ブラッティーリリー
「何にも見えない…なにも。」
大きな瞳の収まっていた二つの空洞に自らの声が木霊する。
「まっ…さん。…痛いよっ。」
~ 1時間前~
「大人軍の生物兵器がこちらに向かっているとの情報を得た!我々の任務はこの壁の中にそいつを入れないことだっ!!」
防衛戦総隊長、将一の声が飛ぶ。壁の前に集まった100名の隊員の鼓膜を揺らす怒号がわく。
「それでは壁の外に向かう!各隊長に従って行動せよ!敬礼っ!!!」
殺気だった空気が廃材を熱する。将一から発せられる何かが全てに伝染する。
そんななか誰かの声がぽつりと堕ちた。
「…空っ?」
瞬間の爆音。地面が口を開く、呑み込まれた者からの鉄の臭いが立ち込め静寂が流れる。
「「「キャァァッッ!!!」」」
甲高い金切り声によって止まっていたフォンと将一の思考が戻る。
状況を理解したフォンは間抜けな声をあげる。
「…少女??」
真っ白なドレスに身を包んだ美しい少女。フォンは固まってしまった。
少女に見とれていたのではない、その光景に再び思考が止まる。
「や、やめてぐりぇっ!!」
自隊の青年が腹を裂かれている。その血を浴びてうっとりした目をこちらに向ける少女。
「美味しい…」
真っ赤な唇が裂けて笑った。