プロローグ2
一瞬で目の前の景色が変わり。簡素な日本住宅の居間といった場所に立っていた。
「気にしないでお座りなさい。」
何故か甚平に早着替えした爺さんに促され座る。
靴はいつの間にか脱げており、テーブルにはお茶があった。回りにはテレビやケルト等の電化製品をはじめ、昔ながらの桐箪笥や熊の木彫り等少しゴチャっとした感じだ。ただ、部屋に敷かれている畳のいい匂いがとても心地いい。
「あの、どういう事でしょう…」
辺りを一通り見渡したあと余計に疑問しか出てこなかった。
「そうじゃの、君をここへ連れて来るのに君自身の言葉でワシと契約する必要があったのじゃが…説明もせずに連れて来たのは申し訳ないの。」
あっけらかんとした爺さんはさっきまでの紳士的な爺さんとはなんか違って見えた。ただ、どっかの魔法〇女じゃないがジジイと契約はお断りしたい。
「いえ!帰れるなら別にいいんです!お気になさらず。」
そういうと爺さんは申し訳なさそうに眉の端を下げる。
「出来ればさっきの話の続きで聞いて欲しいのじゃが、異世界に行く気はないかの?」
これまた唐突。キターとは言えないお年頃28歳独身。別に行く必要がないし行きたいとは思わない。それ以前にいきなりそんな事言われても判断出来るわけがない。
「申し訳ないのですが行く気はありません…」
もともと生活は安定してたしこのまま過ごせば漠然とした不安はあるものの普通に結婚して普通に老後をむかえれるはず。
「できんぞ」
「なんの話でしょうか?」
「結婚じゃ」
「「 …… 」」
あぁ、いろいろ急展開過ぎて放置してたがこの爺さん神様系の人ね。心も読めて、未来も見える。全知全能ですか。畏れ多いとか神々しいとか一切ないな。むしろ優しそうな爺さんだ。
「君が考えている様にワシは神じゃ。呼び方は爺さんでいいぞぃ?思ってたじゃろ?あとわざわざ丁寧に話さなくてもいいぞい。」
「ではそうさせて頂きます」
「あと全知全能でもないんじゃよ」
そりゃそうか。全知全能なら最初っから攫って来るか。
話を戻そう。何故結婚できないか、異世界に何故行かなくてはいけないのかがわからないからな。
「原因は君の運命にあるんじゃ…」
「いやいやいや、そんな特別な人生どころか平々凡々よりちょい下の人生ですよ?」
「今まで死にかけた事はないかの?」
死にかけたこと?あるな〜バイクで正面衝突、車でトラックおかま、峠でブレーキ焼け付き。
「3回くらいありますね」
「20回じゃ」
「はい?」
「君が死にかけたのは20回じゃ」
いやいやそんなないですよ、昔から怪我は多い方だったが死ぬかもしれないと思った事はなかった。だから三回のはずだ。
「君が最初に死ぬはずじゃったのは8歳で骨を折ったときじゃな。」
あったなーそんなこと。鬼ごっこで倉庫から飛び降りたら勢い余って転倒、友達が俺の腕に着地でポッキリだったな。
「その時に君は首の骨を折って死んでるはずじゃった」
「はぁ…でも生きてますけど?」
「普通は一回でもおかしいのじゃが、君は20回。これがどういう意味かわかるかの?」
「運がいいんじゃないですかね?」
「何故かははっきりと言えんが君とその周りの運命が捻れとる。」
「俺が原因の根源なんですか?」
「そうじゃな。君の存在が起点じゃし」
「それならそこを修正すればいいんじゃないですか?」
言っててわかった。俺が居なくなれば万事OK。だからと言って了承出来るわけがない。
「でも結婚とは関係ないですよね?」
「君の運命についてこれずに他人は往々にして離れていくんじゃ。結婚は確実に出来ん」
残っても結婚出来ない寂しい人生。結婚が全てではないが異世界へ行けば今の人生を捨てワンチャンある人生。
俺異世界以外選択肢ないんじゃね?と言うか、これまで付き合ってきた彼女がビッチなわけでなく、俺の運命が悪いのが原因って…救われたようで救われない…なんか泣けてきた…
「申し訳ないが他にもあるんじゃ、捻じ曲がった運命は人生も変える。君が平々凡々にしかなれないのはリスクを避け続ける運命になっておる。それを裏返せば誰にも影響を与えないとも言えるがの。君自身が影響を与えないようにしても、君の行動で運命が捻れる。その余波は他人の運命をねじ曲げるんじゃ。」
俺は死ぬ運命を8歳で抗ったから捻じれを生んだのか...運命を司る奴がいるならそいつが処理すればいいのに...
「運命神が困って相談してきたのが発端じゃ…」
あぁそういう事ねよーくわかります。
「でも異世界の運命にも影響を与えません?」
「与えても関係がない世界なら問題はないからの。地球は魂の養殖場でのぉ、そこでの運命の捻じれは大きな誤差を生み欲しい魂が出来なくなるのじゃ。」
「はぁ…養殖場ですか…」
「世界というのは拡がり続けておる。発展した世界もあれば未発展の世界も存在しておる。その帳尻を合わせるための魂の養殖場じゃ。」
んー聞きたい事は色々あるけど直接は関係ないか…
「話しを戻しますけど、契約云々いいましたがもしかして強制的に異世界送れたりします?」
この人?神なら出来るはずだよなー
「一方的で申し訳ないないがの、君から言質を取って契約したからには可能じゃ。」
あれ?なんでさっき普通にお願いしますなんてでたんだろう?
「そうですか…わざわざ確認のような事をして頂きますありがとうございます。居なくなった後の処理ってどうなります?」
ごねるより今は感謝だろうな...いきなり飛ばされたらどうなってた事か...
「気にせんでくれ、こちらのミスも多分にあるんじゃ。原因は確定していないがの。存在は抹消するから問題ないの、物等も放置は出来んし回収させてもらうつもりじゃ。」
「もらう事って出来ますか?」
「それは構わんぞぃ」
はー異世界か…この歳から厳しい人生になりそうだ…
待つこと数十分、抹消と回収が終了したみたいだ。
「では行ってもらう異世界について話そうかの」
「よろしくお願いします」
異世界についてはできる限り聞いておかなければいけない、命に関わるからだ。
あれ?俺って運命が死なない方向に傾いてるはず…じゃぁ異世界行っても死なないのかな?
「簡単に死ねるから大丈夫じゃ」
おい!いやいや死にたくないでしょ、結局消される感じですか…
「そういう意味じゃないのぉ。君の運命は地球を含む世界以外なら正常じゃ」
そりゃそうか、だからこそ異世界へ飛ばされるんだしな。
「こちらのミスが多分に含まれると言ったように、それなりに希望には応えるつもりじゃ。ただ行ってもらう場所は変更出来ん。」
「どのような世界なのですか?」
「魔法が存在しており、文明を築ける種族が人間以外にも存在する世界じゃの。ただ魔物や盗賊がいるからの、地球より殺伐としておる。」
よくある異世界トリップファンタジーですね。これは俺tueeee出来るのでは?まぁしないけどね。
「しないと言うより出来ないかの?あちらの神の加護もないし、ワシからの加護もつけんからの」
あぁ結構ドギツイ系のやつですか。
「そうでもあるし努力次第では最強とかにもなれるかもしれんの?」
チートはあげれないけど最強になれる。これいかに?
「人種本来の性能で行けば全ての魔法を使える。鍛えれば鍛えるほど限界なく強くなれるんじゃよ。」
ほう!それはチートでないですか!
「ただのぉ。最初が普通の人の二分の一程度にしか生命力がない、それは体の丈夫さやその他諸々も二分の一じゃ。神が意図しないモノが生まれてきても自然と死んでしまうようになっとるのが全ての世界の法則じゃな。」
そうですかそうですか!では程々に鍛えて頑張ればいいじゃないですか!ん?それってよく考えてみればそっちに行ったら死ぬ確率高くないか?
「そういうことじゃな」
「「 …… 」」
ダメじゃん!
「そこでじゃ。最初に降ろされる場所を決めれる様にとりはかろう。あと回収した荷物も使える様にしよう、これでどうじゃろう?」
それでも死ぬな絶対に。
「なら「異世界ガイドブック」と「ミジンコでもわかる魔法入門」もセットじゃ!」
お得なのか?絶対とくじゃないだろうな
「それだけあれば生きていけますか?」
「君次第じゃ!」
「「......。」」
何が俺次第なんだろな...それなりに強くならないと持って行った物も奪われるし。最初の場所だけは決めれるみたいだからな。修行できそうな所に飛ばしてもらおうかな?あと盗賊とかが居ない場所...
「いい場所があるぞ!そこに送ろう!」
おう決まってしまったみたいだ。もういいや、なる様になれ...
そこからは異世界の説明が延々と続き全てが覚えられるはずも無く、困ったら異世界ガイドブックに頼ると言う事で話が進んだ。
「送ってしまったらしばらく取り出せなくなるものもあるじゃろぅ。手で持ってくモノを選んでしまってくれるかの?」
「わかりました…」
とりあえず、登山セットに着替えや替えのブーツ、ナイフや食料を詰めれるだけ詰めた。リュックだけでは足りないのでキャリーバックも使う。
「大量にもってくのぅ」
「正直何があるかもわからないので」
当たり前である。あれやこれやで詰め込んだものも最悪捨てても問題無い。殺伐とした世界なら生きるか死ぬかなのだから。
「他に聞いときたいことはあるかの?」
「特には、結局あれやこれや考えても纏まらないですし。ここに長くはいられないでしょう?」
そうなのだ、さっきから体が透けてきている。
「普通ならもう消えとる。余程元々の運命が強かったのじゃろ。そろそろ時間じゃろうな。…そうじゃ!抜けとったわい!肉体は再構成される!多分自分の全盛期に合わせられるはずじゃ!ではよい人生を」
最後にそれかい…まぁあんま関係ないか…異世界生活頑張りますか。