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歴史のお勉強

「まずは学院の生徒会長として謝らせてくれ」


 ソファーにどかりと座った出雲が両膝に手をついてガバリと頭を下げた。

 ケーキの乗ったお皿を手にした衿香は首を傾げる。

 それは理由も言わずに拉致したことへの謝罪なのだろうか。


「お前を襲った四人は学院の者だ。奴らが先走った考えを持っていることを知っていながら、今回の事を防げなかったのは俺の責任だ。恐ろしい目に合わせて済まない」


 そのことか。

 衿香はケーキを上品に口に運びながら考える。

 そういえばお昼がまだだったんだ。

 疲れた体にケーキの甘さが沁み渡る。

 しばらく黙ってケーキに没頭する衿香を出雲は静かに待っていた。

 ケーキを完食した衿香は紅茶を飲んで一息つく。


「その謝罪は受け入れます。ただ、事情を話していただく必要があります」


 まっすぐ出雲の目を見て衿香は言った。


「分かっている。そのつもりで今日は家に来てもらったんだ」


 出雲の家は大きな洋館だったが、想像していたより新しい建物だった。

 衿香が通された客間と思しき部屋には色鮮やかなケーキやクッキー、果物が用意されていた。

 その準備の良さに今回の拉致が計画されたものなのだということが分かる。


「あいつらは学院の中でも強硬派と呼ばれるものたちだ。あいつらの目的はお前の血。その理由の前に、学園と学院の成り立ちから話しておいた方がいい」


 長くなるが、と前置きして出雲は話しだした。


「人外は人外同士で結婚することが普通だった時代がある。だが元々人ほど数が多くなかった我々人外間の結婚はその血をどんどん濃くし、その結果子供、特に女子が生まれにくくなっていった。人外にとって力が全て。力の強いものから順に妻を娶った結果、結婚相手に恵まれなかった人外の男は人の女を娶るしかなかった。人外と人、能力にちがいはあれ姿形にちがいはない。ただ一つちがうのは、人の女との間に己の子孫を残す事はできなかった。人外の子は腹の中で母親の気を糧に育つが人の女はそれに耐えられない。昔から人と人外の間に子供を作ることはタブーとされていたのだ。だが人外の減少に危機感を強めた一部の連中が、人の女に子供を産ませることこそ人外の未来に欠かせない事だと言い始めた。濃くなりすぎた血を、人の血で薄めることが必要だと。彼らはただ単に人外の子を産ませることを目的に、人の女を娶るようになった。だが濃い血は人にとっては毒。ほとんどの女が身ごもったまま命を落とした。が、彼らは諦めなかった。女の中でも生命力の強い者は自分の命と引き換えに赤ん坊を産み落とす事が稀にあったからだ。女が死ねばまたどこからか女を連れてきて子を産ませる。そうやって彼らは少しづつ自らの血を薄めるため、人の女の命を犠牲にし続けた。彼らは己の容姿と財力をエサに、花嫁候補と称して学園に人間の女を受け入れるシステムを考え出した。それが学園の成り立ちだ。我々学院の創設者はその考えに異を唱えた者たちだ。人外と人、能力に差はあれども命の重さにちがいはない。人外の繁栄のため、人の死を利用することが許されるのか。だが我々のことを彼らは単なる純血主義だと結論付けた。人の血で人外の血を薄めることを嫌う、純血のプライドの高い奴らだと」


 睦月も学院のことを純血主義だと言っていた。

 彼らはそう教えられて育ったのだろう。

 衿香も睦月から聞いて、学院にいるのは選民意識の高い純血主義者の集まりなのだと勝手に想像していたのだから。

 歴史の二面性。

 衿香は出雲の話に耳を傾け続けた。


「人の女を犠牲にすることなく、人外の血を後世に残していく。そういう理念の元集まった我々の祖先だが、それは簡単な事ではなかった。年々出生率は下がり、親族間の結婚も増えるようになった。そうなれば益々悪循環だ。人外の女が少なくなれば恋愛対象が人の女になるのは自然の流れだ。その流れを止める事は出来ない。何とか安全に人の女が人外の子を産めないものか。我々の祖先はある研究を始めた。人の女が人外の子を安全に産むための研究。それが人外化計画だった」

「人外化?」

「そう。人の女が人外の子を産むのに最も問題になるのが気を吸い取られる事だ。ならば人の女に気を与えれば良い。研究を重ねた結果、ある特殊な方法で人外の血を与えることにより、人の女は出産に耐えられる体を得られることが分かった。今の学院の生徒は純血と呼ばれる者が多いが、そのほとんどが人外化した人間の母親から産まれているのが現状だ」


 嫌な予感がする。

 衿香の血を欲しがった彼ら。

 自分の血が特殊なのだとしたら……。

 衿香はごくりと唾を飲みこんだ。

 出雲の目がまっすぐに衿香の目を射抜く。


「そうだ。お前の母はただの人ではない。人外化した人間だ」


 本当に驚くと人間は声が出ないらしい。

 衿香は黙って出雲の顔を見つめていた。


 

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