普通の男はある日普通に死ぬ
ただ書いただけ
拳銃をつきつけられた主人公はいつも誰かに助けられるかもしれない。刀を突きつけられたなら、きっと刀が主人公を突き通すことはまずないだろう。しかし、そんな奇跡的な生還劇は物語の世界だけだろう。
だから、かく言う私の状況もまた物語の主人公に見劣りしないほどの非現実的な危機に見舞われている。ちなみに私は主人公でも何でもないので助かるはずもない。
目の前にいるのは二人のゴリゴリマッチョな黒光りするおっさんである。二人とも顔には変な布、いや、パンツかもしれない。そして、上半身は裸で下はパッツパツのホットパンツのみ、一人は右手にデザートイーグルをもう一人は右手に日本刀、左手に皮の盾を持っている。ここは郵便局、普通に考えれば強盗であろうが、この珍妙な衣装はいささか目立ちすぎるのではないだろうか? そして、現代の日本で皮の盾はどういう意義を成しえるのかほとほと疑問である。そして、現在私の置かれている現状を説明すると、私はこのゴリゴリな二人に羽交い絞めにされ、デザートイーグルと日本刀を突き付けられているのである。
「フゥーー、フゥーー、はんやく金貨を出すんだべ!」
デザートイーグルを持ったおっさんが怒号を放つ。郵便局で金貨を求める事自体意味不明である。あと、息が非常に荒い。
「はんやく出せよーー! だねぇとこいつ殺すべ! フゥーー、フゥーー」
もう一人の方も怒号を放つ。二人とも滑舌も悪くどこの方言かさえわからない。そして、二人ともどうしてこんなに息が荒いのだろうか?
「あの……、郵便局には金貨はないと思いますよ……」
私は意を決して、言葉に詰まりながらも突っ込んでしまった。どうしてこの時の私は勇気に満ちていたのだろうか。いつもの私ならばきっとしゃべることも抵抗することもできなかったであろう。もしかしたら、小便だって漏らしてしまっていたかもしれない。いつも臆病な私がその時はひどく冷静であった。
パンッ!
その時、私はデザートイーグルで頭を撃ち抜かれたのである。やはり私は主人公ではなかった。
思えば私は主人公というものに憧れていたのだと今になって思った。誰かと違う存在になりたい、特別になりたい。そんな欲望をしっかりと自覚したのが死ぬ瞬間だとは余りにも間抜けだ。こんなになるとわかっていたなら私も変われたかもしれない。しかしもう全てが遅すぎる。ああ、叶うのならあの頃に戻りたい。そう思いながら私の人生は幕を閉じた。
後日、男の葬儀は慎ましやかに執り行われた。生まれ変わりなどあるわけがない。この話はただひとりの男が死んだだけ。ただそれだけの話である。




