12話
「さて、行きますか。」
現時刻6:00いつの間にか雪もなくなり暖かくなり始めている。今日からの予定はとりあえず距離を詰める事に主をおいている。どんどん進めてゲートで戻り、朝はまたその続きで距離を伸ばして行くつもりだ。
境界線外で一番北側の離れた場所にゲートを開く。離れているとは言っても25km程、進んでないに等しい。
魔力量も増えているため半径50m以内に常時索敵をかけながら気力で強化した体で走る。
多分短距離選手ぐらいのスピードだろうか。この調子で行けば一日400kmは進めるだろう。
「結構なんとかなるもんだなぁ」
周囲の状況が流れるように変わる中、通行の邪魔になる魔物だけ殺して先に進む。
走り始めてから二時間、湖が見えてきた。
「デケー」
端が見えないほどの湖があり最初からあることがわかっていなけば海と間違えただろう。
ここで一回休憩かな。
異空間からホーンラビットの串を取り出し塩を振って魔法で焼く。
魔力の減りも体力も減りも問題なさそうだ。
タカユキ(ヒューマン)16歳
LV185
HP233700/246000
MP603250/635000
スキル なし
称号 見放されし者
最近は泉の水では回復量がたりなくなってきており、水晶からわざわざとってきている。回復薬が存在するかはわからないが、この「命の水」はなくてはならないものになっている。
今日も大量に持ってきているので回復には事欠かない。
昼食もそうそうに切り上げまた走り始める。
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今日で走り始めて8日目だいぶ北上してきていたが、現在は海に向かうため西を目指している。始めた当初はかなり暖かくなってきたと思っていたが、北上するにつれて気温が下がってきた。当初の予定を変更し大陸西側の海に沿って行動することに変更、現在に至る。
1~4日目までは全く問題なく進んで来ていたが北上すればするほど魔物が強くなっているようで、個々でも一撃では死なないのに群れで来ることもある為進める距離が日に日に落ちていっている。
「さすがにこれではまずいなぁ」
かなり頑張ってはいるが。実際問題頑張ったからどうこうなるものでもなかった。
...ビュンッ!...
「おワッ!」
またかよクソっ!
索敵に引っかからない距離からオークメイジがウォーターボルトを放ってきた。
索敵魔法を一時的に広げ、敵の場所を特定、すぐに反撃の魔法を放つ。
「死ね!」
...ヒュンッ...
「グチャッ!」
前より多めに魔力をこめ、大きさを倍にした弾丸で仕留める。
こんなに遭遇していたら魔力がいくらあっても足りない。
弾丸や強めの爆破魔法でも死なないオーガやオークも出てきており、この前出あったトロールなどは縮小化したとは言え強力なハイドロボムを打ち込まないと死ななかった。この状態が長く続けば逃げ道は確保出来ているものの、かなり危険な賭け状態となっていく。
とりあえず海まで出たら一度中断しよう。
そう思いながら、走り続ける。
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海まで進路を変更してから4日、合計12日間かけ見える位置まで来た。
「あともう少し...」
海に到着すれば今日はもう終了。海よりも少し高く高低差があるため速度も上げやすかった。
あと30分ほどかな。昼何食べるか考えとかないとなぁ
そんなことを考えながら速度を上げる。
「ん?新手かな。」
多分あと少しなのだろう森の切れ目に差し掛かった時だった。
人か?にしては色が青いな。
遠目ではわからないので、一度止まり、目に魔力を集中させながら相手を伺う。
あれはサハギンって奴か?とりあえず目が赤いから警戒しながら近づくか。
10人はいる。目への集中を切り武器の位置を確かめ、いつでも戦闘が出来るようにしておく。
友好的であれば是非話してみたい。言葉は通じなくてもなんとかなるだろう。
...ジャリ...ジャリ...ジャリ...
サハギン達はこちらに気付いたようで一斉に武器を構える。
森から手を上に上げながらゆっくりと出ていき、友好的である事をアピールしようと無駄にスマイルを作りながら近づく。
「すみません、危害を加えるつもりはありませんのでお話しませんか?」
...「ギョギギー!」...
...ビュッン!...ザシュッ...
北欧かどっかの神話のポセイドンが持っていそな槍が飛んでくる。
「おわっ!」
まだわからない、もしかしたら気が立っているのかもしれない。周りは反応していないしここはゆっくり時間をかけながら...
槍は足元を掠めていった。よけなければあたっていただろう。しかしここは我慢することにする。
人型であり鱗と顔は頂けないが、今まで見た中では一番人に近かったからだろう。これぐらいではこちらから攻撃するまでもない。
「「「「ギョギャギャギャギャ!」」」」
またスマイルに顔を作り直し。槍に行っていた目線をサハギン達に戻すと襲いかかって来ていた。
「人の形とってんじゃねー!」
紛れも無く純粋な心の声だった。そのあとはナタを手にとり切って切って切りまくった。
「人に会いたい...」
横断する事を決めてかなり思考がそっちにもっていかれていたが、サハギン達で再燃。殺し尽くしたあとは人恋しくなった。
こいつら燃やして帰るか...
魔石の有無など確認せずに全て燃やし尽くしゲートを開いた。
帰ってから昼食を取り、採れたて絞りたてのフルーツジュースを飲みながら椅子で休憩している。
サハギン達にはがっかりさせられたなぁ。まぁ結局は魔物だったんだろう。そんなことよりも横断工程もかなり厳しくなってきているな...やはりここで中断しておくか?
頭の中でマップを開く異世界ガイドブックの機能である。なかなかに優秀であり、自分の移動した場所に点が動くため、どこに向かっているかどこに今いるのかまでかなりわかり易い。
12日間で移動した距離だけで計算しても3ヶ月近くかかる。強力な魔物などを勘定に入れていなことを考えればもっとかかってもおかしくなく、死亡のリスクもかなり上がるといえた。
空飛んでいけたらなぁ
以前魔法を研究していた時に空を飛べないか実験してみた事があった。
最初は体が軽くなり「成功だ!」と喜んだのだが魔力消費も大きいためすぐに降下しようとした。普通に考えれば自転の遠心力がかかっているのだから降りられるわけもなく、魔法を消したときには30m程の高さから落下することになった。
その時のビビりが未だに残っているため研究できずにいる。
現在のレベルが200ジャスト...どこまで上がるかわからんけど、今は上げて強くなっていくしかないかな...
大陸横断と結婚妥協案を頭の中で決定し、自分しか居ない家の中に寂しさを感じながらため息をはいた。
「はぁー...」
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数日経ち、気持ちのリセットを行なってからまたダンジョンに向かった。
目の前にはB14階層のボス部屋の扉がある。
「だいぶ豪華になってきたな。」
今ままでのボス部屋より明らかに綺麗な扉になっており、飾り細工も付けられていた。
階層はボス部屋だけになっておりすぐに到着することが出来たが、この扉の豪華さに不安がつのる。
「行くしかないか...」
気合を入れ、扉を開く。
...ゴ.ゴゴゴゴゴォォォ....
だいぶ重厚な扉であった。こんな重厚な扉の中にいるボスなど、ろくな奴じゃないと不安が強くなる。
中には入り扉が閉まるといつものように光が部屋の中央に集まっていく。
いつもより長いな
そう思いながら光を眺めている。光はどんどん集まっていきやがて三メートル近くの黒光りする蜘蛛になった。
「ヒィィイ!」
他の昆虫系よりも強いことを主張する黒光りボディ!口元は硬いものでもなんのその、カチカチなる牙!何故かお尻から、登場すぐ糸を後方へ飛ばしている。
「ハイドロボム!」
激しい轟音と熱風が辺りを包む!
やったか!?
そう思いながらあまり近づきたくなく、砂煙が落ち着くのを待つ。
...ズリズリ...ズリズリ...
黒光りボディは幾分汚れてはいるものの、ダメージはないように見える。
今度こそ!
そう言いながらかなりの魔力を使い砲弾ほどの大きさに弾丸魔法を圧縮していく。
行け!
...グぅォン!...ズゥーン...
蜘蛛に着弾するかと思ったが蜘蛛は糸を巻き取り後方へ飛んでった後だった。
あまりこの魔物は関わりたくないと思い、気力で身体強化を行い、服の外側に魔力障壁を展開。どんどん奪われる魔力に気力。そんなことは関係ないと強力な魔法を念じる。
そんな行動に反応してか、魔力の高まりに反応してかはわからないが蜘蛛がこちらに糸を放ってくる。
お腹辺に張り付いた糸はかなりの強度でくっついているのだろう、そのまま体が宙を浮き蜘蛛の方に巻き取られる。
「ヒイイィー!」
魔法の準備を終わらせ高威力の魔法を使用する。
核融合!
左手を相手にかざしながらそう念じると辺り一面がもの凄い光に包まれる。
......ズゥゥゥゥン...ゴゴゴォォォォ...
光の後には体が千切そうになる衝撃波と大地を揺るがす振動。
範囲はこの部屋に合うように極小の融合反応であったが、それでも熱風と衝撃波の嵐で意識を失いそうになる。
ヤバい...結構やりすぎた。
外で行なった時は熱量も衝撃波もそこまで強いものではなく。極小と言えるぐらいに小さいものであったはずだが、かなり頑丈に出来た部屋なんだろう熱も衝撃も逃げる場所がなく増幅しているのが分かる。
残った魔力と気力を全開にしステータスを見ながら収まるのを待つ。
あらかた収まってから命の水を取り出し大量に飲んだ。
あれだけあったHPもMPも1万を切った状態になったためである。
やっぱ魔法は異常だな。
以前使った時は自分に被害が及ばないようにかなり離れた地点で実験を行なったため、魔力障壁や身体強化などは行わなかった。それはかなりのMPを消費する魔法であったためである。
もともと核融合爆弾並みの火力と衝撃波だけが欲しいと思い開発し、理論的ではなくイメージだけに頼りきった魔法であったため魔力消費が異常に大きいのだ。
現実的に考えて放射能の出ない限定的な爆発を起こす核融合爆弾など、爆発させる為に途方もないエネルギーがかかるため不可能である。
自分の状態が落ち着き、すぐに蜘蛛のいた方向に目を向ける。
「死んでくれてありがとうございます」
部屋の隅々まで確認してみたが蜘蛛は跡形もなく消し炭になったようだ。
元々素材云々はいらなかったのであまり気にしないようにする。
あの黒光りに攻撃する手段が現状は魔法しかないからなぁ...素材が欲しいことは欲しいけど...
消し炭になった灰が残っている場所に近づくと、灰ではなく玉になった糸が落ちていた。
そういえば...
自分の腹部にもあの蜘蛛が出した糸が残っていた。壁の方にも一本垂れ下がっており、あの熱で燃えてないのが不自然であった。
体の中で生成していた分はまだ納得出来るけど、外にあったモノまで残るってことは...最高の素材じゃないか!
こう言う時は切り替えが早くなるのかすぐに回収。昆虫系の素材への忌避感などなかったかのように大事そうに糸を眺める。
「ぐふふふふ...」
これで最高のコートかジャケットを作ってやる。
前回の横断で寒い地域を行く必要があることを再確認したため、防御能力の高いアウターが欲しくなっていた。
階段を降りるのは明日以降に回し、いい気分のまま帰ることにする。