22話
城壁の中は中世ヨーロッパのような感じだ。石畳の通りに並ぶ店舗。軒先には大きな看板があり、ナイフにホーク、ランプ、本等の形を型どった看板が掲げられている。多分識字率の問題であろう、どの店がどの店かひと目でわかる。
馬車は決まった場所しか走れないようで、道が馬糞で汚くなっている事もない。トイレなどはどうなっているのかな?あまり不衛生には見えないが。
そんな事を考えながら歩いていくと、剣と盾のクロスした看板が見えてきた。お約束過ぎて笑えてくる。
外観は石で出来ているようで、重厚な木の扉が付いていた。
西部劇のような扉で無いのが残念だ...まぁあんなんだと冬は寒いだろうしな...
中に入ろうとすると、隣の木のでできたこれまた重厚な作りの建物から怒鳴り声が聞こえてくる。これは絶対テンプレ的に絡まれると思い、普通にギルドに入った。
「マジスゲーは。」
中は広く作られて居て、明るかった。魔石を使ったあかりだろうか?暗い雰囲気などはなく汚くもない。冒険者とか絶対泥まみれの、汗まみれで汚いイメージしかないのだが...入って左にカウンターがあり右側の奧の壁には依頼表だろうか?羊皮紙が乱雑に貼られているのが見える。床は石でできていて細かにホゾが彫られいる。多分掃除し易くするためだろう。
奥は酒場のようになっていて、冒険者達が武器や装備を付けたままくつろいでいる。ガヤガヤと楽しそうに会話しているようだ。冒険者は男性が大半かと思ったらどうやら女性の冒険者も多いよう...
あ、あれは!
猫耳を生やした人や、うさぎ耳の人が一つのテーブルを囲っているのが見えた。
人族以外もいるとは知ってたけど現実で見ると圧倒されるな...
この世界には多くの種族がいることは始めから知っていたが、現実でみるとその異様さに凝視はしてしまうものである。
どれぐらいだろうか、結構呆然としていたらしい。
「どけッ」...ドンッ!...
後から入ってきた冒険者に突き飛ばされた。躱す事も出来たのだが、どのような反応があるのか気になった。これから先色々な人と関わっていく上で重要なファクターである。
突き飛ばされ床に倒れる。特に周りの人は気にした様子もない。そのまま通り過ぎていく冒険者達の背中に謝る。
「すみません」
「ケッ!」
直ぐに立ち上がり冒険者達を見てみると柄の悪そうな兄ちゃん達だった。ここで因縁を付けられる可能性はあったのだが最悪、人にバレないように消せばいい。
周りの反応やぶつかってきた者たちの反応を見る限りこれが日常的なのだろう。
まぁこちらでの生活が慣れるまではゆっくり静かに平穏にだな...
そう言ってカウンターの方に行く。
一番空いてるのはやはり男のカウンターだった。まぁいいんですよ別にギルドの可愛い受付嬢がどうとか、ここは仕事場になるんだから付かず離れずがいいんですよ。こんなとこで盛るなボケ!
「すみませんギルドに登録したいんですが。」
結局、筋肉隆々のオーガクラス、体長2mのスキンヘッドが受付にいる場所にした。全く人が居なかったのが理由だ。
「はい、かしこまりました。他ギルドカード・市民証・割符のどれかを提出下さい。」
その顔で丁寧過ぎるとか引くは!でも他の女性受付よりも対応が確りしてそうだ。まぁ順番も付いて無いから丁寧に出来るのかもしれないな。
「これでいいですか?」
そう言って、割符を出す。
「はい、結構です。紹介状などはお持ちでしょうか?」
無いことを伝える。
「では、登録試験を受けることになりますが......貴方様は合格となります。おめでとうございます。」
言ってる意味が全然わからなかった為、確認を取ることにする。
「普通試験は奧の訓練場での実戦となります。他の街のギルドでは簡単な質疑応答で終了するんですが、ここは最前線です。ある程度の力がないと死にに行くことになるためそうさせて頂いております。貴方様の場合は私の受付に来れた時点で合格ということです。私の受付に来れる人、または気付ける(・・・・)人はDランクからスタート出来ますので、スタートランクを変えたい場合などは登録最後にご申告下さい。」
よくよく見てみるとこのスキンヘッド、うっすらと魔力を張っているようだ。気配を出さないように漏れ出る魔力や気力を押さえ込んでいるのがわかる。
実力あるのバレたか...このスキンヘッドもここらじゃ上位なんだろうな...
辺りを見回しても自分の存在を主張することばかりに気を取られているのだろう、気力や魔力をダダ漏れにしている人が多い。少ないながらも魔法使いっぽい人や、いい装備を付けている人は上手くコントロールして隠しているようだ。
自分も勿論隠している、レベル25程度の魔力量や気力量になるようにだが。
バレても厄介ごとに即直結ではないだろう。
そこから必要書類の記入と、また水晶に手をかざしステータスの読み込みを行なった。
終わったあと、カードが出来るまでの時間で説明を受ける。
「申し遅れました私、副ギルド長のカルロスと言います。タカユキ様とはこれからよりよいお付き合いが出来ますよう期待しております。」
...テンプレだ...
説明を聴き終わり、結局Dランクからスタートすることにした。
説明は結構在り来りなようで、S、A、B、C、D、E、F、G、8段階にクラスわけされており、プラスが三つ貯まると次のクラスに昇格するらしい。基本は以来内容に応じてポイントを貯めることで昇格出来るが、魔物にかけられているポイントも加算される。Eから上以上に上がるためには試験も有り、Aクラスは現役Aクラスとの模擬戦が必要となる。正直そこまで上がっても仕方がない。ギルド内での暴力ざたはご法度で、そう言うテンプレは起きそうにない。これも、ほとんどの冒険者が何らかのクランに入っている為、いざこざが少ないらしい。
ただ街内では後を立たないらしいが、こちらは街の法律で裁かれるためギルドは一切不介入だそうだ。ある意味、治外法権なのかもしれない。先程の実験はギルド内では意味がなさそうだった。
大体こんなもので30分程で登録が終了した。
銀貨を返して貰い宿を取ろうかと思っていたら。アルドー達が怖い顔した筋骨隆々のお兄さんに連れられてきた。その右手には俺が預けたバッグを持っていた。
「アルドーさんどうかしましたか?」
そう聞いてみることにする。
「いやぁ~このバッグがちょっと問題でして...」
そう言いながらパーティメンバー全員が小さくなっているのがわかる。
「お前か?このバッグをこいつらに貸したのは?」
イケメンなのに青筋をたて怒りの形相で俺を見るお兄さん。
聞かれたので答えたら胸ぐらを掴まれた。
「てめー価値分かって貸してんのか!?こんなもん貸すとか頭おかしいだろ!」
酷い言われようだ。まぁ普通なら貸さないだろうな。金貨20枚だしな。
「ちょっとつら貸せ!」
そう言って外に連れて行かれる。
...カルロース!ヘルプ、ヘルプミー...
カルロスは折り目正しいお辞儀をし、出ていく俺を見送った。
襟首に持つ場所を変更され、連れてこられたのは先程の怒鳴り声が聞こえてきた建物だった。
中は綺麗な作りで俺が作ったログハウスばりである。そのまま二階奧の部屋に通された。というか連れて行かれた。カルロスと同じ体型で歳は俺の精神年齢ぐらいだろうがチョー怖い。
親父も怖かったなーとか別のことを考えていると。
「こんなもんを他所の人にかすんじゃねぇ!どんだけ甘やかされればそんな思考ができるんだ!」
...いやいやまぁそうなんですけど...この歳でそこまで言われると逆ギレとかはしないけど...胸がね...ズキズキするんだよ...
「そうですねぇ...最悪もっていかれても私はいいと思っていましたし。もし彼等に道を案内してもらえなければ、どの道誰かに手にわたっていたかもしれませんしね。本当に有難うございました。」
そう言って頭を下げた。
まぁ実際タダ同然だし、なくても問題ない。道案内はいらなかったけど、もし普通の人間ならあの場で放置されたら死ぬ可能性の方が高いだろう。そしたら結局ねぇ...
下げていた頭を戻すと5人が全員ボー然としていた。
「どうかしましたか?」
ボー然とした彼等が何を考えているか分かっているが、正直命とバッグじゃどう考えても金貨20枚じゃ釣り合わない。
「本当に価値を知っているのか?」
「ええ、金貨20枚ですよね?それくらいで命には変えれませんよ。」
そう言ってしたり顔でイケメン筋肉を見返した。
「金貨200枚だ。こいつらが何言ったかしらねーがこの大きさでこの容量なら金貨200は下らない。そんな
もんをホイホイ渡すなんざどっかの貴族のボンボンしかいねーんだよ。」
おい!アルドー!てめー間違ってんじゃねーか!と思ったが、これは俺の失態っぽいなぁ...こんだけの価値なら、当たりの宝くじ見せびらかしながら歩いているような物だからな。まぁ命に変えられないのは変わりないが、16歳の新人抜けた辺の冒険者に持たせたらトラブルにしかならないか...
「ぁ~貴族のボンボンでは無いんですが...どうしましょうかねぇ...怒っているのは、その子達を無駄な危険に晒されたことですよね?」
「それもあるが...」
「ならそれをあなたにお譲りしますので、このパーティの為になるように使ってあげて下さい。そう言えばお名前も伺ってませんでしたね。」
「...ジーンだ...俺に譲る意味がわからないのだが?」
...そりゃそうだな...
「後ろに立っているパーティが貴方を信頼しているようですし、私の身を按じて下さっているようでしたので...あとは、そのバッグで取引でもと思いまして。」
「取引か?」
「寝床の保証と一般常識の教授です。あとはそのバッグを金貨20枚とし、買い取るですかね?」
そうニコニコしながら言うと、ジーンはため息を吐きながら了承した。
「改めてここはクラン「双剣の庇護」の拠点だ、そして俺は副リーダーのジーンだ。」
そう言って右手を出してくる。
「私はタカユキと言います。村から出てきたばかりの田舎者ですが、宜しくお願いします。」
出された右手を取り握手を交わす。
「本当にいいのか?これはクランで買わせてもらうし、他の条件も問題ない。ただ安すぎてな...お前も装備を買わなくてはいけないだろう?」
この人も相当なお人好しだなぁ...
「大丈夫ですよ、このナイフも売りますから。」
そう言って右腰のナイフを叩く。
「そのためにいい商人を紹介していただけませんか?」
そんな話をしているとアルドーが話を遮ってきた。
「タカユキさん!お父さんの餞別をそんな簡単に手放してはいけません!」
そういや~そんな話してたなぁ...
「別にいいと思いますけど?所詮形見とかでもないですし。多分買い叩かれることも織り込み済みだと思います。ナイフだけじゃそちらの方が危なくないですか?」
「......。」
アルドーは悔しそうに黙った。
「商人の紹介の方は了承した、クランの方には俺から話を通しておくが、クランへの登録はどうする?」
ぁあ、みんなどこぞのクランに入ってるんだっけ...
「何か登録することでいいことや悪いことは生じますか?」
「特には無いがうちの場合は依頼料の2割がクランに徴収されるな。他の討伐した素材などにはかからない。一応名門クランだが、最近は他のクランに人が取られて行っているのが現状だ。この大きな拠点も創立した人たちが立てたもので現在は金のないクランメンバーの宿舎になっている。あとはクランの名前で街をあるけるから下手に絡んでくる奴は居なくなるかな。」
...まぁ問題ないか、どっかの組みたいだな...
「ならクランに登録してここの部屋を貸してください。」
「わかった。商人の方はここから出て右に真っ直ぐ進むと三階建てのギュレック商会と言うのが見えてくるはずだ。そこにいる従業員にジーンからの紹介だと言えばいい。」
「わかりました。では、宜しくお願いします。」
「ようこそ双剣の庇護へ。」
ギルドカードを受け取って無いことを思い出し、ギルドへ戻るとカルロスがまだいたようで直ぐに駆け寄る。
「すみません!さっきギルドカード受け取り忘れたんですが」
直ぐにカードを渡された。
ドッグタグのようなもので名前とランク、レベルと戦闘職が記入されている。素材はミスリルで出来ているらしく、紛失した場合は再登録に金貨1枚かかるそうだ。
その足で先ほど紹介されたギュレック紹介に向かった。
かなり古びた外観の木造で大きな看板でギュレック商会の名前と馬車が描かれている。
扉はないようでいつでも商品が見れるように棚に陳列されている。内容は武器や防具、小物類など冒険者用と言うより旅人用の商品が多いように思えた。
商品奥にいた若い女性にジーンの紹介で来たと伝えると、奥に通される。
奧の大きな扉の前で女性が止まり、扉をノックする。
...コンッ...「入れ」
中から返事が聞こえ、ジーン様からの紹介ですと伝えると女性は部屋の外に出ていった。
「どうぞ、かけてください」
中には白髪のほっそりした老人がおり、自分を値踏みするような視線で見てくる。
部屋の中は質素なものだが、置かれている品は品の良い作りのものばかりで落ち着きのある空間である。
お、このソファー、俺が作るよりも断然いいな...
そんな事を考えていると、先程の老人が目の前のソファーに腰をおろした。
「初めまして、ジーンさんの紹介で来ましたタカユキと言います。」
「ジーンさんの紹介と言うことは訳ありですね?私はジョエルと申します、以後お見知りおきを」
ギュレックとは創始者の名前のようで、今から4代前の人らしい。堅実な商売をしており、トライデント王国ではかなり力のある商会みたいだ。この街が始まりで魔物の素材や武器の物流を、一手に引き受けていたため成長が早かったようである。
「今回はこれを買っていただきたくてこちらにお邪魔しました。」
そう言ってアダマンタイトで刃の部分を作ったミスリルのナイフをテーブルに置く。
「では見させていただきますね。................これは....少しお待ち頂けますか?」
そう言って部屋から出ていき、ミスリルの塊のような物を持って帰ってきた。
「少し試させていただきますね?」
目線でどうぞと返すとミスリルの塊にナイフの刃を当てた。
...カシュッ!...
アダマンタイトの刃のため、魔力を通していないミスリルなんて直ぐに切れてしまう。
ジョエルは驚きに目を見開きその後に、子供のように目をランランと輝かせた。
「これはアダマンタイトの刃先をミスリルで被ったナイフですね。価値は金貨300...いや400はありますかな?お売りいただけるのですか?」
もう買い取る気満々に鼻息荒く聞いてくる。
「う、売るつもりですよ。ジーンさんの紹介なら嘘をつかれる事もないでしょうし。」
少し後退しながら了承する。いい人を二人もかいした商人なら多分問題はないだろう。多分...
「では直ぐに容易させます。」
そう言って部屋の外に一度出て直ぐに戻ってくる。
「準備が出来る間、このナイフの価値に付いてお話しますね。このミスリル自体は正直そこまで珍しいものではありません。安くはないのですが、このナイフの大きさですと金貨10~15枚がいい所でしょう。ただこの青白さはかなりの魔力が込められている為、一気に値段は跳ね上がり50~60枚が相場になります。そして、この刃の部分なのですがアダマンタイトと言う非常に採掘量の少ない金属でして、ここに使われている目に見える分量だけでも金貨100枚は下らいかと。あとは加工する技術が北方に多く住むドワーフしか持っておらず、ドワーフの中でも親方と呼ばれるクラスでないとできないものです。まず出回ることがない品の希少性と技術料込でこの値段の設定となっております。」
メチャクチャ力説されてもフーン程度である。
まぁあれ加工するのマジ大変だからなぁ...それぐらいの価値になるのもうなずける...
「ただ、誰が作った作品か...銘が入っておりませんので...そこはマイナスになりますが...このようにミスリルで飾りつけを行なった、アダマンタイトのナイフはまずないでしょうね。現役を引退してからはこんな興奮する出会いは無かったのですが...」
遠い目をしながら語るジョエルさんはただの武器マニアにしか見えなかった。
正直、あの程度のナイフいくらでもとは言わないが作ることは出来る。もし、このじいさんとも仲良くなれるようなら贈り物として何か作ってみるかな...
話を聞いていると扉がノックされ、ジョエルさんが袋を受けっとって返って来た。
「こちらになります。ご確認下さい。」
テーブルには白金貨3枚と金貨80枚、銀貨18枚と小銀貨20枚が並べられた。
「確かに。」
そう言って腰の巾着に全てをしまい込む。
「それもマジックバッグですか...ジーンさんの紹介なので詮索はいたしませんが、お気を付け下さい。またいい商品がありましたら是非当商会へよろしくお願いします。」
そういって初めとは違った、いい笑顔で言ってくれた。
「ではまた来ます。」
お金に困ったらまた売りにこようと思いながら店を後にした。