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12月24日 ④

どうやら私が想像する神と、実際の神の間には大きな隔たりがあるらしい。まず神というものは全知全能な訳ではない。我々人間と同じように得意なことや苦手なことがあり、性格も聖人のように穏やかという訳ではなく、喜怒哀楽が激しいようだ。しかも、へたな人間よりも感情が豊かな上に持っている力が桁外れな為に、人間界に迷惑をかけてしまうこともしばしばあるとか。この前この地域を襲ったいわゆるゲリラ豪雨も、神の間の親子ゲンカが原因だそうだ。

……最早神か悪魔か区別がつかない。

日本に古来から根付く八百万の神という思想は概ね合っているらしく、古くからある土地や建物はもちろん、年季の入った家具にも神が宿るそうだ。東北地方に伝わる座敷童子の伝説も、古い旅館に宿った神が、まさしく今のシナと同じように少女の姿で人間の前に姿を現して人々をからかっていた、というのが真相のようだ。

「だいたい君達は、僕ら神が何でも願いを叶えてくれる万能な存在だと勘違いしすぎなんだ。有名な神社とかだと一日に何百人もの人が願いを叶えてもらえるようにお祈りに来るけど、ひとつの神社にいる神様は一人しかいないからね、そう沢山の願いを叶えられるわけないじゃないか」

シナはそうぼやいていた。確かに、初詣とかに行っても、こんなに沢山の人の願いを叶えることができるのだろうか、と疑問に思ったことは多々ある。

「でも、人間が神社とかでお祈りする時に、別に本気で神様に叶えてもらいたいって思っている人は少ないと思うぞ。俺も含めて大体の人は、神様の前で自分の夢や目標を宣言する、って意味の方が強いんじゃないか。で、それを神様が叶えてくれたらラッキー程度にしか考えていないぜ」

「ほう、君達人間は、そういう考えで我々の所にお参りに来るのか。やっぱり積極的に人間に関わらないと分からないことも多いなあ」

シナの目は、興味深いものを見つけた時の子供のそれと同じくらい輝いていた。

「ま、あくまで俺の意見だけどな。一般論かどうかは保障しかねる」

「いや、我々にとって顧客である君の意見はとても貴重だよ。だって、昔からこういうだろう?

『お客様は神様だ』って」

なるほど、神様にとっての神様が人間というわけか。……訳がわからなくなってきた。

「で、僕も出雲神様組合に所属するれっきとした神様なんだ。証明書も、ほらこうしてちゃんとある」

紋所をを取り出す時の水戸黄門一行のように誇らしげに、お札のようなものを私に見せつけてきた。

「なんだこりゃ」

私は相馬からひょいと取り上げ、怪しげな札を観察する。

「あ、こりゃ、君、神様の身分証明書でもあるそれをそんなに粗末に扱うんじゃない!返しなさい」

そう言って取り返そうとしてくるが、俺が札を持っている手を上げると、身長の問題で届かなくなり、シナは兎のようにぴょんぴょん飛び跳ねざるを得なくなる。

「こりゃ、こりゃ、か、え、せ!」

手を限界まで伸ばして札を奪還戦と目論むちびっ子神様のさらに上に札を持ち上げ、彼女を弄ぶ。今猫じゃらしに飛びつく猫のように跳躍しているシナは神様でも何でもなく、容姿相応の年齢の女の子にしか見えなかった。そして、この子に癒されている私も確かにそこに居た。

札を取り返そうとするシナの頭を左手で軽く押さえつけて、右手で持っていた札をじっくり観察してみる。表面にも裏面にも赤色を下地として白文字で解読出来ない形像文字のようなものが書かれていた。

「シナ、これなんて読むんだ?」

「人間には理解できないよ、僕の名前と神の中での役職が書かれているのさ」

「ふーん」

特に面白いこともなかったので、札をシナに返却する。シナは札を受け取ると、埃や傷がついていないかどうか入念にチェックしたあと、懐に戻した。

「それでね、本題はこれから。僕はさっきいたあの神社の神様なんだけど、あの神社、もう寂れすぎているから上の方から戻ってくるように言われたんだ」

先程までの元気の良さはどこかへ消えていったようで、今のシナは少し寂しそうだ。

「戻ってくるって?」

「誰からも忘れ去られてしまった寂しい場所に神様がいても仕方ないだろう?出雲神様組合の首脳陣が、あの神社に神様は必要ない、と判断されたんだよ。上からの命令は絶対さ、僕も年明けには出雲に戻らないといけない」

確かにあの神社は管理もされていないようで、参拝客も殆どいなかったはずだ。そう判断されても仕方がない。

「そうか、年明けには戻らなきゃいけない……って、あと一週間じゃないか」

「そうだよ、厳密に言えば大晦日までしかここにいられない。この事情を理解してもらった上で」

シナは口調を改め、真剣な表情でこちらを見つめる。

「ここでの最後の思い出に、人間の生活を体験したいんだ。ここの地域の人が、どんなことを考えて、どんな風に生きているのかを知りたい。だから、僕を一週間ホームスティさせて下さい」



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