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学院

 学園始まって以来、初めての寮の完全閉鎖。

 その理由を生徒会庶務である雅は簡単に聞いていた。

 学園と同じく、人外の子息を預かる学院。

 そのシステムは学園とほぼ同じ。

 ただ一つちがうのは、学院が純血至上主義をとっており、人間の入学を認めていないということだった。


 もともと一つだった両校が、その理念の違いにより分裂して以来、全く交流のなかった両校の理事長が話し合いを行ったのが昨年の事。

 女子の生まれる確率の低い人外において、純血主義を守る事は実質不可能だった。

 限られた中での婚姻は、ただでさえ出生率の低い人外の出生率を減らし続け、学院はとうとう学校としての存続が難しい状況に追い込まれたのだ。

 とはいえ、人間を格下に見る彼らを人間の学校に放り出すわけにはいかない。

 そこで学院の理事が考えたのは、学園との合併であった。

 両校を合併させるのにあたって、理事たちは数々の融和策を打ち出した。

 試験的に学院の生徒を小中高で数名ずつ学園に受け入れたのもそうだし、夏休み後は両校の合同行事が予定されている。

 その合同行事の前段階として、夏休みに各運動部が両校の親善試合を学園で行う事になったのだ。

 

 その決定に生徒会一同は頭を抱えた。

 決定事項は理事会の仕事だが、それを運営していくのは主に生徒会の仕事なのだ。

 決して友好的とは言えない両校の生徒が、スポーツとはいえ直接対決する。

 中には度を越したぶつかり合いになる事もあるだろう。


 

 「寮を閉鎖しよう」


 睦月はすぐに決断した。

 男子生徒はともかく、女子生徒を学園の敷地内に残しておくのは危険すぎる。

 純血を誇りにする彼らにとって、人との混血を繰り返した学園の生徒は、もはや同じ人外とは言えない。

 例え、学園の中に先祖がえりと呼ばれる、純血を凌ぐ圧倒的な力を持つ者が現れようとも、彼らがその誇りを失う事はなかった。

 そんな彼らが、学園のルールを尊重するだろうか、はなはだ疑問だ。

 もし争いになったら、人間の女子などひとたまりもない。

 

 たかが親善試合でと雅は大げさに思ったが、睦月を始め生徒会役員のいつになく沈鬱な顔に、黙って頷くことしかできなかった。

 

 学院の生徒が来るのは正午。

 女子生徒は全員十時までには必ず退寮するよう言われていた。

 雅の元にも九時には晴可が迎えに来る事になっている。

 荷物をまとめ、すっかり支度ができたのは八時四十五分。

 雅は荷物を持って寮の玄関を出た。

 夏休みに残っていた女子自体が少ない上、昨日までに帰った者も多く辺りはしんと静まり返っていた。

 帰る家のない雅は、夏休みの残りは晴可の家で過ごす事になっている。

 その事に一抹の不安を覚えながら、雅はじんじんと耳を打つ蝉の声を聞いていた。


「?」


 蝉時雨の中に一瞬、聞き覚えのある高い声が聞こえたような気がして雅は首を傾げた。

 周りを見回すが、誰の姿もない。

 雅は荷物を足下に置くと、声の方に歩き出した。



 寮からそれほど離れていない、校舎の陰に男女の姿が見えた。

 あれは、だれ?

 男の方は見た事がない。

 それに対峙している女の子は、神田さん?

 二人の様子はどう見ても友好的な物ではない。

 捕食者と被捕食者。

 

「神田さん!!」


 何も考えずに雅は踏み出していた。


「来ちゃダメ!!逃げて!!雅先輩!!」


 衿香のカン高い声が響く。

 そう言われて逃げる雅ではなかった。

 

「何してるんですか?その子を離してください」


 衿香の前に立つ、背の高い男に雅は詰問した。

 目を細め、雅を見ていた男は、ふうんと整った顔に酷薄な笑みを浮かべた。




「これまた上物。さすがは学園だな」


 雅を見る出雲の目は陰惨に光り、今にも舌舐めずりしそうである。

 その顔を間近に見て、衿香の体に悪寒が走った。

 さっきまで衿香の相手をしていた出雲とは全くちがう。

 衿香の頭の中に警鐘が鳴り響く。


「ちょっ!!出雲!!あんたの相手は私でしょ!?」


 雅に向かって一歩踏み出す出雲の腕を、慌てて衿香は両手で引きとめた。

 この男を雅に近付けてはダメだと、本能が囁く。

 うん?と出雲は腕にすがりつく衿香の存在を思い出したように視線を下げた。


「お前の相手は後でゆっくりしてやるから、大人しくしてろ」


 出雲が衿香の頭をポンポンと叩き、おもむろに腕を一振りした。


「ひゃっ!!」

「神田さん!!」


 出雲の軽い一振りで、衿香の体がポーンと遠くに飛ばされたのを見て、雅が悲鳴を上げる。


「お前の相手は俺だ」


 衿香に走り寄ろうとした雅の目の前に、一瞬で出雲が移動し、その腕をとる。

 速い!

 雅が身を捩る前に、出雲の手が彼女の腰を捕えた。

 

「ふーん。お前もマーキング済みか。それもまあ念入りに」


 耳元に囁かれるような声に、雅は体を固くする。


「私に手出ししない方が身のためよ」


 下手な抵抗は相手を煽ると知っている雅は冷静に警告する。


「俺を誰だと思ってんの?学院の出雲だよ」


 出雲の手が雅の顎にかかり、その顔を上向ける。

 睨みつける雅の目を覗きこんだ出雲が満足そうに微笑む。


「上等だな」


 その時。

 二つの影が、空を切って踊りこんだ。

 


 


 

 

今回説明が多くてすみません。

学院との事、上手く伝わったでしょうか(^_^;)

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