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花園にて

 いつの間にか来ていた園芸部の花園の中にあるベンチで、一人衿香は頭を抱えていた。

 どうしようどうしようどうしよう。

 衿香はここ数日、自分を悩ませていたもやもやの正体を知ってしまった。

 睦月が星宮という生徒と一緒にいる時だけに発生するその黒い感情。

 それはまぎれもなく嫉妬の感情だった。

 

 つまり。

 衿香にとって、睦月がいつの間にか特別な存在になっていたという事だ。

 睦月の眼差しが、微笑みが、自分以外の女の子に向けられる事が、衿香の心をかき乱す。

 その全てを自分だけに向けてほしいと、衿香の心が叫んでいる。

 自分自身、どうする事もできない、紛れもない欲。

 衿香の記憶の奥、深く深く沈めたあの頃の感情がゆっくりと浮上してくる。

 許されないことだと分かっているからこそ、抱きしめる腕の温もりに抗えなくなってしまった淡い恋。

 あの時の、自分の感情が引き裂かれる感覚を、衿香はまざまざと思い出していた。

 初恋、というには苦しすぎた経験。

 幼い頃に出会った淡い恋は、その暴走故に衿香の心に大きな傷を残した。

 その傷から衿香が学んだのは、恋という甘い感情が生み出す感情の暴走が、いかに危険なものなのかという事だった。

 その自分が、また恋をしてしまった。

 

 封印しなければ。

 今ならまだ間に合うかもしれない。

 この想いを、自分の奥底深く、沈めてしまわなければ。

 震える手を握りしめ、衿香が強く決心したその時。


「衿香?こんなところで何をしている?」


 思いがけない人の声に、衿香は弾かれたように背後を振り返った。

 

「出雲、さん」


 そこに立っていたのはジャージ姿の出雲と二人の男子生徒だった。

 出雲はゆっくりと衿香に近付いた。

 衿香に警戒心を抱かせないよう、細心の注意を払いつつ、その頬に手を伸ばす。

 ひやりとした感触が、出雲の指先を濡らした。


「出雲でいい。どうした。泣いてたのか?」


 静かなその低い声が、乱れた衿香の心に優しく沁みていく。

 出雲はそっと衿香の足元に膝をついた。

 頬の涙を拭い去った手が、衿香の頭をゆっくりと撫でる。


「辛い事があったか?」

「大丈夫、です」


 なぜ、この人といると心が落ち着いていくんだろう。

 ゆっくりと髪を撫でる出雲の手が、覗きこむように注がれた視線が妙に心地よくて、衿香はそっと目を閉じた。


 

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