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27話

昨日はぐっすりだったようで、6時の鐘の音が聞こえるまで寝ていたようだ。

ほとんどの街で一日三回の鐘の音が鳴る。朝、正午、夕方に一度ずつだ。こちらに移動してきている間も時計は時刻がずれてきていたので最近は手動でその街毎に合わせている。

すぐに準備をし、一回の食堂へ向かう。食堂では商人や貴族だろうかいい身なりの人が大半を占める。冒険者のような人は数人と数える程度であり、その人たちの護衛のために宿泊しているようだ。

「銀龍の盾」は昨日で依頼は終了しており、オークションが終わるまでは滞在してまた護衛依頼を受けるらしい。滞在中はこちらでしかできない依頼をこなし、日銭を稼ぐのつもりらしいがそこまで討伐系の依頼が多いようじゃ無さそうだ。オークションの期間にも入っているので、街の警備の依頼を受けるのだろう。


「おはようございますジョエルさん」

「おはようございます。昨日は眠れましたか?」

「お陰様で疲れを取ることが出来ました。いい宿に宿泊させて頂きありがとうございます。」


食堂奥で紅茶を飲んでいたジョエルさんに朝の挨拶をしながら席に着いた。今日もレイリさんはジョエルさんの横で微動だにしない。ちなみにレイリさんは家事や礼儀作法のスキルは当たり前として暗殺術や剣術のスキルも持っていた。一番下のレベルでも5であり一番上は暗殺術の9である。スキルだけでなく身体の方のレベルも156と普通のメイドじゃないことは一目瞭然だ。

テーブルにすぐ用意された朝食を口へ運びながら、ジョエルさんにもう一度朝からの予定を確認する。


「今日は朝から不動産の予定でしたが大丈夫でしょうか?もしジョエルさんの予定があるようでしたら、場所さえ教えていただければ自分で行きますが...」

「ハハハ、問題ないですよ。仕事はほぼ引退しておりますし、オークション以外の予定があってこちらにきたのではありませんので。そうですね、不動産の後に一度商会の方に顔を出したいので一緒に来て頂けますか?」

「勿論構いません。支店がある街なら顔出しはしないとダメですもんね。」

「まぁ、そう言うことです。」


朝食を食べ終え、すぐに出発することになり馬車に乗り込む。いくら街の中といても早く移動したいなら馬車で移動するに限るのだ。


「そう言えば「餓狼の群れ」が今回のダンジョンの氾濫と関係していたみたいですね。」

唐突にジョエルさんが話してくる。

「そうみたいですね。一度クランに戻る時、あのクランが連行されるの見ました。」

「クランリーダーが関与していた様でクラン解散と財産の接収は免れないようです。今回潜っていたクランや個人冒険者の装備がいくつか発見されたようですよ。元々いい噂を聴かないクランでしたから丁度いいのかもしれませんが...」

「確か「餓狼の群れ」は新興クランでしたよね?よくそんなので結成許可が出ましたね。」

「ギルドの怠慢も少なからずあるようですが...圧力の方が大きいかもしれませんね。」

「圧力ですか?ギルドに圧力なんて掛けよう無いでしょう。」

「まぁ冒険者ギルドも一枚岩ではないんですよ。「餓狼の群れ」はグレンバルト王国貴族の受け皿になっていたようですしね、結局は国同士の関係性にも起因してくるのですよ。クランにしても一つの街だけで無く、多くの街で支店を持つクランもあります。国家・ギルド・クランと複雑な力の駆け引きが所々で行われている結果、今回のような事が露見したというのが私の情報から導き出せる見解ですね。」

「そうだったんですか、ジョエルさんの話は本当に勉強になります。

「そういって頂けると私も嬉しいですよ。タカユキさんとはいい関係を続けていきたいのと、今回の儲けの余剰分とでも考えて頂ければ安いものですよ。」

「儲けですか?そう言えばオークションの手数料はどうしますか?商業ギルドや商会を経由しないと出品できないのはそのためですよね?」

「それがなんですが今回は一割で問題ありません。多分お調べになったと思いますが、普通は全て込んで二割五分が普通です。しかし二割は商会の取り分でしかないのです。その為今回は五分が私の儲けとなります。」

「少なくないですか」

「とんでもない。当日にわかりますよ。」


くつくつと笑い出すジョエルさん。


「あぁ、先程の話に戻るのですが、今回のようなクランの失態や許可取消はあまり公にはなりません。今回はおかしな点が多々見受けられますね。その煽りを受けないようご注意をっと言うのが話の最後です。」

「は、はぁ....?とりあえず理解しておきます。」

一瞬真剣な顔になったジョエルさんは、俺の言葉を聞いてまたニコニコ顔に戻した。



大きな石の建物の前で馬車が止まりレイリさんが扉を開けてくれる。

「足元にお気を付けください」

「ありがとうレイリさん」

そういって言葉をかけたのだがニコリともしない。

....スゲー怖い....

昨日の動きを見てさらにこの人の恐怖が増した今、無表情がなおさらに事怖い。今日あたり殺されるかもしれない...

ついた場所は馬車の通行も出来る大通りに面した商業ギルドの建物だった。

「土地や建物は、領主からの委託で商業ギルドで取引が行われています。では中に入りましょう。」

そう言って中に案内される。

中の作りは冒険者ギルドと似ていて、飲食系のスペースが商談用の窓口になっているような場所だった。カウンターでレイリさんが話しているとすぐに二階へ案内された。

通された部屋はソファー二つとテーブルのみの部屋で壁には絵が飾ってあるだけの質素な場所であった。

ソファーに腰を卸して待っていると、一人の男性が部屋に入ってきた。


「お久しぶりですジョエル様。本日は店舗になる物件をさがしているとお聞きしましたが...」

ジョエルさんの知り合いのようでかなり腰が低そうな樽型ハゲである。

「カル!また太ったのか!好い加減体に良くないぞ。」

「仰る通りなのですが...食欲は抑えられないもので...」

「タカユキさん、今回物件を商会してくれるカルヴィンです。何か判らない事があれば何でも聞けばいいですよ。」

「タカユキと申します。ジョエルさんとはいい取引をさせていただいてます。宜しくお願いします」

「私はカルヴィンと申します。ジョエル様からご紹介頂いたようになんなりとお申し付け下さい。」

優しい笑顔で挨拶を返すカルヴィンにとても好感情を覚えた。

そこからある程度の内容を話していくと、小さいが作りの新しい店舗が見つかった。条件に合う店舗も一緒に見させてもらったが小さな店舗が一番よかった。一階に作業場と販売スペース二階には風呂付きの居住スペースがあり、部屋数も四つと十分過ぎる物件だ。

....これならロレーヌが従業員と生活しても問題無いな....


「さて、では金額なのですが。この物件は大通りにも面しておりますし比較的新しい物件なので金貨1,200枚が購入金額となります。別に賃借も出来ますが年間金貨200枚ですから購入された方がお買い得かと。」

「なら即金で購入します。」

目の前に白金貨12枚をだす。

「タカユキさん一応値切りも出来ますので...いきなり購入ではもったいないですよ。」

カルヴィンが苦笑いを浮かべながらそんな事を言ってきた。

「では交渉は私がしましょう。まぁお金を前に積まれてからら交渉じゃ、少し話が違って来ますが...」

そう言ってジョエルが交渉を変わり内容を詰めていく。

内容を聞いていると結局はカルヴィンの取り分が大きく関係しているようでそこを交渉しているようだった。

「タカユキさんこの街に屋敷は要りませんか?」

いきなりジョエルが話を振ってきた。なんの事かわからないため説明してもらう。

「今住宅地にある屋敷が売りに出ているんですが、買い手がここ一年以上全く付かないそうなのです。なぜかと言うと屋敷にしては大きくなく、民家にしては大きすぎる。価格も普通の民家が大体金貨150枚~500枚なのですが1500枚もします。貴族街でもなく貴族の買いてはつかないので商人が購入者に該当するのですが、往々にしてもっと贅をこらせた物を作ったり買ったりするもので...その為二つを購入していただけるなら金貨2000枚に出来ます。もしダメでしたら今回の店舗だけで金貨千枚となります。いかがでしょう?」

セット販売で不良在庫処分したいのかぁ...まぁいつまでもクランにお世話になっている訳にもいかないし...買ってみるかな。


最近だいぶ金銭感覚が麻痺しているのか、金貨の価値が暴落している。しかし前の世界で言えば今回の契約で2億が飛んでいくのだからかなりの金額である。


「一応物件を確認しながら帰りましょう。今日は店舗の購入のみで金貨1,000枚支払えば問題無いですし。」

元々の物件だけでも正直いいのだが屋敷そのものが良ければ購入も考えたいのが本心である。普通の民家程度の広さになると、あまり改造も出来ないし実験も行えないからである。

どのような物件か確認するためにジョエルの商会へ行く道すがら現在向かっている。

「ジョエルさんってやっぱ先代の会頭さんだったんですね~」

「お話していませんでしたね、まぁ引退して今は息子に引き継いでいますから関係はありませんが、顔は広い方だと思いますよ。」

ジョエルさんは元会頭だった。まぁ今までの会話の流れや護衛を見れば一目瞭然だ。今更驚くようなこともない。

「見えてきましたね。」

その言葉を受けて外に視線を向ける。中々の大きさの屋敷であった。

外は壁に囲まれており、中に二階建ての建物がみえている。鍵はジョエルが借りてきた様で中に入る事ができた。

庭に雑草が伸び放題であるが、所々に岩が見える。元々は庭園のようになっていたのかもしれない。木造の外観は明治時代の鹿鳴館(ろくめいかん)のような造りで、木造の為か温もりのある昔風の建物だ。内装などは残っている物が多いが、古い設備の物ばかりのため買い直しが必要そうだ。

...悪くはないな...最悪トレントを自分で取ってきてリフォームしてもいい...

この建物はトレントを使ってないのか修繕箇所が何箇所かあった。しかし部屋数も20部屋リビングやダイニング、書斎など全てが品良く調和するかのような配置と設計が建物自体の価値を高めていた。

...買うかぁ...これならクランメンバーを泊めてやることも出来るしな。

そんなことを考えながらまた馬車へと戻る事にする。

「どうでした?私はなかなかの作りに思えましたが。」

「ええ、かなりいい買い物になりそうですね。部屋数が多いのもクランメンバーの事を考えればまぁいいかと」

「それはいいですね。ではオークションは点数を変えて行きますか?」

「そうしようかと思っています。商会の方に着きましたらその話に移りましょう。」


購入を念頭に入れて出品するものを考える。

....オリハルコンってこちで出回っているのかな?あったとしたら結構いい値段だろうな...ジョエルさんは俺の事が何かしら引っかかってるから時々あんな顔や言葉を投げかけて来るんだろうし...安直だがもう少し情報を流して協力してもらうか...そうすれば利益供与もしてあげれるし、最悪姿くらませれば問題ない。他には色々な国があるんだからここに絞る必要もないしな...クランのことは正直心配だが一から十まで面倒見てあげることも出来ないしな...




ギュレック商会の大きな看板が見えてくる。

ウィンリィの街の店舗より大きく石で出来た外観はかなり威圧的に思えた。馬車が到着すると直ぐに従業員であろう三人程が飛び出してきて対応を始める。

ジョエルが何かを言うと二人が走り出し店舗内に消えていった。残った一人が三階の部屋まで案内してくれる。

ジョエルは息子に会ってくるそうで俺だけ応接間に通された。こちらにレイリが従いてきたのが疑問でしかない。

....はわわわわわ....ここで殺されるのかそうなのか....

そんな事を考えながら前回の戦闘を思い出す。

「レイリさんの武器はこの前の短刀だけですか?」

この前盗賊の首をはねたときに使った短刀は、今何処にあるのか分からないが多分持っているだろう。

「いえ、他にも数種類持っています。」

コエーよこの人。後ろに立っているため表情が判らないが多分今回も無表情だろう。

「よければこれをジョエルさんを守るのに役立てて下さい。」

そう言って懐からアダマンタイトとにオリハルコンで細工した短剣を渡した。

....戦力強化させただけかな?まぁ日々のお礼をジョエルさんに渡すよりいいだろう...

「何故このようなものをお渡しになるのですか?」

「レイリさんみたいな人が護衛に付いているのは、それなりにジョエルさんが狙われると言うことですよね?その短剣があればどのような敵の武器も切り捨てられます。魔物のほとんどにも傷を負わせる事が出来るでしょう。」

「ではあなたは切れますか?」

....ヒィーやっぱこの人俺のこと狙ってた!だって出会った時から敵意ありそうだったし、空きあれば殺そうとしそうな目だったし...失敗か?失敗なのか?モノでの懐柔作戦は!...

そうこうしているとジョエルさんが戻ってきた。

「おや?レイリ。その短剣は何かな?」

「タカユキ様が旦那様を守る為に使いなさいと下さいました。」

「ほう...見せてもらえるか?」

「どうぞ」


ジョエルは短剣を手に持ち鞘から出しながら目をあらん限り見開いた。

「こっこれは...オリハルコン!こんな物どこで手に入れたんですか!市場になんて近年出てきていませんよ!」

興奮しながら話しを続けている様だが正直どうでもいい。後ろのメイドが怖い件をなんとかしてもらえればそれでいい。

「それで......と、一人で話してしまいましたね。これは本当にレイリに渡して頂いてもいいのですか?」

「構いませんよ。その刃が私に向かなければ。」

「レイリは心配症でして...この子を奴隷で買ったのはもう10年近く前になります。商人をしていると裏切られることも多いので、奴隷を使用人や護衛にするのは多いのです。その中でもレイリは忠誠心が高く開放後もずっと仕えてくれています。」

「奴隷ですか...やはり屋敷を買ったら使用人は必要になりますよね...買うかぁ...」

「オークションでも出品されますので見てみるのもいいかもしれませんね。...レイリはあなたに会った瞬間、得体のしれないモノに見えたそうです。其のための警戒だと思いますので許してあげて下さい。」

「いえ大丈夫ですよ。ただそこまで警戒されていたのでしたら、何故今回のオークションにご同行を?」

「このような商品に出会えるから...ではダメでしょうか?」

「「........。」」

「実際は初めて会った時に貴方のステータスが異常な事に気がついたからですよ。私は鑑定のスキルレベル10を持っています。それで貴方を見たとき全く見えませんでした。私のレベルはこう見えて100を超えていますが、貴方は見えない。それはその年で上級の冒険者たちと同等以上の実力を持っている事になります。また売りに来たものも普通では考えられないものばかりでしたので、色々調べさせてもらいました。調べても何も出ず、素行も良好そうであれば商売の相手としても問題ありませんからね。結局は貴方のようなちぐはぐな人間が、こからどのように溶け込んでいくのかが気になったのが一番の理由ですかね。」

「.........。」

「貴方のような人物は歴史上にまま居ます。例えば「双剣の庇護」の創始者早乙女などがそうですね。彼女とその仲間は全く素性はわかりませんでしたが、ウィンリィの街を作りこの領を収める貴族と結婚しました。それを側で見てきたのがギュレックです。私もそのような立場に慣れたらと思ったのが今回の一連の流れですね。」

....わかる人にはわかっちゃうのか~ステータス偽装は見破られる...ただ内容は見えないか....

「わかりましたでは私の生活の安定に協力して頂けると考えていいですね?」

「どこまでの事が出来るかはわかりませんが手は尽くしますよ。」

「十分です。有難うございます。その印としてレイリさんには短剣を。ジョエルさんには...」

そう言ってポーチからサファイアとオリハルコンで出来た指輪を取り出す。

「この魔道具をお渡しします。」

「これは?」

「毒や麻痺などの状態異常を除去出来る指輪です。付けていれば問題無く常時発動です」

「ありがたく頂いておきます。」


そのあとの話はスムーズに終わり、ルビーの原石をひとつ追加するだけで話がまとまった。レイリさんの攻撃的な感じは無くなった様だが未だに少しビビる。そのまま出品の為オークション会場に向かい登録をすませた。

色々あったが充実した生活環境はとりあえず整備できる目処が立ちそうだ。明日のオークションでの取引金額に期待して今日もフカフカの布団で眠りに落ちる。




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