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特殊な血

「お前の母は若い頃、人外化して子供を産んだ。それが俺の父だ」


 母が、人外化?

 想像していたとはいえあまりに衝撃的な事実に衿香は呆然とするしかなかった。


「お前は人外化した人と人間の間に産まれた、特殊な人間だ。人外化の研究をしている者たちにとって、その血は人外化が人にどういう影響を与えるか知るための非常に興味深いものなんだ」

「……特殊?」

「いくら人外化したとしても、出産の与えるダメージは計り知れない。人外化した女はその夫から気を与えられ続けなければ、日常生活を送ることすら難しくなる。人外化した女が人外から離れ、気を与えられることなく人間との間に子を成す、ということは我々からすれば考えられないことなんだ。余程人外化の時に与えられた血が特殊だったのか、それともお前の母が並々ならぬ気力の持ち主だったのか。その血がお前にどういう影響を与えているのか。非常に興味深い」

「……」

「人外化が確立された今でも、人外化には色々な制約がある。人外化は誰にでも適応する訳ではないんだ。学院の生徒がどんどん数を減らしているのは、無理な人外化を禁止しているせいだ。だが、お前の血があれば、人外化の研究は飛躍的に進むと考えている連中がいる。お前が今日襲われたのは、そういう理由からだ」


 母が、人外との間に子供を産んでいた。

 その事実はなかなか衿香に実感をもたらさなかった。

 今まで母にも若い頃があり、歩んできた人生があるのだということすら考えたこともなかった。

 衿香の中では母は生まれた時からずっと、屋敷の離れで長いすに横たわっているというイメージしかなかったのだ。

 どういう経緯で母は人外と愛しあい、その子を産み、父の元へ嫁ぎ、衿香たちを産んだのだろう。

 出雲の存在も忘れ、ぼんやりと考え込む衿香の手を大きな手が包み込む。


「もしお前が血の提供を拒むのなら、無理にとは言わない。多少の不自由は我慢してもらう事になるだろうが、俺が全力でお前を守る」


 視線を上げるとまっすぐ衿香を見つめる出雲の目があった。

 出雲の目に嘘はない。

 きっと出雲は言葉通り、衿香を守ってくれるのだろう。

 『きっと君を守る』

 そう誓い、その言葉通り衿香の意思を尊重してくれた、あの人のように。

 睦月の全てを包み込むような微笑みを思い浮かべ、衿香の心が大きく揺らぐ。

 ここに睦月がいてくれたら。

 彼は何と言うんだろうか。

 人外化した母のことを、その母から生まれた私のことを、どう思うのだろう。

 

 

「俺の話はここまでだ。俺の父が待っている。衿香も聞きたい事があるだろう?」


 衿香の想いを断ち切るように出雲の手に力が入る。

 優しく笑む出雲に手を引かれ、衿香は隣室に招き入れられた。



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