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新聞部というところ

「えりりーん。捕まっちゃったんだって~?」


鬼ごっこ翌日の朝、夏目が開口一番そう言った。

相変わらず情報の早い夏目だ。


「かわいそ~。新聞部だって?あそこの部長、鬼らしいよ~。」

「鬼?」


衿香は鬼、と呼ばれた新聞部部長の顔を思い浮かべる。

イケメンではあったが、温和な雰囲気の彼は衿香の中ではそこそこの評価を得ている。

抱っこだってすぐに降ろしてくれたし。

睦月の行いが行いだけに、紳士的な城ヶ崎は好印象を残した。


「鬼には見えなかったけど?」

「だ~~~。えりりんまで騙されちゃダメだよ~。あのいかにもジェントルマンの顔の下には、鬼編集長の顔が潜んでるんだから~。」

「ふーん。そう。」

「あれ?いやに冷静?」

「だって、仮入部の後は行かなくてもいいんでしょ?」

「そりゃそうだけど・・・。えりりん、何か入りたい部があるの?」

「別に。」

「じゃあ、僕と一緒に情報処理部に入らない?世界の秘密を僕と二人で覗きに行こうよ。」


会話を適当に流していた衿香の眉がピクリと動く。


「夏目くん?まさかあなたの情報って不正行為で得てるんじゃないわよね?」


衿香の視線に夏目が固まった。


「え、え~~。ぼ、僕がそんな、は、犯罪のような事する訳ないでしょー・・。」

「犯罪のような、じゃなくて、ハッキングは立派な犯罪です。」

「あ、え、と、僕そろそろクラブ見学行くね~。えりりん、新聞部がんばって~。」


衿香の視線から逃げるように夏目がぎくしゃくと教室を出ていった。

その右足と右手が一緒に出ていた事には触れないでおこう。

まったくこの学園の男どもは、碌でもないのばっかりね。


鬼ごっこの結果は、残念ながらほぼ全員の一年生が捕獲されるというものになった。

衿香が捕まった後、指示系統が混乱に陥り、上手く情報が行き渡らなかったためと思われる。

それでも集団で行動するのを徹底したおかげか、行方不明者を出さなくて済んだのだから、当初の目的は果たしたと言える。

男子の中には単独で逃げ延びた強者が数名いて、夏目もその中の一人だった。


***


きのう、城ヶ崎から聞いた新聞部の部室は、高等部の西の端にある部室棟の中にあるらしい。

普段一緒に行動している千世と美雨はバレー部に捕まったため、そちらに行くことになっていた。


「なんか、雰囲気あるわね~。」


放課後、衿香はひとり、部室棟の前に立ちその建物を見上げた。

比較的新しい建物の多い高等部で、その建物は類を見ないほど年代物だった。

大正時代を彷彿とさせるレトロモダンな建物は、見方を変えればお洒落とも言える。

衿香が玄関前の階段に足をかけると、ぎいぃぃぃぃぃぃぃっと不気味な音がした。


「壊れないわよね?私、それほど体重ないし・・・。」


不安につい独り言が零れる。

衿香は勇気を振り絞って残りの数段を登りきった。

これまた年代物の凝った装飾のあるガラスのドアをそおっと開けた。


「うわあ。」


父のお供で色々なお屋敷に出入りした事のある衿香だが、思わず声を漏らしてしまった。

ドアの向こうは広々とした吹き抜けの空間で、らせん状の階段がぐるぐると上の階まで伸びている。

ちょうど正面に嵌められたステンドグラスの窓から差した光が、いくつもの傷が付いた木の床に美しい模様を描いていた。


「きれい。」


何のための建物だったのだろうか。

建てられた当時はきっと最先端を誇っていたであろうことが、そこかしこの装飾で見てとれた。


「えっと。新聞部は、3階か。」


衿香は、らせん階段を上って行った。

途中、目に入る部室の名前を見ると、ここは文化部棟らしかった。

弁論部、英会話クラブ、数学部、科学部に哲学部まである。

他にも奥の方に沢山のドアが見えたが、ひとつ言える事はここには男子しかいないという事だった。

女子だ、女子が来た、という囁きがひそやかにこだまする。

なんなのよ、一体。

そう思っているうちに、最上階である3階にたどり着いた。

新聞部は階段を登りきったすぐそこだ。

ドアをノックしようとした衿香は中から聞こえた声に手を止めた。


『・・・どこをどう新聞に載せるのか説明しろ。・・・ああん?ざけるな。俺が1年間教えたのはこんな事だったか?・・・すみませんじゃ済まないんだよ。舐めてんのか?』


なにこれ。

衿香はノックの姿勢で固まった。

聞き覚えのある低音ボイス。

これは城ヶ崎部長の声だ。

昨日の柔らかい微笑みと一致しない凄みのある声。


二重人格?


衿香は無意識のうちに回れ右をしていた。


「ぶ。」


途端に何か固いものに鼻をぶつける。

なにこれ。こんなところに壁なんてあった?


「あ、ごめん。入るのかと思って。」


壁がしゃべったので衿香は視線を上げた。

背、高!!!

そこには小柄な衿香から見たら首が痛くなるような、長身の男子が立っていた。


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