1
20××年 9月×日 火曜日 午前9時17分 晴れ
本当に9月下旬なのかと疑うくらいの猛暑日がずっと東京では続いている。
夏休みもとうに終わり、休み明けで少しダラけ気味だったサラリーマンたちも今では、気温37度を超える東京の高層ビルジャングルを社畜の如く駆け回っている。
ご苦労なことだなあ、とその高層ビルの中腹にある一室から見ている人間がいた。
俺だ。
どうせ金持ちのドラ息子が働きもせず親の金でのうのうと暮らしているんだろう、まったくいいご身分ですねと近所からは思われているかもしれない。
しかし事実は違う。
実家は米と自分の家で食べる分の野菜を作っているだけの普通の農家だ。とてもじゃないが東京のど真ん中にある高層マンションにバカ息子を置いておけるだけの収入はない。
このマンションには自分で稼いだお金で住んでいる。
別に火曜日が休みの会社で働いているというわけでもなく、やばい薬をホイホイ横流しにするファンタスティックな夜の仕事をしているわけでもない。
一年前に会社を辞めたのだ。今は働いていた時の貯金でこのマンションに住んでいる。
俺が一年前まで働いていた会社は老若男女誰しもが名前ぐらいは知っている、いわゆる一流企業だった。
その一流企業に3流大卒にもかかわらず、なぜか入社してしまった俺は一年前までまさに社畜の如く東京ジャングルを駆け回っていたのだった。
もともとの人当たりの良い性格なのからか、どうせ運で入れた会社だしどうにでもなれ!的な精神からかはわからないが先輩やかなり目上の上司にも好かれ、同期のなかでは一番早くに出世した。親も同期の奴らも一緒になって俺の出世を喜んでくれた。
俺は他人からみたら非の打ち所がない順風満帆な人生を謳歌していたのだった。
しかし、ある日突然俺は会社を辞めた。辞表をLINEで部長に送った時、焦っていたのだろう部長から既読後すぐにきた「て、なまやて」という訳のわからないコメントを今でもスクリーンショットで残している。
その後、会社に無理矢理に連れてこられLINEで辞表を出した事よりも会社を辞めると言った理由について詰問、説得された。俺が会社でどれだけ必要とされていたのかがわかる。しかし俺は部長の必死の説得も虚しくその日、会社を辞めたのだった。
なんで会社を辞めたのか?あんなに上手く行っていたのに、俺が会社を辞めてから何百回、何千回とされてきた質問だ。内心、会社に嫌気がさしていただとか、実は企業を考えているだとかそんな事は一つもない。では、なぜ辞めたのか?
ーーーーなんとなく。
その日いつものの事のように7時に起きて、顔を洗い、朝食用に買い置きしてあるソイジョイを食べながら外へでた。その瞬間、俺は会社を辞めようと決心したのだ。それだけだ。深い理由などない。
決心した次の瞬間にはもう携帯で辞表を書き、部長に送信していた。自分でも何をしているのかわからなかったが、それが正しくない事だとは一つも思わなかった。むしろもう会社にいかなくても良い事を心地よく感じウキウキ気分で部屋にもう一度入り、二度寝を始めたのだった。
そして今日も俺は高いところから働き回る社会人をぼーと見つめた後、二度寝を始めた。
会社を突然辞めて一年立つというのに俺は何も進んじゃいない。
また、二度寝をしただけだった。
あの日の用に。
Zzz