23話
街を訪れてから早二週間、特に目立った事はなく。アルドー達に街を案内してもらったり、ジーンさんに街の法律や世間一般の常識を教えてもらった。
この街はトライデント大国とアリスティン公国の間にあるようで、領主が元々アリスティン公国の貴族だったそうだ。両国合意で貴族自体がトライデント王国にずれた形らしい。元々どちらにも接していた領地であり、婚姻関係で変わっていっているみたいだが実際何故なのかはわからない。税収は元々仲のいい両国間で折半しているので争いにもならない。むしろ独立しない領主が真面目な人なのだろう。マップとのずれが気になったが、少し古い物のようだ。役に立たないガイドブックである。
街の中をめぐっていると普通は見かける貧困街が無いことに気がつき理由を聞く。市民登録をしていて生活が成り立たなくなれば領主の方で保証を行なっているらしい。
色々条件などはあるみたいだが...。
なんて素晴らしいと思っていたが、不法に街に居続けている者は探し出され処罰される。
強制労働が主なものであるが、大体働けないものが多く街の外に放り出すわけにも行かないため領都に送っているそうだ。その後は奴隷待遇となり、誰かしらの庇護には入れるらしい。
ただ言っても奴隷のため直ぐに使い潰される場合もある。処刑してしまう程でも無いが食い扶持は自分で稼げである。
そのため冒険者等で体に障害が出てしまった場合に必要になるのがクランである。クランではその保証も行なっているようで、かなりの大金を保証に当てているらしい。保証が手厚いクランは人が多く入るが上納金が増えると言う塩梅だ。
「双剣の庇護」の保証はほとんど無いに等しく、どちらかというと孤児をサポートしているようだ。ケビンやカラムは孤児らしく、自分の稼ぎの大半を孤児院の運営資金に回している。教会の孤児院とは違い「双剣の庇護」でも孤児院を運営しており、そこがケビン達の出身らしい。
保証の問題からもクラン員の数が減少してはいるが、孤児あがりの冒険者は残っている者がほとんどだ。ジーンさんもその一人らしく、いい人ばかりなのはそういう環境で育ったからと容易に想像できた。助け合いがこのクランの良いところみたいだ。
そんなクランが大規模遠征を計画しているようで、最近慌ただしくなってきている。それもこれも俺が持ち込んだバックが原因だ。渡してしまったものなので、いつかはわかると思い容量がクランの建物ぐらいあることを伝えた。
さすがに無制限のバックは渡せない...
容量限定したとしてもそれだけ入れば一度での実入りが多い。大規模な遠征には必需品なのだ。
この街の冒険者は習慣が決まっているらしく、個人によってずれるものの2日分働くと1日休むそうだ。そのくらい休まないと精神疲労が抜けないのだろう。冒険者は人気職業と言うわけではない。常に死と隣り合わせであり、貴族や国の士官口があればほとんどの者が食い付く。結局はブラックなのだ。
そんな冒険者のクランでは休みが合えばドンチャン騒ぎ、クランメンバー同士が仲がいいのか落ち着く場所だ。人数が200人と多いためまだ全然覚えきれていないが…この街の冒険者は5000人街の人口の6分の1ほどが冒険者であり、200人はさほどでもない。
みんなが遠征準備で忙しい中1人夕暮れの街を歩いている。ブラブラ歩いていると街の雰囲気が変わってきた。もう日もそろそろ無くなる時間になってきており、所々で魔石の街灯に火が灯り始める。
今日はどこで飯食べようかな~...
いつもはクランの建物の斜め向かいの定食屋みたいな所で食べているが、今日は皆出払っているようで味気ない。いつもとは違う場所にも行ってみようと思い足を運んだのだった。
ここにするか...漂ってくる匂いは悪くない...
そう思い目の前の定食屋に入る。
中はもう賑わっているようで結構な数の人が思い思いに酒を飲みかわし、料理に舌鼓をうっていた。
「いらっしゃい!今テーブルあいてないから相席でもいいかい?」
樽型体型のおばさんに声をかけられ問題ないとこを伝えると。一人しか座っていないテーブルに通される。ローブを目深に被った男が黙々と飯を食べていた。
その対面の席に座りその場で注文を済ませる。
しばらく待とうと思っていると、ローブの男が話しかけてきた。
「おたくも今から買い物かい?」
言っている意味がわからなかったので聞いてみる。
「なんの事かわからないんですが、今日はブラブラ街を散策がてらこの食堂に寄っただけですよ。」
そう言うとローブの男は思案しているのか黙ってしまい。
その間に届いたエールと摘みを手にとる。
「あんちゃんこの街初めてか?ここは娼館街だぞ?周り見てみろ。男しかいねーだろ?」
そう言われてみれば話には聞いていたが行った事は無かった。確かに食堂で働いている人以外で女の人は見ない。街を案内されたときに言われては居たが来る機会がなかった。
「知りませんでした。そうですか~お幾らぐらいするんでしょうか?」
久しぶりにそういうとこに行ってもいいよなぁ...金もあるし問題ない...
「そうだなぁ、下は銀貨1枚から上は金貨10枚取ってくる場所もあるな。まぁ場所次第で変わるもんだ。」
下は安いが上は高すぎだな...場所も聞いておくか...
「どこにあるんですか?」
「そこらへんの建物全部だよ」
歩いてきたときはあまり見ていなかったがこの区域自体が花街となっているらしい。
その男にお礼をいって色々見て回ることにする。
いやーやっぱこういうのはワクワクしますね~...
久しぶりに今までの欲求を爆発させるチャンスに自ずと心が踊る。
結局、作りが綺麗そうな建物を選んで入った。
「いらっしゃいませ。ご新規の方ですね?紹介での指名などが無いようでしたら、こちらでご紹介させていただきますが?」
分からないのでお願いすると、ボーイさんが色々教えてくれた。
こちらもランク分けされているようで、A~Eで料金が違うみたいだった。Bを選び金貨1枚を本人に宿泊量で銀貨1枚取られた。一晩で約11万円と考えると高すぎだろうと言いたくなるが、困っているわけではないので支払うことにする。
「お待たせしました。ミレーヌと申します。」
目の前に現れたのは首に金の首輪を付け、シースルーの黒のネグリジェを着た女性であった。年齢は20そこそこ、引き締まった体と大きな胸が素晴らしい。金髪碧眼でどこかのお嬢様ではないのかと思った。優しいげな目元と柔らかそうな唇、なんといっても胸だ!否が応にも反応してしまう。
手を引かれて泊まる部屋までエスコートされる......今日は頑張ります!...
翌朝、クランに戻ってくるとケビンに殴られた。自分も行きたかったらしい。
今度一緒に行こうなと言いながら部屋に戻ることにする。
「...虚しい...」
目的が結婚なのに娼館通ってどうするよと、自分に問いかける。
「しかし、サイコーだった。」
精神年齢があれだが体は約20歳元気が溢れて止まらないお年頃である。
「出会いも最近はないしな。」
お金があるため依頼も受けない、街をブラブラするくらいであまり人との接点がない。近場の女性と言えばアンジェちゃんだが、あれはアルドーのものである。あの二人はデキている。絶対だ!
他にもクラン内には女性も多く在籍している。トップであるクランリーダーのロレッタさんは気のいいお姉さんだし、もう一人の副リーダーであるヴェリレさんも綺麗な人だ。
ただ、冒険者だからであろうか出会うたびにド突いて来るし、がさつだし、酒飲むと襲いかかってくるしで女じゃない。クラン内の女性はとりあえず頭の片隅に置いておくとしよう。
「はぁ~とりあえず寝るか」
結局ここから二週間、二日に一回はミレーヌちゃんの所に通ってしまう。
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一週間前ジーン達が遠征に出発した、期間は二週間だ。場合によっては長くなるらしいが、総勢25人の5パーティをまとめて行くらしい。クランリーダーはお留守番で変わりにヴェリレさんとジーンさんが向かう。これで俺もやることがなくなっている訳だが、あと一週間はクランでゴロゴロ過ごすつもりである。
「今日も来てくれてありがとう。」
そうミレーヌちゃんが笑顔を向けてくれる。もう最高である。
もうただの貢ぐ君の立ち回りで通いつめている変態だ。
田舎から出てきて小金を持つと娼館通いが酷くなる奴が多いらしい。そうだと周りからは思われてるようでいいカモフラージュになっている。
あくまでもカモフラージュである。
二日に一度の習慣が染み付いてきている今日このごろ、ミレーヌちゃんとも親しくなり色々な話をしてくれるようになった。
ミレーヌちゃんは元々はマリビレッタ帝国の弱小貴族だったらしく、家が潰され奴隷落ちしたのだった。国により奴隷の待遇や落かたは違うらしくこの国はまともらしい。この国の娼館に買われて今は開放金を貯めているところだ。
この国というよりのこの娼館はまともらしく、開放金の支払いしかり、奴隷への正当報酬しかりいいことである。まぁ全てが全てそうであるわけでもない。この娼館はってことだ。
そしてお金の話になる。
普通はAランクの娼婦は売れないらしい。それは一晩金貨10枚近い値段設定であるため誰も買わないと言うのが実情である。同じ購入奴隷であれば金貨1000枚近くで取引されている為安くはあるのだが、興味本位で買うにしても高すぎるらしい。他の嬢の手前値段を下げる訳にも行かず、最後はまた奴隷として売られるらしい。
ミレーヌちゃんですら金貨200枚程度だったと考えると、如何程に高いかがわかる。この街には一人しか居ないみたいだから機会があったら会いに行ってみよう。金はいくらでも作り出せる、ケヶヶヶヶ....
今日も少しの虚しい気持ちを胸にしまってクランの宿舎に向かう。
...ガヤガヤガヤ...
クランの前が騒がしかった。少し嫌な予感がしたので走って向かう。
クランの前に群がっている野次馬を押しどけながら、前の方に進む。
其処にはジーンさんが血だらけで何かを怒鳴っている。
「さっさと上級ポーションもってこい!」
それを聞いて中のクランメンバーが走り回っている。
よく見るとジーンさんの血ではなく抱えている人の血のようだ。後ろの方にも何人か同じ状態の人がいる。
...さてどうしたものかなぁ...
多分、今ジーンさんが連れている人はポーション程度ではどうにもならない。ポーションの効能では多分間に合わないだろう。命の水をかけても良いんだが...出処を聞かれるとまずいしなぁ...知ってどうこう出来るものではないんだが...
正直全部見捨てるつもりで考えをめぐらせているとロレッタさんが走ってきた。
「何があった...」
顔面蒼白でロレッタさんがジーンさんに問いただし始めた。
「神代の迷宮18階層でモンスターの大群に襲われました!ヴェリレ率いる15人が退路を確保、負傷者をを先に撤退させました。ヴェリレ率いる部隊は交戦中だったため、そのまま重傷者のみ担ぎこちらへ引き返してきました。」
「......どれだけ前だ......」
「...ここまで辿り付くのに2日かかりました...」
「そうか...全滅の可能性は.....?」
「.............。」
神代の迷宮か~確か洞窟系がほとんどだったはずだけどなぁ...そこで大群ってことはトラップかなにかかな?...多分ヴェリレさん達はまず生きてないだろうなぁ...やっぱ見捨てれないなぁこんだけ世話になったし、いいクランだし...
そう思いながら隠れて重傷者に水を飲ませていく。
とりあえずここにいる人で死人は出ないだろう...さてさてお世話になったクランの為に少しだけ手助けしますか...
「私は今から残りのB、C++ランクの者を集めて向かう。ジーンは救援用の食料とポーションを持って後からこい!」
ロレッタさんはそれだけ言ってギルドの方に向かった。
「ジーンさん大丈夫ですか?」
「タカユキか...問題ないアルドーやケビンのことを頼む、あいつらここまで悲惨になる状況は初めてだろうからな。」
今回の遠征はB以上が条件だったためクラン内でもかなり精鋭であった。それが壊滅状態となればクランの屋台骨に与える影響は計り知れない。
「じゃぁ私は私の出来ることをさせてもらいます。」
と、笑いながらジーンさんに言った。




