8話
今日もいい天気だ、雨の頻度は3日1回ぐらで安定している。気温は多分冬に向かっているのだろう…最近急激に寒くなっているようだ。家を完成させていなければかなりしんどい事になっていたと思うし、魔法がここまで応用の利くものであったのが何よりもの救いだ。
前回の素材採取で集めたモノの中には保存ができる木の実なども多く、冬を超えるための準備も必然的に必要になってきている。塩が入手出来るようになってからは肉の塩付けなどもするようになったが、これにも保存の為の壺作り等が必要になり持ってきた登山用のリュックはもうグチャグチャになってしまっている。
さて、そろそろ行きますか。
時計を見ると午前5時、この半年の間に分かった事の一つとして時計の時間が正確であることがあげられる。このような世界において時間を知れることはとても重要な事に思える。日の出はともかく日の入り時間をだいたいでも把握していないと遠出が出来ないからだ。夜に一度だけ境界線を越えた事があったが、いつもは簡単に殺せるゴブが弾丸の魔法一発じゃ死ななくなる。直接の原因はわからないが再生能力が上がっているようだ。
ダンジョンを進んでいく。中はこの前と変わらず暗くはない。最悪、目に魔力を集中して視力を強化しようかと思っていたがその必要はなさそうだ。
注意深く足を進めていく。
入口からもうかなり進んだが延々真っ直ぐである。もしかしたら最初の矢だけがトラップかと思い少し速度を上げる。
...ガッコッン!...
「あぶねー...」
床が抜けたがなんとかヘリに捕まり事なきを得る。
底が見えない落とし穴であった。
「印付けとくか」
必要になるだろうと思い、金属の細い棒を結構な数持ってきている。最初の頃とは体力が段違いであり、大きなお手製皮リュックには100kg近い荷物を入れている。
時計では30分たった頃やっと次の階段に辿り着いた。迷うことなく降りることにする。
「次は洞窟って感じかな?」
先程までは石の回廊という感じであり、今回は大きめの洞窟と言う感じである。天井の高さは4、5mはあり道の幅も同じぐらいの大きさである。ここも前の階と同じように暗くはない。壁が薄ぼんやりと発光しているようだった。
「ゲギャゲギャ!」
ゴブはいつも元気だ。豚野郎も元気だがあいつらは奇襲してこようとする。ゴブのようにもっと元気よく正面から来て欲しいものだ。
「お疲れゴブ!」
そう言って魔法を打ち込む。
…ヒュン!…バキ!
「ゲギャギャギャ!」
弾丸の魔法が皮膚に弾かれた。さすがにマズイと思い後退する。
「やるなゴブ!」
近づいて来るゴブに魔力を纏わせた特製サバイバルナイフを打ち込む。
「うおぃりゃ!」
脳天から股間まで真っ二つになった。外の魔物でも試したが、普通でもかなり切れる。魔力を纏わせれば熱したナイフでバターを切るように大木を切ることが出来た。その為か今回は慌てずに対応することが出来たのである。
「明るいけど夜の森を歩く感じかな」
もうちょい慎重に進むか。
そんな事を考えながら先へ進む。
結局この階層ではゴブしか出ず、上位種すら見当たらなかった。B2階層自体があまり大きくないようで3時間程で回ることが出来た。
「マップも書いとくか」
マップを書きながら次に進むか考える。
朝と比べてどれくらいレベルが上がったも考慮にいれよう。
そう思いステータスを頭の中で意識する。
タカユキ(ヒューマン)16歳
LV62
HP11070/13600
MP22300/24600
スキル なし
称号 見放されし者
「だいぶ上がったな」
このダンジョンに入る前に確認したときはレベル56だったのが、この短時間で6も上昇していた。
「行けるな」
かなり調子はいいしこのまま進むこととする。ただ最近疑問を持つことも多く、異世界の人間はこんな過酷な環境と隣合せで生きているのかと思う事がある。
これなら人の生活圏が広がっていないのもうなずけるな。
これだけ強い魔物が徘徊するする世界でどのように人々は生活しているのか疑問に思うのも無理はなく、最近全く見ていなかった「異世界ガイドブック」を帰ったら読もうかなと思うのであった。
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そのまま順調に歩を進める事が出来き、現在B4階層まで降りてきている。トラップがあったのはB1階層だけでありその他の階層では全く見受けられなかったのが歩を進めた大きな要因である。B3,4階層の魔物は基本ゴブリンとオークであり時々ホーンラビットやケーブバットと遭遇するぐらいであり、ゴブリンやオークの上位種はいなかった。
今はどう見ても通過しなければならないやばそうな扉の前で考え事をしている。
時間的にも危険性から見ても帰る方がいい。でもな~扉の中がすごく気になる。ちょっと中を覗いて帰る方がいいか、何もせずに帰る方がいいか。
結局、好奇心に負けて扉の中を覗いた。
「あれ?何もないな?」
そう思い足を中に一歩踏み入れると。
「うおっ!」
外側から猛烈な風が室内に入って来て同時に体も引っ張られてしまう。流されるまま部屋に入ってしまい扉は閉まった。
「これはあれだな。ボス戦ってやつかな。」
なんかこうBGM的なものがあるといいな。
なんやかんやで慎重に行動するようにしているものの。最近はどうしようもない時は慌てない事にしている。
そうこうしているうちに部屋の真ん中に光が集まり始める。
...ズゥンンン...
「フゴーー!」
いつもの二倍近い大きさの黒光りするオークが現れた。右手には重そうなロングソードを持っている。
「黒いな」
外の境界線外でも時々見てけたブラック系魔物は、間違いなく通常より強くこれはオークの上位種が黒くなったように感じた。
今までの余裕が少しなくなり。サバイバルナイフを構える。
オークがニヤリと笑ったかと思うと、信じられないスピードでこちらに向かってきた。
「ッッッ!!!」
...ガキンッ...
オークの振るったロングソードを咄嗟に構えたナイフでいなしたが。勢いを殺し切れずに飛ばされる。
...ズザザザザー...
すぐに立ち上がりナイフを構えるが、オークは攻撃してこずニヤニヤしながらこちらを見ている。
これはあれかな?いつでも殺せますよーってことかな?
久しぶりに向けられた挑発に怒ることはせず冷静に観察する。
多分外の魔獣に効く魔法は通用しないだろうし。今瞬間で起こせる魔法は強すぎるか弱すぎるものしかないな。
八方手詰まり状態で思考していると、またオークがこちらに向かってきた。
「フガァッ!」
上段からからの切り落としをナイフでそらしながら体を捻る。
一撃目はかわせたが横に振り抜かれた二撃目はかわせずまた弾き飛ばされる。
このままじゃジリ貧だ!こちらから仕掛けないと!
すぐに立ち上がり身体強化とナイフに魔力を流す。
「フッ」
オークに接近し右手にナイフをあてる。
...ガンッ!...
どんだけ硬いんだ!
あたったナイフは金属を叩いたような感触で効いてるようにはまったく感じなかった。
まずい!まずい!まずい!冷静に冷静に
頭が混乱してきている。考えがまとまらず次にどう動くかの判断が送れる。
...ズブッ...
「ァァアー!...」
太ももにロングソードが刺さった。オークは嬲り殺しにするのが楽しいのかご機嫌にニヤニヤしている。
「ツッア、コノヤロウ!」
咄嗟に失敗魔法である乾燥魔法をオークにかけた。
「フゴー!フゴー!」
オークはロングソードを手放し暴れながら交代する。
ロングソードを無理やり抜き、すぐに腰から水筒を取り出し。口に水を含む。
イメージは相手の体の中が焼ける感じを、脂肪に火が付き燃える燃える燃える燃える。
痛みでスッキリした頭でイメージを鮮明化しながら魔力を練る。
もっともっともっと、もっと魔力を。
自分の体の中心にある魔力が、血液を通して体の中を高速で駆け巡りナイフの先端に収束していく。
「いけッ!」
なんの理論的なものも無くただイメージをのせただけの魔力を未だに暴れているオークに放つ。
着弾と同時に、オークの動きがとまった。
...ボコ、ボコボコボコ...パンッ!...
どこぞの秘孔を突かれた雑魚の如く、オークは急激に膨らみはじけ飛んだ。
「お、終わったー」
爆発をイメージしたわけではないが、内側の脂肪が燃えることで急激に内圧が上がり弾けたようである。飛び散った肉片には火がまだ燻っていることからもわかる。
今回も本当は多分死んでただろうな。運がいいのか悪いのか...
今のは実際どれくらいMP消費したんだ?
「ステータス...」
タカユキ(ヒューマン)16歳
LV86
HP12700/18900
MP1680/25000
スキル なし
称号 見放されし者
2万近くも使ったなら発動してもおかしくないな。本当に魔力は万能だな...まぁだからこそ過信や余裕が生まれるんだけども...しっかし今日一日だけでかなりレベルが上がったな。MP上昇限界値の底上げもされているはずだから。一週間ほどはそっちに時間を割こう。今日は帰りたい。
次の階層は確認せず、オークの残骸を回収して帰路についた。
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帰りは多少強くなっているだけの魔物を蹴散らしながら帰るだけであり、1時間ちょっとの時間しか掛からなかった。
「ただいま...」
これからどうするか...ダンジョンは確かに経験値稼ぎにはいい場所だ。しかしあのブラックはまずい。これから先も絶対に遭遇するだろうし、その場合は確実に戦闘になる。体術やナイフを使った戦闘の特訓も必要だが、攻撃魔法の次のバージョンも必要だろう。回収してきた残骸を資料に少し研究するか。
そんな事を考えながら今日も日が沈んでいく。




