20話
季節が変わり泉の周りでは雪が溶け春の暖かさが感じられるようになってきた。
北上すれば確かに雪はあるものの、移動手段が確保出来ているのでそこまで苦にはならない。スノーモービルを走らせ薄く積もった雪上をかける。
...キィーーーーーーン...
50km/h程のスピードで森の中を走る。
雪積もるような季節は狩りをしている人型系の魔物も少なく、集落にさえ突っ込まなければ気付いたとしても追いかけては来ない。
「やっぱもう少し待った方が逆によかったかな。」
出発してから早二週間、当初の予定ではトライアルバイクで行くつもりだった。周りの雪もなくなったので行けると思っていたのだが、さすがに春先ではまだ積もっているところも多くさすがにスノーモービルに乗っている。
視線の先で真っ白な大地が途切れているのがわかり、スノーモービルを横向きに滑らせながら止まる。
...ズザザザザァァァ...
乗ったまま崖の下の方に目を向けた。
「かなり高いな...迂回したほうがいいか?」
そしたら100kmぐらい内陸に入るな...寒さと雪の深さを考えると身体強化して向こう側まで行った方がよさそうだが...
崖の幅は約50m高さは約30m。谷底には川が流れており、雪解けの季節だからだろうかかなり流れが激しく見えた。
水上歩行魔法はまだ完成してないし、これぐらいの距離なら飛んでも良いんだが...少し迂回していくのも悪くないか、この時期の魔物の生態を知っておいても無駄にならないだろう...
魔物との遭遇率も少ないためか心にゆとりが生まれている。少しの寄り道でも何かが得られればと思い、
川が流れてきている方向にスノーモービルを走らせ始めた。
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・・・二ヵ月前・・・
オリハルコンとか全然取れねーじゃん!どんだけ希少なんだよ!ボス復活してくれりゃソッコーで採取できんのに!
午前中はレベル上げに勤しみ、午後は鉱石の採取。刀の鍛錬や魔法研究も継続しながら過ごしていた。
ダンジョン探索の為の魔法研究も行なってはいるのだが、さすがに期間を決めあれやこれやと手を延ばすと身体一つじゃどうにもならなくなってくる。
なんでも出来る魔法と言う物があるのだから使えばいいと考えてしまうものだが、その魔法の開発にも時間がかかるわけで余計な時間を取られることをきらい作っては居ない。多重思考魔法も常時展開しては居るが結局、手を動かすのは自分自身なので手が足りないのである。
オリハルコンの採取目的はスノーモービルやトライアルバイクの動力回転部分の軸受を作りたいからである。
ベアリングを作ろうかとは思ったが、内部のたまの形成やオイルパッキン、中のグリースなど作れそうで出来ない物が多々あった為断念した。現在は軸受やエンジン回り、一部可動部や軸の一部等以外は全てミスリルで作っている。
手持ちの鉱物じゃどうしても心もとなく、在庫切れはさすがに避けたいと思ったからが大きい。
頑丈な槍系武器も消費量を考え銃の開発にシフトした。
とりあえずこれくらいでいいか...さすがに一ヶ月じゃ間に合わんな...
そんな事を考えながら自宅に戻る。
結局、一ヶ月と二週間程かかったのであった。
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最近の苦労を思い出しながら進むと案外早くついたようで、川の幅も5m程までに落ち着いている。崖ではないのだが、激流であり辺の雪のつもり方も半端ではない。
これ...スノーモービル降りたら沈むな...
かなり積もっているようで走って来ている時も、顔に向けて新雪が降りかかって来ていた。
現在の場所は標高が少し高いのだろう、来た方向に顔を向ければ遠くを見渡せる絶景のポイントであった。
ちょうど半分少し過ぎたところかな。
ここ最近の進捗状況には驚かされる。今までかなりの時間をかけて距離を詰めて来ていたのだが、なかなかはかどってはいなかった。まして今のような雪がある環境であればもっと条件は悪くなっているだろう。
ダンジョンの探索はいい経験になっているんだな...多分ここから見える山脈を超えれば魔物のレベルも変わるだろうもう一息頑張りますか...
雪上での移動は身体強化を行なったとしてもどうしても雪に足を取られてしまい、行動に制限がかかってしまう。ダンジョンでかなりの期間経験したからだろうか今では慣れてしまっているが、もし乗り物がなければ完全に雪が溶けるであろう夏場から開始したに違いない。
停車していたスノーモービルに魔力を流しエンジンを回し始める。
...フシュルルルルルゥゥ...
その場で周回しながらスピードを上げる。
...シュィーーーーーーーン...
...キィーーーーーーーーーン...
タービンの音が甲高くなりスピードがあがった事を感じ、一気に川の対岸に向けて加速する。
飛び出す一歩手前でフロントに体重をかけ沈ませる。反動を利用してフロントの車重を抜き、スロットを全開にして一気に飛び出す。
...初めて飛んだけど結構気持ちいな...
...ゴバァッ...ズザザザザァァァ...
対岸に渡っててから一度停車し各部を点検したが問題ないようであった。
「頑丈にできたもんだ。」
次の目的地まではあと数日はかかるだろうが、遠くはない。
ゆっくり目指せばいいと思いながらまたスノーモービルに魔力を流した。
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目的の山脈の麓まで来た頃、重大な事に気がついた。
「魔石が足りないな...」
燃費を気にしてはいたものの、ダンジョン探索で大量に消費していたことに頭が行っておらず。燃料として使える小ささの魔石が不足していた。しかも使っているのは緑色の魔石であり、取れる可能性が高いのはグリーンウルフやフォレストバット、小型の昆虫系魔物に限られている。
「ゴブの魔石は大量にあるからしばらくは大丈夫だろうけど...燃費が著しくおちるからなぁ...とりあえず山脈超えてから考えるか。」
エンジン内の魔石投下スペースを広げればいいのだが、広げた分だけ魔石の入る量が増えるため、ダイヤの個数も増やす必要が出てくる。結構面倒な作業になるため今は放置することに決めた。
山脈の勾配はかなりきついが一年以上乗ってきた運転テクニックとエンジンのパワーで一気にかけ登る。途中でシロクマみたいな魔物もいたがこちらには向かって来なかった。
面倒なのか攻撃性がないのかはわからないが、折り返し地点周辺からは滅多に襲われることは無い。雪の関係かとは思ったが、いつものようにオーガやトロールは出会ったら攻撃してくるので魔物が襲ってこないとは言えなかった。特殊な個体なのかもしれない。
甲高いタービン音を響かながら、頂上まであと少しのところまで来ている。一番低い場所を狙って登って来たのだがそれでも3000mはゆうに越えているだろう。耳が痛い。
「あとちょっとぉー!」
叫びながら前傾姿勢で登っていると索敵に高速で何かが近づいてきた。
マズイ!
今の勾配の場所で攻撃されると下に転げ落ちてしまう。
すぐに乗っていたスノーモービルを異空間に放り込み、雪の中に埋まる。
埋まると同時にもの凄い風圧が体を押しつぶした。
...ゴウッッッ...
「グラララララァァ!」
雪に押しつけられながら通過したものに目線を向ける。
「鑑定!」
ワイバーン(オス)
LV512
HP45,500/49,600
MP8700/12,300
スキル 火魔法
称号 なし
・亜竜と言われる竜種。竜の中でも一番最下級であることで有名。
知能は低く悪食であり。群れで狩りをすることが多い。
竜種と言うこともあり鱗はかなりの強度があり、高値で取引される。
いつもありがとうございますと、心の中で言いつつ様子を伺う。
「他の個体は居ないようだな。個々でも狩りは行うと言うことかな?」
上空50m当たりだろうか「バサァッバサァッ」と真っ黒な巨体で旋回しながら、こちらの様子を伺っているように見えた。
体長は7~8mぐらいだろうか、想像していた竜とは違いカナヘビに大きな羽を取り付けて引き伸ばした感じであた。
「少し残念だな...まぁ違った奴もいるだろう。」
右のホルスターから、この前出来たばかりの銃を取り出し構える。
全長をは30cmと長く全体的に青白く輝いている。構造にあまり詳しい訳ではなかったので、薬室と砲身をオリハルコンで作り周りをミスリルの部品で被った。トリガーに魔力を流すことでマガジンの部分に入っている茶色の魔石で弾丸を生成し、本来撃鉄になっている部分に緑色の魔石を使いトリガー引くと魔法が発動する。完成した弾丸が発射すまでに抜け落ちないようにするのに四苦八苦したのが記憶に新しい。
銃を両手で包み込み飛んでるワイバーンの眉間に照準を合せ引き金を引く。
...ズバシュ!...
反動は魔力消費を抑えるために出るようになっている。その為、腕への反動がモロにかかる。
弾丸は魔法で生成した弾丸とは違い、マガジンに入った鉄から生成されるため、威力は魔法の弾丸とは比べ物にならないほど強力で長距離からの狙撃も可能であった。
どうしても魔法の弾丸では途中で脆くなるのかみたいで、威力が距離に反比例する。
...ドパッン!...
発射とほぼ同時に着弾した。
黒のワイバーンの頭は花火ように真っ赤に飛び散り落下していった。
「目の前でみると結構な迫力だなぁ...さすが竜種なだけはあるか。」
落下した場所に向かいワイバーンの巨体を一通り眺めてから回収する。
スノーモービルはこの斜面じゃ加速できないので断念し、徒歩で山頂まで歩き始めた。
一時間ほどで山頂に到着することができ、昼食を取ることにする。
「景色を見ながらの昼食はいいもんだなぁ」
目の前には、人の領域と魔物の領域を隔てているのであろう最後の山脈が見えている。左側には海が広がり、改めて今いるこの場所が一応は地球のように球体なんだなと思った。
昼食には、オニギリに鮭っぽい魚の身を入れた質素なものを持ってきており、ダンジョン産の食材に助けられる毎日である。
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次の山脈をまでは雪も溶けて来ているのだろう薄かった雪がところどころで土が見え始めていた。魔物との遭遇率も急激に上がってきていたが、かなり弱い。レベルが300を超える魔物が急激に減っている。このことから考えられるのは、大陸東上が一番魔物が強くなっていてそこを中心に弱くなって行くのではないかと考えられた。
泉の周りのゴブリンには30レベルのものも居たがダンジョンとの関係かもしれない。
一番の山場を簡単に抜けることが出来たためだろうか、順調すぎる進捗状況に浮かれる。
「ヒャッハー!サイコーじゃい!雑魚ども死ねやコラー!」
現れる魔物だけでなく索敵に引っかかったものまで片っ端から切りつける。もはや頭のおかしい人である。
スノーモービルも使えなくなり、徒歩で山脈を越えるとやっと目的地までちょっとなのがわかる。
...マップだと泉から海までの距離とかわらないな...ならあと三日前後で徒歩でも抜けれる...大詰めだな...
最後の山脈を下山し終へ、帰宅する。
「人里ではどうするかな...」
...日本人も来ていてそれなりに発展しているのであれば、冒険者みたいなもので生計は建てれるな...でも目立ったら絶対に何かに巻き込まれる...王国とか帝国とか貴族社会が形成されてる可能性が高いし、これだけ魔物のいる地域が存在していて手を付けてないとなると領土をめぐった戦争もあるだろうな...ていうか俺言葉通じるのか?...
急に不安になり魔法の開発を行う。
...人の話を聴きながら言語体系を解読して言葉を............面倒い!...
...こんな時のための神への限定接続だ!...
頭の奥に念じるように気力と魔力を流していく。
...異世界語...異世界語...異世界語...
いつものように体から気力と魔力が抜ける。
意識を保つことができたばかりでなく気力も魔力も多く減ることはなかった。
...自己的に気力・魔力錬ってから流すと減りが少なくなるんだな...いい発見をした...
異世界語を獲得し不安がいくらか和らいだので、あと数日で着くかもしれない人里に思いを馳せるのであった。




