閑話
私はこの街に来て3年になる。今は仲間に恵まれ、Dランクまでになっている。初めてこの街に辿り着くまでは大変だった…私はこれでも貴族だった。まぁ過去形なのは家から追い出されたからだ。妾腹じゃいつか追い出されるとは思ったが、成人する前に追い出されるとは…
母はもう居ないし家に未練は無いが13歳で追い出されるのはかなり辛い。騙された事も一度や二度では無いからな…でも今は乗り越えられている。この街の入り口でケビンと出会ったのも運命なのかもしれない。
今日はCランク試験の受験資格であるオーク狩りに来ていた。一人1匹が必要なのでかなり消耗したのは否めないが、皆んな無事で良かった。それよりも問題は最後に現れた男だ。明らかに怪しい。森の中で一人なのもそうだが服が綺麗過ぎる。目も嘘を言っている目だ。あれだけ騙されたのだ、相当な嘘つきじゃ無い限り私の目は誤魔化せない。ただ俺達を狙っていると言うよりは街に行きたいのが本命の様だ。
結局迷ったが、オークを運んでくれるらしくお金に負ける形で同行を了承した。ただ、アイテムバッグを持っていたのには驚いた。こんな高価な物を持っているなら尚更オーク程度のお金を取られる心配はない。護衛もかねて街まで戻る事にした。
街までの間色々話しを聞いてみたが、嘘が混じっている様だ。ただ本人は上手くいってるとおもっているようだが…ただ、この人は余りにも無用心であり世間知らずだと思った。悪い人でも無さそうなので注意だけしておく。
街に戻ってからも一悶着あったがとりあえずはクランに身を寄せる様だ。ただ、お父さんからの餞別をすぐに手放したのが私は許せない。人それぞれかもしれないが、私は手離したくなかった…これはやつ当たりなのだろうな…
今はタカユキさんと呼んでいるが、この人は本当に大丈夫なのだろうか?昨日ナイフも売ってきたようだが、部屋に行くと「ゲヒゲヒ」言いながら金貨を数えてた。何処かの悪徳商人みたいに見える。声をかけるとビクついていたのが少し笑えた。色々話しをしたり教えて欲しい事を教えたり、街にを案内したりと関わりが増える毎にタカユキさんの人柄が見えてきた。多分本当に優しく人なんだろう。ただ抜けが多いくせに、自分は完璧だと思い込んでいる節があるのが心配だ。誰かいい相棒が出来るといいんだが…
「おーいアルドー!」
珍しくタカユキさんが慌てた様子で走ってきた。なんだろと思っていると。杖みたいな物を渡された。
「アンジュにプレゼント探してただろ?それ買ってくれ。銀貨…5枚だ!」
明らかにそんな値段で買える物ではない。ミスリルと何か魔力を含んだ木だろうか?あと魔石もかなり良いものが使われているのがわかる。
「これはもっと高いですよね?」
「ん?ん〜俺には値段がわからんから買い取ってくれ!」
ミスリルを使っている時点で金貨は当たり前。それをわかって多分言ってるな。この人は本当にお人好しだ。
「良いんですね?私はタカユキさんには遠慮しない事にしましたから買わせてもらいますよ?」
この前の飲み会でアンジュとの仲を、まだ誰も知らないのに言いふらしやがった。否定はしといたが変に感が良いから困る。
「おう!頑張れよイケメン!」
イケメンが何かは分からないが多分褒め言葉だろう。本当にこの人は…そういえばヴェリレさんはどうなったのだろう?飲みの時に「結婚がしたいです!」と泣きながら語っていたらヴェリレさんに何処か連れて行かれたような…
「ヴェリレさんとはあの後どうでした?」
「……よく覚えていません。」
多分食べられたんだろうな。ヴェリレさんいつも男連れ込むくせに彼氏が出来ない言ってるって事は、相当搾り取られるか大変なんだろうな…体力もありそうだし。アンジュでよかった。
毎日のトレーニングに付き合ってもらっているがタカユキさんは強い。正直森の中で迷っていたのが不思議なくらいだ。盗賊に襲われたとか絶対に嘘だとわかる。まぁなんか理由があるのだろうそこは聞かないでおこう。ただ、最近の娼館通いは直した方が良いように思える。頻度が頻度だアンジュも白い目で見てるし、ヴェリレさんや他の女性冒険者からは獲物の様に見られている。男娼でもすればって程性欲はあるんだろうな…可哀想な人だ。
クランがまずい!このままじゃ解散しなくちゃならない。絶対に上手く行く遠征だった筈なのに…とりあえずは俺たちに出来ることしないと。ん?タカユキさんがヴェリレさんに絡まれてる。あれはほぼ裸じゃないか!でも絡まれてるのはタカユキさん。このクランはダメかもしれない…
「どうしたアルドー?」
「いや…何かあったのかと…」
「ヴェリレさんが救援に向かうって暴れてたから宥めてただけさぁ問題ないよ〜」
そうか、そうだな。このクランは大丈夫。皆んな仲間意識が高い。こんな非常時に襲ってるなんてあり得ないなうん。大丈夫だ。
「タカユキさんはこれかどうしますか?」
「ん?娼館行く」
ダメかもしれない…
クランに稼ぎを回す為、依頼を受ける事にした。ただ、タカユキさんと商人の護衛だったのが驚いたが。内容も酷いもんだった。盗賊に襲われたが撃退も出来ずメイドさんに助けられてしまう。でもあのメイドさんは怖かった…ケビンも馬車でメイドさんの横にいた様だが、盗賊に襲われあとは横にいるだけで足の震えが止まらなかったらしい。ただ、ジョエルさんからもらった手紙をギルドに提出すると昇格できたのは嬉しかった。
4日程依頼や観光で潰してまた護衛依頼を受けたのだが、タカユキさんがやらかした。小さな可愛らしいエルフの少女を奴隷として買ったようだ。アンジュの目がヤバかった。馬車では終始少女を庇っていた。
クランに戻るとユキちゃんとタカユキさんが部屋の前で何かしている。アンジュが行くとユキちゃんはタカユキさんを離したようで、意気揚々とクランから消えて行った。アンジュに話しを聞くと、ユキちゃんの手を握りながら笑ってない目で「娼館に行くんですって」と答えてくれた。
あの人はもうダメかもしれない…
そう心の中で思った。




