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新聞部部長という人

「あ、ごめんなさい。」


衿香が鼻を押さえてぺこりと頭を下げた。

そのまま彼の横を通り抜けて立ち去ろうとした時。


「おっと。逃げるのはなしだよ。神田衿香くん。」


いつの間にか現れた城ヶ崎ががっしりと衿香の腕を捕えていた。


「あ、はは。逃げるだなんて。ちょっと用事を思い出しただけです。」


引きつった笑顔を浮かべる衿香は、問答無用で部室に引っ張り込まれた。

部室の中は酷い有様だった。

紙紙紙の山。

ここは新聞部なのだから仕方ないのかも知れないが、それにしても酷い。


「まずはこっちへどうぞ。」


城ヶ崎に案内されて、長身の男子と共に奥の部屋に通される。

応接セットが置かれた部屋は整然としており、さっきの部屋とは大違いだ。

玄関で見たレトロな様式の装飾がそこかしこに施されている。

座り心地の良いソファーに腰を下ろすと、城ヶ崎がコーヒーでいい?と言いながら、コーヒーメーカーをセットした。

コーヒーの良い香りがする中、城ヶ崎が衿香たちの前のソファーに腰を下ろす。


「さて、僕の名前は知ってるね。部長の城ヶ崎だ。」


衿香の前に座る城ヶ崎は昨日と同じ温和な笑みを浮かべている。

さっきの、空耳?

いや、自分を信じるのよ、衿香。現実から目を逸らせたら負けよ!!

都合よく記憶修正したがる自分の心に衿香は突っ込みを入れた。

ううう。

チャラいイケメンを天敵のように嫌う衿香にとって、城ヶ崎はかなりの優良物件だったのに。

残念。


「あの、新入生は僕たち二人だけですか?」


衿香が心の声と対話していると、隣に座る男子が質問した。


「いや、他に5名ほどいるよ。見ての通り、新聞部は部員数も少ない。が、それだけにやりがいのある部だ。ぜひ、君たちも新聞部の精鋭として活躍をしてほしい。特に神田衿香くん。新聞部の久しぶりの女子生徒だ。活躍を期待している。」

「・・・はあ。」

「もちろん、君もだ。進藤和也くん。」

「はいっ!!」


がっちり握手をする男たちを横目に衿香はため息をついた。

この部長、新聞を愛しすぎているのね・・・。

目の前で新聞部について熱く語る城ヶ崎の豹変ぶりに、衿香は要注意のマークを張り付けた。


やがて遅れてきた5人の男子たちも混ざり、和気あいあいといままで発行した新聞などに目を通す。


「では、まず君たちに課題を申し渡す。この1週間の間に新聞を作ってほしい。題材は自由。自分についてでもいいし、クラスの誰かについてでもいい。学園の興味のある事なら何でも結構。この新聞部に置いてあるものは自由に使ってもらって構わない。」


え~、できるかなあ、と頬を染めて笑う新入りたち。

甘いのは今だけだと思うよ?

そんな事を考えていた衿香は、一人城ヶ崎に呼ばれた。


「神田くん。君には特別にやってもらいたい事がある。」

「え?新聞は?」

「君は免除だ。」


免除?

なんだか不穏な響きがするのは気のせいか。


「君には、生徒会のインタビューに行ってもらう。」

「な、なぜ私が・・?」

「君、幸田と知り合いなんだろう?」

「いえいえいえ。知り合いと言うほどでは。」

「面白いね。普通、外部入学の女の子は生徒会と知り合いになりたがるのが普通だけど?」

「ふ、普通の定義は人それぞれでして・・・。」

「実はね、今年度の生徒会には学園の歴史上、初めての女子生徒が庶務として名前を連ねているんだ。新聞部は新年度初めて発行する新聞には生徒会メンバーのインタビューを掲載するのが習わしなんだが、この女子だけは男子部員のインタビューは受けないと断られてしまったんだ。」

「はあ。」

「だが、神は我々を見捨てなかった。神田くんが新聞部に入部してくれたおかげで、歴史ある新聞部に泥を塗らなくても済んだんだ。」


ぐぐっと拳を握りしめ、こみ上げる感慨に耽る部長を衿香は冷めた目で見ていた。

なにかと残念な人だ。

勝手に入部扱いにしないでほしいわ。

なんとか逃げられないかと、視線を動かした時、衿香の目が数枚の写真に吸い寄せられた。

あら、素敵な写真。

壁に飾られた写真は風景、人物と色々だったがどれも独特の雰囲気があった。


「おや。神田くんは写真に興味があるのかい?」


衿香の視線を辿った城ヶ崎が尋ねた。


「雰囲気のある写真ですね。」

「以前は写真部があったんだがね、数年前に新聞部と合併になったんだよ。新聞と写真。切り離せない関係だろう?そうそう。インタビューと一緒に朝霧さんの写真も頼めるかな。」

「・・・。」


結局、押しの強い城ヶ崎に見事押しきられた衿香であった。


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