新入部員
教室では早速、二週間後に行われる球技大会について学活が行われた。
今回の球技大会には学院の生徒も参加する。
学院の存在を知らない女子生徒も多く、しばらく学園ではその話題で持ち切りになった。
その後、情報通のもたらした学院の男子のレベルの高さに女子のテンションは急上昇した。
当初、試合は男女別の会場で行われ、行き来も出来ないことになっていたが、観覧席からの観戦だけは許されることになった。
それは一重に女子の強い要望の結果だ。
そんな華やいだ空気の中、衿香たち新聞部では全部員六名がテーブルを囲んでいた。
テーブルの上には、ついさっき生徒会からもらってきた球技大会の対戦表が乗っている。
「問題は女子の試合をどうするかだな」
城ヶ崎が眼鏡のブリッジを指で押し上げながら言った。
球技大会での新聞部の仕事は写真で記録をとる事だ。
昨年までの試合はメイン体育館で男女一緒に行われていたため、男子部員しかいなくても問題なかった。
だが、今回はメイン体育館とサブ体育館に男女が別れて試合を行う。
その女子の方の試合をどう記録するかで部員は頭を悩ませていた。
「神田だけでは無理があるだろうし、俺がサブに入ろうか」
城ヶ崎がそう言えば、副部長である白木が首を振った。
「部長は男子の方に行ってもらわないと。今回、どんな事になるか分からないのは男子のほうですから」
「うーん。確かに予測の出来ない大会ではあるがな」
「あの、部長。俺、やっぱり選手辞退しましょうか」
恐る恐るといった風に進藤が手を挙げた。
進藤はバレー部も兼任しており、今回選手にも選ばれている。
ただでさえ少ない新聞部に迷惑をかけている自覚があったのだ。
だが城ヶ崎はきっぱりと首を振った。
「やめておけ。お前が女子の記録に入ったら、痛くもない腹を探られるぞ?」
「はあ」
「まあ誰か文化部から女子を助っ人に呼ぶか」
城ヶ崎が腕組みをした時、新聞部のドアがノックされた。
ノックの返事も待たずにドアが勢いよく開く。
その向こうで自信に満ちた笑みを浮かべているのは、豪徳寺ありさだった。
「こんにちは。こちらが新聞部の部室でよろしいでしょうか」
「ここは新聞部だが、君は?」
城ヶ崎の問いかけにありさはにっこりと花のような微笑みを浮かべた。
「私は一年の豪徳寺ありさと申します。新聞部への入部を希望いたしますわ」
そう高らかに宣言したありさは、衿香の顔を見て笑みを深めた。
嫌な予感がする。
衿香の体がぶるりと震えた。
どう見ても、何か魂胆があっての入部希望だ。
だが城ヶ崎はそうか、と言って入部希望届の紙をありさに手渡した。
「これに記入して、顧問の高田先生に提出してくれ。活動は明日からだ。ここに来る時には必ず神田と同行するように」
「え?部長?」
同行?
その言葉に焦る衿香を無視して、ありさは頷く。
「わかりましたわ。じゃ、神田さん、明日からよろしくね。では失礼いたします」
「ええ、よろしくって……。あ!ちょっと」
慌てる衿香を残してありさはさっさと部室を出て行った。
「部長~。彼女と一緒に来いと仰るんですか?」
嫌そうな顔の衿香に城ヶ崎はあっさりと頷く。
「幸田からも言われているだろう?例え部室に来る時でも一人歩きは避けた方がいい。それにどうせ球技大会では一緒に行動するんだ。お互いの事を知りあっておいて損はない。だろ?」
「……彼女、睦月先輩の親衛隊の中でも積極派のトップだって、ご存知なんですか?」
「ああ、まあ噂は聞いている。だがあんなのは持って数カ月だ。神田を見ていて新聞部に入れば生徒会に接触できるとか思ったんだろうが、あの連中が彼女のようなものを近付ける訳がない。こっちとしては球技大会に役立ってもらえればそれで充分だからな」
「……」
これから二週間もありさと過ごさなくてはならないのか。
少なからず新聞部の活動に楽しみを見出している衿香にとって憂鬱な時間だ。
ため息をつく衿香の頭を城ヶ崎がポンポンと軽く叩いた。
「人心掌握術に長けたお前にとって、あんな小娘どうってことないだろう?」
「懐かれても困るだけなんですけど」
恨めしげに答える衿香に城ヶ崎が破顔した。
「お前ならなんとでも料理できるだろう。それより、大会の持ち場の確認をするぞ」
人を何だと思っているんだろう。
衿香のささやかな抵抗も虚しく、ありさの入部は決定したのだった。




