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告白

「衿香ちゃんが助けてあげたいなら、助けてあげればいい。その事によって、自分の何かが救われるならそうすればいい。いずれ僕たちも会社のため、社会のため、心を鬼にしなければならない事もあるだろう。けど、僕たちはまだ学生なんだ。学生である僕たちの心を犠牲にしなければ成り立たない会社なんて、先は見えている。神田はそんな会社なのか?十五歳の女の子の心を犠牲にしなければ潰れてしまう、その程度の会社なのか?」

「そんな事!!」


 睦月の言葉に衿香は思わず大きな声を出した。

 そんな衿香に睦月は静かに微笑みかける。


「確かに僕たちは色んなものを背負っている。けど、それと同時に大事にしなければならない、自分というものも持っているんだ。自分を殺せば責任を果たす事なんて出来ない。今の衿香ちゃんのように自分の気持ちに蓋をして、見たくないものから目を逸らしながら、自分の実力を発揮する事なんか出来ないんだよ?」

「……」


 衿香は目を伏せた。

 睦月の言っている事は正論だ。

 けれど、今自分の置かれている立場では、こうする事が最善なのだ。

 目を逸らす衿香を睦月は困った顔で見つめる。


「まだ納得できない?」

「私は小さい時から会社のために生きなさいと言われて育ったの。お父様の言う通りにしていれば安心だからと。それなのに、父の指示に従わず、自分の心の求めるままに生きるなんてできない」


 その教えに従わなかったのは唯一あの時だけ。

 自分の心も求めるままに行動した結果、自分はどうなった?

 衿香は唇を噛みしめる。


「じゃ、仕方ないな」

「え?」


 不意に両手が軽くなる。

 なぜか睦月の手が衿香の両手を持ち上げていた。

 あんなに開いていた二人の間が、いつの間にか詰められていた事に衿香は愕然とする。


「衿香ちゃん、君はもう、学園での目的を達成しているよ?」

「え?え?え?」


 にっこり、破壊力抜群のイケメンの笑顔に、衿香は思わず体を引く。

 が、両手はガッチリ固定されていて、逃げる事は出来ない。

 やばい。

 話を逸らせたつもりだったのに、いつの間にこんな事になった!?

 衿香の顔が引きつった。


「お父上の指示は学園で最上の男を捕まえる事。そうだよね?」

「え?ええ」

「僕は学園で一番優秀な男だ」

「え、と?」

「僕の父は外務省の官僚で、各国との太いパイプを持っている。しかも僕に継ぐべき会社はない。もちろん官僚になってもいいけど、神田を継いでくれと言われれば何の問題もない」

「あの、先輩?」

「いい加減、逃げるのは止めにしよう?」

「あの、近……」

「僕は衿香ちゃんの事を本気で好きだ。そろそろ自覚して?」

「せ……」


 なに?好き?

 衿香は一瞬息を止め、固まった。

 それまでの発言にも突っ込みたい所は沢山あった。

 けれど、それが全て吹っ飛んでしまうような事を、このイケメンは言わなかっただろうか?

 だが彼は衿香が現実逃避する事を許さなかった。


「聞いてる?衿香ちゃん。僕は君の事が好きだ。他の誰に渡すつもりもない。だから、人気ランキングの投票を妨害した。それが衿香ちゃんのランキングに入っていない理由」

「な、な、な、なぜ」

「ん?」

「なぜ、私の事が好きだなんて事……」


 呆然とつぶやく衿香に、睦月はとっておきの甘い笑顔を見せる。


「一目惚れ、かな。桜の下にいた君を見た時から、僕は君に恋をしていた」

「……さむっ」

「こらこら。人の一世一代の告白を茶化すんじゃない」

「告白!?」


 なんとか冗談で終わらせようとする衿香だったが、睦月はそれを笑顔で瞬殺する。


「返事は待つよ。衿香ちゃんがきちんと僕の気持ちを受け止めて、考えてくれたらいい。けど、うやむやにだけはしないでほしい」

「先輩……」


 どうしてもなかった事にしてくれそうにない睦月に、衿香の顔が苦しそうに歪む。


「分かってる。そんな事言われても衿香ちゃんは苦しいだけだろう?でも、僕は君に知ってもらいたい。衿香ちゃんは充分魅力的な女の子だ。その魅力が通じるのは女の子相手だけだと思い込んでいるようだけど、そんな事はない。僕がどれだけ虫退治に苦労したことか」

「でも私……」

「ごめん。僕は知ってるんだ。衿香ちゃんが男嫌いになった理由」


 今度こそ、本当に息が止まるかと思った。

 衿香は目を見開いて目の前のイケメンの顔を凝視する。

 体中の血が一気に駆け巡り、頭の中でぐわんぐわんと大きな音を立てていた。





 



衿香、大打撃です。

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