ないとしておこう。でも皇子のそれはスキルに関係しているかもしれないな?今度調べてみようかな?...俺はいらないよ!そんな娼館でステキーなんてきたいしてないから!...
「わかったよ、まぁとりあえず今日は早く寝なさい。そんなカッコじゃ風邪引いちゃうから」
「しなくていいんですか?いつも私のことエロい目でみてますよね?」
バレてるのか!まぁ女性は男性の視線に敏感だからな...
「見ちゃ悪いですかっ!男ですからっ!」
本音出ちゃったよ...いいか...今度お願いしてみよう...そうしよう...
「そうですか。では今日は素直に寝ます。おやすみなさい。」
少し嬉しそうな顔をしてセリアは部屋から出ていった。
もし今日しましょうそうしましょうなんてなったらユキどうすりゃいいんだよ。
そんな少しウキウキした気持ちと、勘違いだったときの不安が綯交ぜになっていた。今までの恋愛経験から100%が無いことは分かっているので余計に不安を煽るかたちとなっている。
「...タカ...」
「なにぃ?」
「...する...?おっきいよ?」
胡座の上にユキを乗せていたのを忘れていた。ユキもそう言う事をしてきたかと思うと申し訳なくなってくる。
あぁ...男ってやっぱ下半身に脳味噌ついてるんだろうなぁ...
そんな事を考えながらユキを降ろし、布団に入れて頭を撫でる。
「タカは少しお出かけしてきます。ユキはお留守番です。申し訳ない。」
そう言うと、「...うん...」と返してくれたが冷たい目をされた。
「すみません!」
ゲートを開き「月の館」に向かう。潜るとき目に涙が溢れた。




