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どきどき夏祭り4

少し短めです。

 

 神社の境内にはやぐらが組まれ、大きな太鼓が据えられている。

 もう少ししたら盆踊りが始まるのだという。

 まだ人もまばらな境内の石段に座り、衿香はたこ焼きを頬張っていた。

 

「意外に美味しいんだね~」


 衿香の隣に腰かけた敦志が、焼きそばを頬張りながら感想を述べる。


「外で食べるっていうのが、またいいんだよね~」


 その反対側に腰かけた夏目も、ただでさえ細い目を細めて満足そうにつぶやく。


「なんか、どこかでよく見かけた光景だよね」


 少し離れたところに立つ信也が、衿香の周りに山積みになった大量の食べ物を見て、睦月に話しかけた。


「うん?ああ、晴可も露店に買い出しに行かせると何人分!?って量の食べ物持って帰ってきたね」

「さすがに女連れじゃ、今回はそうならなかったみたいだけど」


 晴可と雅は少し離れた所で二人の世界に浸っている。

 それを生ぬるい目で見ていた信也は睦月の反応がいつになく鈍い事に気がついた。


「どしたの?疲れてる?」

「……凄い破壊力だった」


 信也の問いかけに、睦月は遠い目をして話し始めた。




 ヨーヨー釣りのお兄さんと周囲を撃破したあと、衿香が足を止めたのは飴細工の露店だった。

 器用に飴を形作っていくおじさんに頬を染め賛嘆の声を上げる衿香は、おじさんは元より近くにいた男たちのハートをもれなく打ち抜いていた。

 次に挑戦したいと言ったスーパーボールすくいでは、一つもすくえなくて残念がる衿香に、店主がボールのぎっしり詰まった箱ごと渡そうとするのを必死で断った。

 綿菓子の露店では、ほんの少しのザラメ砂糖からふわふわの綿菓子が出来上がる工程を、目を輝かせて見入る衿香のせいで超巨大綿菓子が誕生した。

 喉が渇いたからと立ち寄ったかき氷の店は、店番がおばさんだったので安心していたのだが、ここは私が払うと言った衿香が一万円札を出し、おつりはいらないと言いだしたので危うく受け取ったばかりのかき氷を落とすところだった。(もちろんおばさんは冗談だと思ったらしく、千円札ならそうするんだけどね~と言ってちゃんとおつりを渡してくれていた。衿香は千円札と小銭を見て不思議そうな顔をしていたのだが、まさか小銭の存在を知らなかったのではないだろうか。尋ねると慌てて知ってますと答えていたけれど……)

 もちろん食べ物屋の屋台ではなぜか注文していない物まで渡され……。


「綾人さんが衿香ちゃんを連れてこない訳がわかった。色んな意味で危なすぎる」


 睦月は額に指を当て、深いため息をついた。

 本人は無意識なのだろうが、非日常の空間は衿香の警戒心まで解いてしまうものらしい。

 あの笑顔が、男心にどう作用するのか、全く理解していないところが恐ろしい。


「帰りは夏目に任せて大丈夫?」


 衿香の隣でへらへら笑う夏目を見て信也がつぶやく。

 

「まあ、大丈夫だろ。危険分子が潜んでる気配はなかったし。夏目も衿香ちゃんの本当の怖さを身を持って知る必要があるだろうからね」




 そして一時間後。

 夏目は衿香の魔力とも言える魅力を、身を持って知る事になった。

 息も絶え絶えになり、衿香の家にたどり着いた夏目は、にこやかに笑う睦月にこうつぶやいた。


「僕、真面目に修行します」


 

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