21話
ここまで来ると雪はほとんどなくなり、木々の間から抜けてくる光が地面を照らしている。
マップで確認をすると、もうそろそろ森を抜けてもいい頃だ。当たりを見渡しながらゆっくりと歩く。
ヤバいまじ緊張してきた...もし人にあったらどう話そうかな。なんせ三年半ぶりの人との会話だし...
期待と不安でドキがムネムネしている精神年齢32歳。
最後の山脈を越えた辺りから魔物との戦闘は武器すら使っていない。それは出会う魔物全てがレベル200以下であり、武器すら使う必要がないからである。
腰には下げているものの出番は無く、レベル45の豚野郎斧ですら片手で捉えることができた。その他の魔物も、手を振るえば大抵がクチャクチャになるので今は手加減を覚えようとしている。
「...ん?」
耳に戦闘している時の金属がぶつかる音が聞こえる。
様子を見ようと完全に気配を消して近づいていく。
...どうかなっとぉ...
そこにはオーク五匹と対峙している四人の若者がいた。
対峙していると言っても三匹は既に倒されているようで、オークはあと二匹問題なさそうに見えるが...
中央の体長2mのオークが鈍いろに輝く斧を振り回す。目の前に居たロングソードをもった少年は気付いて居ないようで視線がもう一匹の方に向いていた。後ろに控えていた、盾とショートソードを持った少年がすぐに間に入り左手の盾で攻撃を受ける。
...ブォンッ!...ガンッ!...
相当な衝撃だったのだろう、左斜め上からの斧の衝撃で少年の足が少し地面に沈む。
「アンジェ!ケビンに回復魔法を!」
斧を受けている戦士が後ろにいる白い修道服を着た少女に言う。アンジュちゃんは何かを呟きながら黙って居たが直ぐにに返答する。
「わかっています!ヒール!」
ヒールをかけられたロングソードを持ったケビン君は、手や足から血を流していたようだが直ぐに止まる。ケビン君は直ぐに前にいたオークに剣を突き立てようと距離を詰める。
「アルドー!よけろ!」
盾で防御をしていた戦士系の少年、アルドー君に向かって、魔法使いのようなローブを着た少年が叫ぶ。
魔法使いはもう魔法を使う気がないのか、木の長い杖を手にもったまま震えている。逃げ出さないだけまだマシかもしれない。MPは残っている様だが雀の涙ほどだ無理もない。
盾で受けていた為、オークが斧を引いたときに体が流れてしまう。
「クッ!」
少しのスキを好機と思ったのだろう、オークの口がニヤっと裂ける。
「うぉぉぉぉぉ!」
ロングソードを持ったケビン君が自分の相手しているオークを弾き飛ばしてアルドー君に加勢に入る。
オークは後二匹、ケビン君とアルドー君が必死に奮闘しているようだ。
...んー大変そうだねぇ手伝うのも悪くないんだけどなぁ...
オーク(オス)
LV40
HP120/6700
MP0/0
・豚の人型魔物、世の女性の天敵。
繁殖能力が高く、異種族間での交配が可能。
集落を形成し、集落内のヒエラルキーから上位種が誕生する。
...片方こんな感じだし、もう片方もどっこいどっこいだから...ここで出てったら横取りになりそうだな...
アルドー君にも鑑定をかけてみる。
名前:アルドー・シュベル
種族:ヒューマン
年齢:16
性別:男
職業:冒険者
LV:25
HP:560/5,751
MP:202/2112
状態:疲労(大)
気力:213
筋力:27
魔力:96
精神:22
防御力:120
魔耐久力:70
<スキル> 盾術LV:2 水魔法LV:1 剣術LV:3
<称号> なし
...うん、まぁ無理しなければなんとかなるでしょう。...
...他の人もあまり変わらずのステータスか、歳も一緒仲いいのでつるんだパーティか?こいつだけは苗字があるなぁ。少し気になるが、こんな事しているってことは貴族だけど継げない系かな...
...それよりも自分のステータスを彼らぐらいまでに落として表示するか...
そう思ってると程なく戦闘は終了した。
「やったぞー!これでCランクにアップできるぞ!」
「ケビン、気が早いって...試験を受ける資格が付くだけだろ。」
そんな熱い漢な二人を見ながら、アンジュちゃんは微笑み、ローブ男は満身創痍の顔をしていた。
...出るなら今かな...
そう思いパーティーの前に顔をだす。
「こんにちは。」
タイミングは絶妙だったはず。顔もスマイル貼り付けの極上だ。なのになんでだろう?すごく警戒されている...
「お前は誰だ?なんでここにいる?」
アルドー君が目を鋭くして聞いてくる。
「すいません、道に迷ってまして。もしよろしければ近くの街まで連れて行ってもらえないでしょうか?」
苦笑いを浮かべて私困ってますアピールでこの場を乗り切る。
...あ!剣に手をかけないで!本当に怪しい者じゃないんですって!...
顔から冷や汗が出てきた。
...あっるぇ~?俺ここまで不審人物系だったか?それとの日本人顔なのが問題なのか?...
そんなことを考えていると、オークの死骸が目に入る。
「このオークはどのように持ち運ぶんですか?よろしければ街への案内賃に運ばさせていただきますが?」
...よーし!これは行けるな空間魔法とか絶対使えないはずだ!そこで私役に立ちますよ?甘い、甘すぎる誘惑だ!...
パーティメンバーはお互いに顔を見合わせながら確認をとっているようだ。
しばらく経ってから、アルドー君が言ってきた。
「正直、あなたは怪し過ぎます。ここの森は単独で入る場所ではありません。ただ、私どももオークを運ぶのに苦労しそうなので今回は目をつぶります。街まで宜しくお願いします。」
...さすが貴族様。礼儀正しいねぇ、平民だとか蔑む事もなさそうだ。てかこの場所にいる時点で怪しいわけね。そりゃそうか、あんだけ苦戦してたもんな...
「こちらこそ宜しくお願いします。あと...お金も持って居ないもので...出来れば後ほどでいいので、私の私物の中に売れるものがあるか確認していただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「...それに関しては問題ないです。森を出てから見させてもらいます。とりあえずこの場を離れましょう。」
オークの死体を試しに作っておいた空間拡張したバッグに入れて行くと、全員が驚いた顔をしていた。
2・1・2の隊列で俺が真ん中。結構警戒つづいてますね。肩身が狭いです...
「歩きながらで申し訳ないが私はアルドー、見ての通り戦士で冒険者です。」
金髪の髪に身長180cm程、筋肉は付いているが細マッチョって感じのイケメン。装備は鉄製のものばかりだ。
「俺はケビンだ!剣士をやってる。まぁ冒険者パーティーの一人だと思ってくれりゃぁいい。」
こっちは黒髪のゴリマッチョだ。黒髪云々でいざこざに巻き込まれるのは嫌だからな。身長は190cmくらい、ある意味クマだな。無骨なロングソードが映えてますよ!
「私はアンジュっていいます!教会の見習い神官です!」
うん!可愛い!と思いながら話を聞く。金髪碧眼のモデル体型美少女って感じだ。身長は160cmくらいだ。長めの錫杖?みたいなのが武器かな?
「僕はカラムといいます。魔法使いです。」
結構暗いやつだな。こちらは茶髪で癖っ毛のようだ。顔はイケメンのくせに感じが暗すぎてマイナス評価だな。俺と身長は変わらずか。
「私はタカユキと言います。少し前に海側から森に入る事になってしまい、困っていたときに貴方がたをお見かけしたんですよ。まぁさっき皆さんも驚いていたようにこのバッグのおかげで餓えずに済みましたが...戦闘はそこそこはこなせますよ。街までですがよろしくお願いします。」
今の服装は防御力ゼロの綿のシャツに黒のスラックス、ブーツに脇にナイフとちょっとした田舎の農民風にまとめてみた。いつもの装備じゃ絶対怪しすぎるからだ。
自己紹介も終わり街に向かって歩きながら雑談をする。
「じゃぁ村から出てきたばかりですか。」
設定は村から出てきたなりで街に働き口を探しに行こうとしたら盗賊に合う。言われるがままにお金は出したけど殺されそうになったので、持ち前の身軽さで森に駆け込む。二日程迷ってみんなと出会うである。バッグとナイフは昔冒険者だった親父からの餞別と言うことにした。
「今から行く街はなんという名前なんですか?」
「ウィンリィと言う冒険者の街ですよ。ここらへんじゃ一番大きな街で、冒険者の最前線の街です。」
この時代の冒険者はこの大きな森(「拓けぬ大森林」と言うらしいが)の中にあるダンジョンから、食材や宝石などを採ってくるのが一番稼ぎがいいらしい。国が管理していないダンジョンはどこの国にも属していないこの森にしかなく、ダンジョンまでに高レベルの魔物にも出会うため修行の場にもなっているそうだ。
いきなりアルドーが目を鋭くした。
「タカユキさん、街の中では気を付けて下さいね。あなたは話している中で抜けている事が多いような気がします。村育ちだからわからないのかもしれませんが、そのバッグひとつでも狙ってくる人は居るでしょう。」
...もしかしたらとは思ったけど...どーもまだ前の世界の考え方が抜けきってないのかねぇ...
「そんなするもんなんですか?」
「それはアイテムバックですよね?オーク五匹も入るバッグなら金貨20枚はくだらないでしょうね。私たちも欲しいくらいですよ。」
...ほう、これは稼げますな。最初の街では冒険者で稼ごうと思ってたけど...これなら結構いけるか?...てか、そんな事教えてくれるなんていい奴だなぁ...
「アルドーさんはそんな事教えていいんですか?お金持ってないって言いましたよね?買い叩くことも可能だったのでは?」
「いやー自分もお金に困った時に大事な剣をだまし取られてしまいまして...そういう人がいると助けたくなるんですよ。あとそのナイフもミスリルですよね?かなり高額な値段で取引されていますよ。」
...アルドー超イイ奴。他の奴らも何も言わないってことは賛同してるってことか?ええ子達や...
「お!もう森を抜けるぜ!街まではあと少し歩いたらつくさ。」
冒険者の小話を聴きながら歩いていると森を抜けたようだ。結局戦闘にはならなかった。
早速品物を見てもらおう。
「では歩きながらで申し訳ないんですが、これなんかは売れますか?」
...まずはゴブの魔石から行きましょう!腐るほどあるしね!...
「これは...かなり純度がいいですね。多分ギルドで売っても小銀貨1毎にはなるかと思いますよ?」
...おおゴブが初めて優秀に見えた...
「ちなみに街に入るにはいくら位要ります?村では物物交換交換が主だったもので...」
「銀貨1枚ですね。小銀貨10枚で銀貨1枚ですよ。宿も銀貨1枚で二日は泊まれます。」
脳内の異世界ガイドブックの貨幣価値に付いても、大体一緒なことが書いてあるなぁ。やっぱりこの人は正直に話しているのか...
「まだギルドに登録しているわけでもないんでよければ買い取って貰えませんか?20個で銀貨1枚でどうでしょう?」
情報量含めてだ受けっとておけ小僧!
「それなら私たちが売りに行ってきますよ、そこまでの手間でもありませんので。」
一回断りーの...
「今回色々聞かせて頂きましたから、それ含めでお願いします。」
さぁ買い取れ!
「では...そういうことなら...」
よしっ!まぁこの子達に何かしてあげたいって思っちゃうんだよねーこっちに来て初めてあった人だからかな~。
取引も終わり街道を歩いている。
文明がそれなりに進んでいるようだが石畳が限界らしく、破損箇所もところどころににあり逆に危ないように思える。
アルドー達の話によればウィンリィの街から二日南に行った場所に領都があるらしいのだが、整備が追いつかず困っているようだ。いつも領都の街道であるこの石畳の補修は出ているのだが、割に合わないらしい。
ウィンリィの街に来る冒険者は荒くれ者の一攫千金狙いが多く、そのような雑用依頼を受ける人はいないのだ。
そんな話をしていると街が見えてきた。
「すごいですね...」
「そうでしょう!ここは生存競争に敗れた魔物や、餌を求めた魔物に頻繁に襲撃を受けるため頑丈な城壁に囲まれているんですよ。私も初めて来たときは驚きました。」
「おうよ!アルドーの奴ここで惚けちまって後ろの荷馬車から怒鳴られてたもんな!」
「アハハハ!」と笑いながらケビンが教えてくれた。
確かにすごい城壁である、高さは10mくらいだろうか?門から見える厚さは5m以上城壁上の戦闘もできるようだ。また周りは川の水を引いているのだろう水で満たされている。
「止まれ!身分証を提示してくれ。」
若いあんちゃんが重そうな鎧を来て通せんぼしてくる。
「すみません。村から出てきたばかりでもってないのでお金で大丈夫ですか?」
「かまわんぞ。そこの小屋の中に入って水晶に手を置いてくれるか?担当の者が小屋にいるはずだ。」
オークを持っている事を忘れていたため、慌ててアドラーさん達に確認を取る。
「アルドーさんすみませんが少し待ってもらえますか?あぁ待っているのもあれですね、これ渡しておきますね!」
そう言って担いでいたバッグを投げ渡す。
「オッと、これはまずいだろう!さっきも話したじゃないか!」
「このあと私も冒険者ギルドに行きますんでその時に返して下さい!信頼してますから。」
そう言って小屋に向かった。
小屋に行くと、足止めしてきた衛兵と同じかっこのおっさんがいた。
「銀貨1枚だよ~、結構高いからね~先に出してね~」
そう言って銀貨を渡し、言われるがままに水晶に手を置くとステータスが映し出された。
名前:タカユキ
種族:ハイヒューマン
年齢:18
性別:男
職業:無職
LV:25
HP:4,500/5,460
MP:2,400/2,645
状態:正常
気力:195
筋力:28
魔力:115
精神:23
防御力:85
魔耐久力:115
<スキル> 短剣術LV:3 火魔法LV:2 土魔法LV:2
<称号> なし
よしっ!偽装されてるな。
「じゃぁこの割符もっていってくれるかいぃ?滞在期間は一週間で再度入場は認められないよ~。ギルド登録するときはそのまま割符を渡せば銀貨は返ってくるから、あまりお金がないなら直ぐにギルド登録がおすすめかなぁ~」
「すみません、ステータスの何を見てるんですか?」
疑問に思ったので聞くことにする。
「名前の表示が赤色だと犯罪行為を行なった事がわかるんだよ~ステータス偽装して入ってくる人もいるけどこれには嘘は付けないからねぇ~。」
...オォォゥ...まさに俺か...ということはスキルLVが10だとバレなくなるのか...そういう人間も居ることは頭に入れておかないと...
「答えて下さってありがとうございました。冒険者ギルドの方に行ってみたいと思います。」
そう言って笑顔で頭を下げる。
「がんばりなよ~入ってすぐ右側にあるからわかると思う。ようこそ冒険者の街ウィンリィへ!」
ギルド登録したら宿でもとるかなぁ...
そう言って初めての街と、新たな出会いに心を躍らせ街の中に入っていく。




