捕獲されました
あと20分。
衿香は端末を持つ手に力を込めた。
捕まったものは半数を超えたが、全員の所在は確認できている。
衿香の目指す、全員の身の安全は守れそうだ。
ほうっと息を吐いたその時だった。
ばさばさばさっ。
衿香の周りの葉が大きな音をたて、枝が大きく揺れた。
振りかえった衿香の目に飛び込んできたのは、優雅に微笑む甘え顔のイケメンだった。
「!!!?」
ななななんでこの人ここにいるの!!?
どこから現れた!?
「やあ。お手並み拝見したよ。素晴らしい統率力だった。」
「あ、え、う。」
「大丈夫。僕は生徒会だから鬼じゃないよ。」
にっこり微笑み衿香に近づく睦月。
ひいいいいいっ!!!
やめて!!
鬼じゃなくて、そのイケメンスマイルがこわい!!!
反射的に後ずさろうとして、衿香はハッと気が付いた。
ここは木の上だ。
つまり後ろは・・・。
「きゃ~~~~~っ!!」
気付いた時には真っ逆さまに落ちていた。
ぽすん。
「・・・?」
頭から落ちていたはずなのに、ぽすんってなんだ?
「天使が空から降ってきた・・・。」
耳元で聞こえる低音ボイスに開きたくない目を無理矢理開く。
「ふ、ふぎゃあ~~~!!」
現れたのはまたしてもイケメン男子。
しかも衿香は彼に抱っこされていた。
「おっと、危ない。」
衿香が暴れるのを簡単に抑え込んで、彼は極上の微笑みを浮かべた。
「新聞部にようこそ。天使さん。」
神田衿香、15才。
イケメンに捕まりました。
「あ~~。ごめんねえ。捕まっちゃったか。」
木の上から華麗に飛び降りてきた睦月がへらりと笑った。
「おや、会長。天使と知り合いか?」
「天使?ああ、ちょっとね。城ヶ崎に捕まえられるとは、僕とした事が失態だったな~。」
「どういう意味だ?」
「いや~。ところで、君さ、衿香ちゃんだったよね。」
とにかく、捕獲された事を伝えて、指示系統を立て直さないと。
頭の上で交される会話を無視して端末を操作していた衿香の顎に睦月の手がかかる。
くいっと顎を持ち上げられ、正面からキラキラビームを浴びた衿香は、視線を彷徨わせた。
「・・あ、は、はい。」
「僕の事、覚えてるよね?」
「はあ。」
答えながらも衿香の視線は睦月を避け続ける。
そんな二人を面白そうに眺める衿香を抱っこしたままの城ヶ崎。
ちゅっ。
突然、目尻に柔らかいものが触れ、衿香は目を見張った。
な、なに。いまの・・・。
そろりと視線を動かすと、睦月はにっこり笑った。
この男、またキキキキスを!!!?
「やっとこっち見たね。僕を無視するのは許さないよ。あ、そろそろ時間だね。じゃ、また。」
固まる衿香に、睦月がキラキラしい笑顔を振りまき、あっという間に走り去った。
「え、あ、な、え?」
思わず自分を抱きかかえている男子に目を向ける衿香。
彼は困ったような笑顔を返す。
「とりあえず自己紹介しようか。私は新聞部部長の城ヶ崎士信だ。よろしくな。」
「は、はい。」
「決まりだから、明日から一週間、仮入部だ。新聞部にようこそ。名前を聞いても?」
「えっと神田衿香です。よろしくお願いします。ところでそろそろ下ろしていただけませんか?」
そう、衿香はずっと城ヶ崎に抱っこされたまま、挨拶されているのだ。
少し目にかかるくらいの黒髪をさらりと流し、細いフレームの黒縁眼鏡をかけた理知的イケメン。
間近で見ると破壊力あるわ~。
しかも腹の底に響く低音ボイス。
はあ~~。
ため息をつく衿香。
その手の中の端末に指示を仰ぐメッセージが次々と寄せられていた事に彼女が気付くのは、もう少し後になってからであった。